【ロングインタビュー】小説家・辻堂ゆめさん。究極の夢は「お母さんになること」育児の不安よりも楽しみが大きくて・後編
東大卒の頭脳派ミステリ作家として数々の作品を生み出してきた辻堂ゆめさん。若手作家として注目を集める一方、その素顔は3児のママでもあります。大の子ども好きで、小さい頃からお母さんになりたかったのだとか。作家として多忙な日々を送りながらも、無理なく自然体でお子さんと向き合う辻堂さんにお話を伺いました。kodomoe webでは貴重なインタビューを全編公開。後編をお届けします。
前編はこちら 【ロングインタビュー】小説家・辻堂ゆめさん。自分の機嫌をぶつけない、都合を子どもに押しつけない、母のスタンスが子育ての指針・前編

大学4年で作家デビュー
会社勤めと執筆活動を両立
――高校2年で帰国しましたが、日本の生活は、いかがでしたか?
日本の高校に通えることがすごく楽しみで、ワクワクして帰国したんです。でも、最初の3か月くらいで「自分、浮いちゃってるな」と思うことが何度もあって。高校デビューじゃないですけれど、取り返せないまま、卒業を迎えてしまいましたね。大学受験が近かったので、周りに追いつこうと勉強は必死でしていました。小説は楽しみとしてゆるゆると書いていましたが、読書は続きが気になってしまうので、受験が一段落するまでは読まないと決めて。
――熱心に学業に取り組んでいたのですね。その結果、東京大学に進学されました。
高校の先生に「この成績なら東大を目指せる」と言ってもらえて、両親も「それなら頑張ってみてほしい」と。本当に、勉強は好きではないんです。でも、先生や両親からの期待に応えたくて、なんとか頑張れたという感じです。
――その頃は、将来はどんな仕事をしたいと思っていましたか?
小説家は頑張れば必ずなれる職業ではないですし、子ども好きは変わらなかったので、教育にかかわる仕事に就きたいと思っていました。東大を目指すことになったのも、「教員は40人の生徒しか相手にできないけれど、文部科学省は日本中の子どもたちをサポートできる」と先生や両親に教えてもらい、「それは素晴らしい!」と、国家公務員を目指すことにしたからです。
確かにやりがいがあるのですが、大学に入ってから改めて将来を考えたとき、「私が本当にやりたかったことは、子どもたちと直接向き合うことじゃなかったっけ?」と、思い直すようになって。大学2年のときに「具体的にやりたいことを考えないまま、ここまで来てしまった」と、後悔しました。
――在学中に小説家デビューを果たしましたが。
ちょうど同じ頃、また小説を書きたくなって、のちのデビュー作になった『いなくなった私へ』(宝島社)の作品のプロットを作ったんです。でも、途中で中だるみしてしまって、そのときは仕上げることができなくて。それから1年以上経って、就職活動が終わってからプロットを見直したら、内容を覚えていなかったものだから客観的に読めたんですよね。「もしかしたら、この作品は面白いのかも!?」と思えて、やっと最後まで書き上げて新人展に応募しました。まさかデビューが決まるとは思っていなくて、内定先の企業に相談して副業扱いにしていただき、社会人生活のスタートと同時に作家活動に入りました。
――就職してすぐに二足のわらじだったのですね。
受賞後の第一作は入社式の日に書き始めたことは覚えています。「会社の仕事と執筆活動、どちらもやるのが私の社会人生活なんだ」と決めて。我ながら「ストイックすぎるだろう!」とは思うんですけれど(笑)。兼業生活を4年くらい続けて、結婚と同じ年に会社を退職したんです。
「察してほしい」はアウト
悩みは共有が我が家のルール

