【ロングインタビュー】テレビ局員・マンガ家 真船佳奈さん「仕事もマンガも子育ても、私の人生『正しい母』よりも『なりたい母』に」・後編
ユニークかつまっすぐな視点で自分自身の子育て体験を描いたエッセイマンガが注目を集める真船佳奈さん。2025年には子育てにまつわる注目のトレンドを表彰する「ペアレンティングアワード」を受賞しました。働くお母さんとして多忙ながらも充実した日々を送る真船さんが目指す、理想のお母さん像とは? 本誌の貴重なロングインタビューを全編公開。
後編は、真船さんご自身の子育てについてなどお届けします。

何とか乗り越えられるのは
家族のサポートあってこそ
――家事や育児、会社、マンガ家と、かなりハードな毎日を過ごされています。どのように時間をやりくりしているのでしょうか。
今はプロモーション部というところでデスクワーク中心の仕事をしているんですが、例えば在宅勤務の日なら、子どもを保育園に送ったら始業時間まではマンガの執筆、会社の仕事が夕方に終わって、子どものお迎えの時間まではまたマンガを描いてという感じです。
今、息子は3歳なんですが、ときどきはシッターさんにお願いすることもありますし、マンガの締切前などの「どうしても乗り切れない!」というときには、母に頼ることもたびたびなんです。土日は母と祖母が暮らす家に泊まりに行って、息子のお世話をしてもらって、私はマンガに集中させてもらうこともあります。
――お母さまの強力なバックアップがありがたいですね。
読者の方に「仕事もマンガも、家のことも、全部頑張っていてすごい!」と言っていただくことがありますが、全くそんなことはないんです。自分だけじゃやっていけていないし、周りに頼りっぱなしなんです。
夫も仕事でかなり忙しくしていますが、息子ラブなんですよ。息子のお世話は夫ひとりに安心して任せられるし、料理が得意なこともあって、息子においしいものを食べさせたい一心で料理を作り置きしてくれたりします。
――夫婦の協力体制は万全ですね。
うちには暗黙のルールがあって、それはどちらかひとりだけで子どもの面倒を見ているときは相手のやり方に任せるということなんです。介入するとケンカの元になっちゃうので。たとえ私がおやつに袋ごとちくわを息子に渡していようが(笑)、夫は何も言わないですし、夫と息子がふたりで出掛けたときに内緒で普段はやらないようなことをしていたとしても口出しはしないって決めているんです。
――ご夫婦の子育ての方針はありますか?
息子が好きなことを見つけたら、その「好き」に向かって突き進んでほしい。そのために、私たちにできることは全力でやる。方針はこれだけなんです。
近頃の息子のブームは恐竜で、恐竜の博物館に連れて行ったり、家でもしょっちゅう一緒に図鑑やDVDを見たりしているんです。親である私たちも息子の世界にたっぷりと浸って、好きな気持ちを伸ばしてあげられるようにとことんサポートしてあげたいんです。
――真船さんが子どもの頃、「技術の習得よりも好きな気持ちを大切にしたい」と、絵画教室に通わせてくれたお母さまの姿勢に重なりますね。
確かに。母にしてもらったことと似ていますね。
子育てのことは誰だって
本音の部分が知りたいはず
――会社のお仕事をして、マンガも描いてと、出産される前から仕事に打ち込んできましたが、不安はありませんでしたか?
いつかは子どもができたらという思いのほうが不安よりも強かったんです。子育てと仕事の両立は大変だとは聞いていたけれど、会社にはお子さんを育てながらバリバリと活躍している女性の先輩がたくさんいましたし、「まあ、なんとかなるでしょ!」って思っていました。実際に産んでみたらなんともなっていませんけれど……。
誰もが通る道だと思いますけれど、妊娠出産から今に至るまで「聞いてないぞ!?」の連続で。「子どもって、こんなにしょっちゅう熱を出すんだ」とか、ひとつ越えたと思ったら、また次が来るという感じですよね。
――育児はどれだけ事前準備していても、想定外のことばかり。真船さんの子育てエッセイマンガには、リアルすぎるエピソードがいくつも登場します。
それはもう、正直に描きました。実は、妊娠中や出産のときの本音を描くたびに「これから子どもを産もうとしているお母さんが怖がってしまうのでは?」という意見をいただいたことがあったんです。出産のときの痛さを「まあまあ、すぐ終わるから大丈夫だよ」「生まれた子どもの顔を見たらころりと忘れちゃうからさ」なんて、上の世代の人たちがなんとなくぼかして話すのは、本当はとんでもなく痛いから怖がらせないためなのかもしれない(笑)。
妊娠中も、息子が生まれてからも、楽しいことや嬉しいことはたくさんあるけれど、お母さんの日常生活って、それだけじゃないですよね。キラキラしたところを抽出してマンガにすれば炎上はしないだろうけれど、私自身が子どもを持つことを考え始めた頃、本当のことを知っておきたいという気持ちがあったんですよ。だからどんなにしんどいことがあっても「いつか絶対にマンガに描いてやる!」って思っていました。
――ご自身がお母さんになってみて、感じたことは?
思っていたよりも自分は「お母さんとしての重圧」を感じてしまうタイプなんだなと思いました。
――「母としてこうあるべき」というイメージに引っ張られてしまったのでしょうか。
令和になってから、いろいろなところで多様性というキーワードが言われるようになっていたし、私みたいに自分が好きなことをしながら子育てをするという選択肢があってもいいんじゃないかと思っていたんです。だけど、昔ながらの子育て観とか、外からの意見と板挟みになって苦しくなってしまうときもあって。子どもがいてもキャリアをあきらめず、自分が好きな仕事を続けてもいいよと言ってもらえる時代になった反面、変わらない世間の価値観もあるのかな、と。私の生き方も働き方も、うちの母は応援してくれているけれど、母と同世代の方からすれば「子どもを他の人に預けてまでお母さんがやりたいことやるなんて」と、言いたくなるかもしれないし。
――若いお母さんへの見えないプレッシャーは根強くあります。
本当に。「家庭と仕事を両立するって、自分で決めたんでしょう?」みたいに、結局はお母さんひとりの頑張りに委ねられてしまうというか。そうなんだけど、やっぱり大変だよ、つらいよって、お母さんたちはいろいろな気持ちを抱えていると思うんです。
例えば、私はマンガにシッターさんに息子をお願いすることも描いていますが、利用する人はまだ多くないと思うんです。忙しい、休みたいって思い続けてしまうより、週に一度でもリフレッシュできたほうが絶対にいい。「シッターさんにお願いしてもいいんだよ」っていうことを知ってほしくて描いているところはありますね。
「私は私、これでいい」と
誰もが思えるようになれば

