2017年7月1日

モデル・俳優 栗原類「お母さんたちも自分の時間を大切にしてほしい」

笑わない子がコメディ番組に出会って

――やはり俳優のお仕事が、ご自分の中では一番大きな目標ですか。

 元々好きだったお笑いやコメディ、「サウスパーク」や「トムとジェリー」とかも全部アメリカ生まれで、本当に好きなものを作ってくれた国、しかも自分が育った国なので、アメリカで役者を、そこはもう大きな目標ではありますね。
 僕は小学校に入学するまでは、笑いに関する情緒がなかったんですが、担任のサンドラは僕が笑うことを悪いと思う節があるようだと心配して、「1回でもいいからそういうお笑い番組、下品な番組を観てほしい、絶対変わると思います」と、笑いの素晴らしさを熱弁していました。日本の学校の先生が、三者面談とかで僕みたいな子に「ぜひギャグアニメでも観せてあげてください」って言ったら、それこそきっと「余計なお世話」と思われますよね。母親と僕も半信半疑でしたが試してみることにして、そのときに流行っていたのは「ファミリー・ガイ」と「シンプソンズ」だったんですけど、母親の友人から「まだそこまで流行ってないけど面白いよ」と薦められたのが「サウスパーク」。
「サウスパーク」もかなりブラックユーモアがあったんですけど、僕の母親のロジックとしては、多少のブラックユーモアはOK。ただ動物が虐待されるシーンとかは絶対に許されないものだと、そういうポリシーでした。

――そこでコメディ番組に目覚め、お芝居の面白さを知ったことが、俳優をめざすきっかけになったそうですが、栗原さんにとってモデルと俳優のお仕事の違いは?

 モデルの仕事は、一枚の紙や映像、スチールの画像でどのような表現力があるか、どのような印象を持てるのかが面白い感じがあるんですね。いつもは着ないような服や、しないようなことを写真に収めてみるとどんな感じになるのか、その作っている過程を見るのも楽しいです。
 演技に関しては、普段解放できない自分、日常ではしないようなことをする自分になりきること、自分の中に眠ってる真逆な自分、本来はならない自分になれる。そこを表現するのが大きな楽しみだと思います。

ADDであろうがなかろうが、自分は自分

――著書の中で、「目が悪い子がメガネをかけるように、発達障害の子にはタブレットやスマホを活用させてほしい」という一節に、はっとさせられました。

 そうですね。僕の場合は特に手先が不器用だったので、授業で辞書を使う際、辞書というすごく分厚い本で特定の単語を探すことにとても苦労しますし、下手すれば3倍くらい遅くなってしまうと思うんですよ。家では電子辞書を使っていたのですが、学校ではダメだと言われたんです。「みんなと同じ条件でやらないとフェアじゃない」と。でもそれこそ目が不自由な子にメガネを認めたり、教室の前の方に座らせることをよしとするなら、発達障害の子には電子辞書もOKにしないとフェアじゃないと思います。ものすごく小さい単語がずらっと並ぶ中で、ある単語を見つけなきゃいけないのは、すごい悪夢のようなことなんです、そういう子たちにとっては。
 みんなと同じ条件にするのだけがフェアなのではなくて、みんなと同じペースで進むこともすごく重要だと思うんですよ。同じ条件でやらないと意味がないとする日本のこの考え方は、本当に変えてほしい。課題をクリアするためだったら他の人たちと対等に学べるような手段、勉強方法は認めてほしいと願っています。

――前書きで「発達障害は、脳のクセです」とも書かれていますが、その考えは最初から持てたものですか。

 「脳のクセ」と自覚したのは、自分が発達障害だと認識し始めた中学生の頃ですが、それでも危機感を持つことがなかなかできなかったので、すごく苦労はしました。記憶力が弱いので、なんでもかんでも寝たら翌日には忘れてしまうので。でも、主治医の先生や母親が外付けハードディスクのような感じで、すべて細かく覚えていてくれて、僕が何をどう失敗したか、また同じミスを起こさないように助言してくれたりするので、ここまでこられたんじゃないかなと思います。

――今は、ADDであるご自分をどのようにとらえていらっしゃいますか?

 そうですね、たとえADDであろうがなかろうが、自分は自分というのは本当に昔から貫いていましたし。僕が発達障害だと知ったからといって、笑うのはやめてほしいとは思ってなくて。「あさイチ」で自分がADDだと話す前のように、本当に今まで通りに見てくれることが理想ではあるんですよね。「笑っていいとも!」で僕が江頭2:50さんの物真似をしたら、いろんな人たちがすごく笑ってくれましたが、今後も遠慮しないで、笑えると思ったなら笑ってほしいと思います。それが僕自身に対して笑ってるんだろうが、僕と共に笑ってるんだろうが、本当に、笑ってくれるんなら僕はそれでうれしいんです。

――記憶力の弱さや、外界からの刺激に弱く脳が疲れやすいことなどを、今の事務所に入るときも何度も話し合われたそうですね。

 一時期、4つの作品を同時進行で行っていて、要は4つの役を切り替えしなきゃいけなかったんですけど、そのときはもう本当オーバーロードになって、自分の脳が回らなくなっていました。で、テレビにしろ舞台や映画にしろ、出るのは自分なので、ダウンしたり、番組の本番中にミスしたら結果的に損するのは自分。その限度がわかって、今の事務所はなるべく仕事の調整をしてくれるようになりました。
 お芝居に関してはやっぱりまだ下手なので、「下手だからこそやるのは1本だけにしたい。その1本にちゃんと全力を捧げたいので」とお願いしています。捧げることによって生まれてくるものというのは、全然違うと思います。市村正親さんのインタビューで「毎日が初日、毎回オーディションのような気持ちで全力でやらないとダメ」という言葉がありましたが、それに僕はすごい感動して。本当に、ひとつひとつの作品に常に100%で向き合わないとダメだという思いが、改めて強く心に残るようになりました。

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