――ご主人は同じ会社の同期だったそうですね。
はい、夫とは25歳で結婚しました。私自身も3人きょうだいですし、子どもがたくさんほしくて。それなら結婚は早いほうがいいだろう、と。私、究極の夢は「お母さんになること」だったんです。
――今では3人のお子さんに囲まれて、夢がかないましたね。
夫はまさか自分が3人のパパになるとは思っていなかったみたいです。でも夫婦って、一緒にいるうちにだんだん考え方が似てくるのかな? 2人目が生まれると「子どもはたくさんいると楽しい」という思うようになったらしく、今では「子どもは5人でも6人でもいい!」って言っています。逆に私のほうが「いやいや、さすがに6人は多いんじゃない!?」みたいな感じになっていて。
――『ミステリ作家、母になる』では、子育て中ならではのハプニングは巻き起こるものの、辻堂さんの大らかさを感じました。何が起きてもどっしりと構えている雰囲気があって「こんな考え方もあるんだ」と思えるような。
その本の担当編集さんも子育て真っ最中なのですが、私の原稿を読んで「自分は子育てで落ち込むことが多い。辻堂さんも悩みをエッセイに書いてみては?」というアドバイスをもらったことがあったんです。それもそうだなと考えてみたんですけれど、変な話、これといったものが浮かばなくて。
日々ドタバタしていることは間違いないんです。ただ、私が大雑把な性格なもので、ほかのお母さんだったら慌てるようなことも、私が気づいてないだけの可能性はありますね……。
――お母さんたちはきっと、辻堂さんのような心持ちで過ごしたいと思います。
ひとつあげるとすれば、小さい頃に年下の子どもたちと遊んでいたまとめ役だった頃の自分でいるのかも。「そこのふたり、ケンカしない!」みたいに、母親は仕切り屋さんであるべきなので(笑)。
とはいえ、家庭と仕事の両立については、さすがに私も負担を感じることはありました。
――どのようにして解決したのでしょう。
以前は気になることがあっても、夫も私もお互いに遠慮して言えなくて、「実はあのとき、こんなふうに思っていた」と、あとから噴出することが多かったんです。それで、夫婦の間で「気になることがあれば遠慮なく言おう、それに対して解決策を出そう」という協定を結んだんです。解決できるまで話し合って、ToDoリストに落とし込むところまでやっていて。
――まさに「子育てプロジェクト」ですね。
本当にそうです。お互いがプロジェクトメンバーの一員といった感じで。すぐに話し合って改善できるので、悩みになる前に解消できているところはあります。
たまに「仕事が立て込んで家事や子育てとの両立が難しくなりそう」「このままだとくたびれて子どもたちと笑顔で向き合えないかもしれない」と感じることもあるんです。夫に話してみると「今は家事のハードルを下げていいんじゃないか」「ここはふたりで分担していこう」と、すぐに解決策が見えたりもします。
――ご主人にも「自分ごと」として捉えてもらっているのですね。
夫とはケンカはしないけれど、議論はたくさんするんです。今は「ふたりでやっている」という意識を持てるようになったことで、だいぶ気持ちが楽になりました。やはり、お母さんひとりが家事も育児も仕事も全部を頑張るって、すごく大変だと思うんです。
――本当にそうですね。
私の場合は、子どもたちが小学校や保育園に行っている間が仕事時間で、それ以外は書かないと決めているんです。以前は子どものお世話をしながら原稿を書くこともありましたが、結局はどっちつかずになってしまって。私は続きを書きたいのに手を止めなきゃいけない、子どもは私に話を聞いてほしいのに聞いてもらえない。「集中できない人」と「話を聞いてもらえない人」が生まれてしまうので、それなら私がパソコンを閉じて、みんなで楽しく過ごせたほうがいいなあって思うんです。
でも、子どもに「パパは働いているけれど、ママは送り迎えをしてくれて、いつも家にいる。女の人は仕事をしないの?」なんて、時代錯誤なことを言われたこともあったんですよ(笑)。「私も頑張っているんだけどな」なんて思いつつ、夫に言ったら「それはママが自分たちとずっと一緒にいると感じているということだから、すごくいいことだと思う」って。
――「お子さんがどう感じているか」が一番大切です。
私は母が専業主婦だったこともあって、子どもを小さいうちから保育園に入れることに少し抵抗を感じていた時期があったんです。できるだけ子どもたちと一緒に過ごさなくては、と。第1子が赤ちゃんの頃は一時保育でやりくりしていましたが、3人ともフルタイムで保育園に預けてみると、親子で過ごす時間の長さよりも、子どもは親と一緒にいられるときにいつも楽しくあることのほうが、嬉しくて心地よいのかもしれないと思うようになりました。もしかしたら、これは大人にとって都合のいい考え方なのかもしれない。だけど、子どもたちの様子を見ていると、そんなふうに感じるんです。
INFORMATION

『ミステリ作家、母になる』
辻堂ゆめ/著 小学館 1815円
家事も育児もGoogleスプレッドシートで管理し、夫婦で力を合わせて完璧にできるはずが……!? 上の世代の常識を受け入れながら、新たなやり方を切り拓く新時代のワーキングマザーエッセイ。

『ふつうの家族』
辻堂ゆめ/著 講談社 2585円
平穏な桜石家に嵐の夜にやって来た一人の若い男。一体、誰が何のために? 突然の来訪者をきっかけに、家族の中で募る疑念。「ふつうの家族」に隠されていた秘密があぶり出されていく。
辻堂ゆめ
つじどうゆめ/1992年神奈川県生まれ。東京大学在学中の2015年、第13回『このミステリーがすごい!』大賞で優秀賞を受賞し、『いなくなった私へ』(宝島社)でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』(小学館)で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞。最新作は『ふつうの家族』(講談社)。
インタビュー/菅原淳子 撮影/大森忠明(kodomoe2026年6月号掲載)





















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