『正しいお母さんってなんですか!?』より
――『正しいお母さんってなんですか!?』では、子育ての迷いや葛藤を経た真船さんが「自分がなりたいお母さんになろう」と心に決める場面がありました。それはどんなお母さんなのでしょう。
お母さんになっても自分が好きなことをやり続けること。息子は本当にいとおしい存在だし、あれこれ気にかけてついつい世話を焼きたくなってしまうんですが、私が何かに打ち込んでいる姿を見て学んでくれることもあるんじゃないかなと思っているんです。私は、息子のお母さんでいられることが楽しいけれど、お母さんじゃない時間も同じくらい楽しいんです。
そんなふうに思ったきっかけが夫の家族なんです。はじめて実家に行かせてもらったとき、家族写真を見せてもらったんですけれど、義理の両親もきょうだいも、それぞれが自分の仕事や趣味にまつわる衣装を着て全員が笑って写っているという、なんとも楽しげな写真だったんです。義理の両親も、いわゆる父親然、母親然としていなくて、ひとりひとりが自分の世界を持っていて。興味の方向性はバラバラなんだけれど、でも、家族としてお互いが尊重し合っていて。私の理想の家族像って、こういう家族だなあって思いました。
――真船さんなら、やはりマンガでしょうか。
はい。今は仕事になっちゃっていますが、マンガが本当に好きなんですよ。私ぐらいの年齢になると、会社では大きな仕事も任せてもらえるようになると思うんです。そのぶん気持ちに余裕ができて「新しいことを勉強したい」「趣味をきわめて資格を取りたい」とか、次にやってみたいことを考えるようになることがあるんじゃないかな。子どもとの時間は大切にしつつ、周りに頼れるところは頼りつつも、お母さん自身が自分のために何かに打ち込んだり、頑張ったりする選択肢が当たり前になったらいいなと思っています。
――夢中になれることがあれば、心のよりどころにもなります。
小学校に入れば「小1の壁」があるだろうし、中学生になったらグレちゃうかもしれない。そのたびに息子と真正面から向き合って、その気持ちを受け止めて支えていきたい。子どもが大きくなるにつれて想定外の出来事はたくさんあるだろうけれど、お母さんとしてだけの私だけじゃなく、マンガという素の自分でいられるものを持っているから、何があっても大丈夫って前向きになれるんです。なんというか、自分の中にお母さんという柱、マンガという柱の2本を持っている感じです。
「大好きな推しがいる」「ピアノを弾きたい」とか、柱は何でもいいと思うし、何本あってもいい。「周りからどんなふうに思われるんだろう?」「本当に子どもを預けてまでやりたいこと?」って、思ってしまうかもしれませんが、それはお母さん自身が自分にプレッシャーをかけているだけのこともあるんじゃないかな。今はまだないなら「これから見つけるぞ!」って、面白がるぐらいのスタンスでいくのもいいですよね。
――誰だって「ちゃんとしたお母さん」ではなく、「自分がなりたいお母さん」になっていい。
そう思っています。私だって、今でもどこで何を言われているかわかりませんけどね(笑)。でも、これは私の人生だから。息子には息子の人生が待っているんだし、これからもずっと家族みんなで自分らしく過ごしていけたらって思っているんです。

INFORMATION

『正しいお母さんってなんですか!?
「ちゃんとしなきゃ」が止まらない!
今日も子育て迷走中』
真船佳奈/著 幻冬舎 1430 円
令和の子育てはハードモード! ちゃんとした育児を目指すも大迷走、やらかしながら見つけた「自分らしい子育て」とは? 出産から職場復帰するまでを描いた共感必至のエッセイマンガ。

『さよなら!行き当たりばったり人生!
~お金管理も家事も全部ニガテな主婦の生まれ変わり奮闘記~』
真船佳奈/著 KADOKAWA 1650円
お金の管理も料理も掃除も苦手、でも、本当にこのままでいいの? ダメダメ主婦にもできるノウハウをマンガとコラムで大公開。各界で活躍するプロのノウハウが満載です。
真船佳奈
まふねかな/1989年福島県郡山市生まれ。大学卒業後の2012年、テレビ東京に入社。2017年にテレビの制作現場のエピソードを描いた『オンエアできない! ~女ADまふねこ(23)、テレビ番組つくってます~』(朝日新聞出版)でマンガ家デビュー。テレビ局の業務と兼業しながらマンガ家として活動し、数々の著書を発表している。
インタビュー/菅原淳子 撮影/大森忠明 ヘアメイク/片岡順子(kodomoe2026年4月号掲載)



































