
又吉直樹さん「『ぐりとぐら』が好きすぎて、コントにしたことがあります」
お笑い芸人であり、作家としても活動する又吉直樹さん。イラストレーターのたなかみさきさんとコラボした最新書籍『失恋カルタ』は、その名の通り“失恋”をテーマにした一冊です。今作のユニークな発想の原点や、ご自身の体験を踏まえた本との付き合い方などをたっぷりお話しいただきました。幼少期の思い出の絵本について思い返していただくと、驚きのエピソードも!
うまくいかないからこそ、
人間味を感じる
――『失恋カルタ』はもともと、ご自身の朗読会のために作られたとのこと。失恋を題材にしようと思われたきっかけを教えてください。
日々、何かしら作ったり書いたりしてるので、自分が思いつきそうなことはもうほぼ全部書いてきたんですけど、“失恋”というものには割と自分の中で強い関心があって。失恋は多くの人が体験することではあるけど、もうちょっと楽しく昇華できたらと考えたんです。失恋した直後は難しいかもしれないけど、時間が経ったら笑える…みたいな、そういうものを作れないかなと。
――なぜ失恋に惹かれるのでしょう?
失恋をした=どこかでうまくいかない何かがあった、ということなので、そこに僕は、人間のおもろさみたいなものを感じます。例えば、誰かの成功体験とか、誰かと誰かが恋愛でうまくいったって話を聞いたときには、「なるほど、その手があったか」って思うことはあんまりないんですよね。でも、誰かが失敗した話は、それをおもしろがってるわけじゃないんですけど、感情移入してしまう。こうやったらうまくいくってわかってるのに、それができないところに人間味を感じたり、その愚かさみたいな部分に魅力を感じます。

――『失恋カルタ』には、少なからずご自身の経験が反映されていますか?
そうですね。『失恋カルタ』はなぜか女性視点で書いてるんですけど、自分のダメなところ、言われたくないことを考えていった気はしています。ただ、僕がお付き合いした人は優しい人が多くて、傷つくようなことをハッキリと言われたことはあんまりないんです。なので、“僕がもし僕と付き合ってたとしたら、こういうふうに言うかもな”ってことを書きました。自分の”体験”というよりは、“体感”みたいな感じですかね。
――お気に入りの句はありますか?
「(の)飲んで本音言ったら全部終わった」とかね。あとは、「(に)苦手な人いたよ、あなたの友達で……」とかも。僕は恋愛のこと全然わかんないですけど、なんとなく相手と自分の感覚をすり合わせて、ルールみたいなものを作っていくじゃないですか。それで別れてしまったときに、「なんかちょっとがんばりすぎてたな」って思うことがあるんじゃないかなって思います。


又吉さんがお気に入りにあげた読み句の絵札(『失恋カルタ』より)
――たなかみさきさんの絵とも相性がよく、とても素敵です。たなかさんとはどのように出会ったのですか?
いつかホンマにカルタにしたいなと思ったときに、僕は絵が描けないので、いろんな人に相談しているなかで「たかみさきさんがおもしろい」と聞いたんです。それで、たなかさんの本を買って読んだら、ほぼ『失恋カルタ』みたいなことをしてて。完璧やん!と思って、当時のマネージャーと一緒にたなかさんの作品展に伺って、ご挨拶しました。
――今回は、おふたりでご相談されながら進めたんですか?
正直、事前にお会いしたのは僕がマネージャーと会いに行ったのと、もう1回どっかで打ち合わせしたぐらいで、「こういう構図で描いてほしい」とかも一切言ってないんです。たなかさんの発想ですごくおもしろくしてくれてるんです。すごいですよね。

『失恋カルタ』の発売を記念した、たなかみさきさんとのトークショーの様子
「本っておもんないな…」に
ならないために
――作家活動をされている又吉さんは、過去にはヨシタケシンスケさんとの共著を発表されたりもしています。子どもと本の付き合い方、本に触れることの大切さをどのように考えていらっしゃいますか?

僕は子どもの頃、親に「勉強のために本を読みなさい」みたいなことは言われなかったんですよね。そもそも家に本もなかったので、自分から図書館とかに行って勝手に読み始めた感じでした。だから難しいですよね。僕みたいに、家に本がなくてもめっちゃ好きになるパターンもあるし。「〇歳の子どもはこれを読んだらいい」とか年齢別におすすめされたりもしますけど、成長の速度も人それぞれじゃないですか。そこがずれたら、本がすごくおもんないものに感じられることもあると思うんですよね。
だって僕、小学校に入ったころに国語の教科書で「蝶々が空を飛んでいます」みたいな文を読んだとき、「何がおもろいねん、これ」って思ってましたもん(笑)。それで1回興味を失いかけて「本っておもんないな」って思っちゃったんですけど、3年生ぐらいになったときに興味本位で国語の教科書を読んだら、1年生のときとは全然違う、シリアスな話とかが載り始めてたんですよ。「めっちゃおもろいやん!」と思って、4つ上と3つ上の姉の教科書も読みました。ちょっと難しいけど、おもしろかったですね。
あまりにも年齢に合わせすぎた読書体験を、大人が自分本位に操ろうとすると、失敗することもあると思います。だから10冊ぐらい難易度もバラバラの本を用意して、自由に「読みたいやつ読め!」ってするのがいいんじゃないですか? まずは本と自分自身の信頼関係をどう結ぶかっていうのが、すごく重要やと思うんです。この世界にはおもしろいものってほかになんぼでもあるので、「読書おもんない」ってなってしまったら、もう戻ってこないと思います。

お気に入りの絵本を
ひとりで読む時間が好きだった
――自主的に本を読み始めた又吉さんが、どんなお子さんだったかお聞きしたいです!
大人になってから、奈良で講演会をしたことがあるんですよ。ほんなら、いちばん前に座ってたおばあちゃんが挙手して。「どうしたんですか?」ってマイクを渡したら、「私は何年から何年まで、大阪府寝屋川市の〇〇保育所というところで保育士をしてました。そのときに、又吉くんも担当してました」って。僕がちっちゃいときの先生が会いに来てくれたんですよ。
「直樹くんが好きだった本を、今から発表します。『ぐりとぐら』!『おしいれのぼうけん』!」って言い始めて、「うわ、たしかにホンマに読んでたやつや!」と思いました。先生が絵本の読み聞かせをすると、ほかの子たちは「おもしろい!」って騒いだりするけど、僕はいっつもいちばん前で真剣に聞いて、読み終わったあとに必ず先生のところに行って、「あんときあいつがあそこ行ってなかったら、どうなってたん?」とか「これ、手袋穴開いてなかったらどうするん?」とか、書いてないことをめっちゃ聞いてきたらしいです(笑)。それがすごく楽しみやったって、先生は言ってくれました。うれしかったですね。その日先生は、僕より拍手もらってました。
――素敵な先生です(笑)。『ぐりとぐら』にはどんな思い出がありますか?

『ぐりとぐら』 なかがわりえこ/作 おおむらゆりこ/絵 福音館書店 1320円
『ぐりとぐら』は人気で、みんな取り合いでした。僕は母が看護師やったから、だいたい最後まで保育所に残ってたんです。だから、母が迎えに来るまでの間が僕の読書タイム。そのときに大好きな『ぐりとぐら』も、ひとりでゆっくり読んでましたね。
――いつも取り合いになる絵本を、ひとり占めできたんですね!
特に僕が心を持っていかれたのは、最後のページです。卵の殻に車輪がついてるっていう。「えっ!? めっちゃ楽しそう!」みたいな。なんていうかもう…たまらなかったです(笑)。

そういえば僕、『ぐりとぐら』が好きすぎて、平成ノブシコブシの吉村(崇)くんとコントをやったことあるんです。僕がぐりで、吉村くんがぐら。ぐりはひさびさに会いに来てくれたぐらと遊ぶんですけど、気がついたらふだんの自分の生活に戻っているという内容で、”リアリズムとぐりとぐら”みたいなテーマでした。ぐらと手を繋いでいたはずが、スウェット着てゴミ袋を持って立ってるだけの自分やった、という……。
しかも、そのライブにはたまたま福音館書店の人が来てて、名刺を渡されてビックリしました。怒られなくてよかった(笑)。

又吉直樹
またよしなおき/お笑い芸人、小説家。1980年生まれ、大阪府出身。2003年に綾部祐二とお笑いコンビ『ピース』を結成。2015年に小説デビュー作『火花』で第153 回芥川賞を受賞。著書に『劇場』『人間』『生きとるわ』などがある。
INFORMATION

『失恋カルタ』
文/又吉直樹 絵/たなかみさき
Gakken 1650円
お笑い芸人で芥川賞作家のピース・又吉直樹と、人気イラストレーターのたなかみさきによる初めての共著。カルタの絵札・読み札がページを鮮やかに彩り、加えてふたりの共作ミニまんが、又吉直樹による書き下ろしショートストーリーも収録。
インタビュー/二ッ屋絢子 撮影/黒澤義教





































