2015年4月14日

4月のテーマは「はじまり絵本」【広松由希子の今月の絵本・41】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

4月のテーマは「はじまり絵本」

新年度。
さあ、気分を切り換えて
新しい自分になろう!

なんて思っても、
急に寒かったり、
雨続きだったり、雪まじりだったり、
かと思うと、突然あたたかくなって、
眠かったり……

と言い訳ばかりの
だらだら体質は、なかなか切り換えられません。
親も子も。

そこで「はじまり絵本」です。
なんとか弾みをつけて、
生活を切り換えたいものです。
 

hiromatsu041

 

千里の道も一歩から。
『はじめのちいさないっぽ』の
かしこいおにいちゃんたちは、
ちゃんと知ってます。

3羽のあひるの兄弟がまいごになっちゃいました。
「ママに あいたい」
「あんよが くたくた」
座り込んで動けない末っ子に、おにいちゃんは
「はじめの いっぽ」のやり方を教えます。

「まず かたあしを こんなふうに あげて……
そして いうんだ、『はじめの』って」
「それから おろして、またいうんだ、
『いっぽ!』って」
両足でかわるがわる「はじめの いっぽ」の練習をします。

「できたじゃないか!」
「これからは きみのこと、
はじめのいっぽちゃん って よぶよ」

「はじめのいっぽ…はじめのいっぽ…はじめのいっぽ…」
ちこちこ歩く、あひるの子たちの線画がかわいい。

「はじめのいっぽちゃん」といっしょに
ぶつぶつ、つぶやきはじめましょうか。
なーんにもやる気がしないときも、
小さな「いっぽ」なら。

hajimeno

『はじめのちいさないっぽ』
サイモン・ジェームズ/作 小川仁央/訳
評論社 本体1400円+税 2004

 

ごろごろうだうだ、
一歩もやる気がしないときは、
もっと初心にかえって、
卵の気持ちから、はじめますか。

『とべたよとべたよ』を開くと、
扉にあるのは、五つの卵。

「ぴこっ ちこっ こちっ ぱこっ ぴちっ」
みんな、生まれると、
「ぴー ぴー ぐじゅるる ぐじゅるる
おなかが すいたよ おなかが すいたよ」

大きな口を開けて、
父さん、母さんが、えさをくれるのを
ひたすら待ちます。
「ぴこぴこ ぴーちゅ あおむし ちょうだい」

でも、あるとき、親にいわれるのです。
「さあ みんな おおきくなったね
ぱたぱた ぱた って じぶんで とぶのよ」
おそるおそる
「ぱたぱた ぱた」

時がきたら、とぶのね。
今日はぐうたらしているようでも、
焦らなくてもいいのね。
そんな自然の摂理も、すっと受け入れられる
シンプルな赤ちゃんからの絵本。

tobetayo

『とべたよとべたよ』
わかやましずこ/作 童心社
本体800円+税 2013

 

 

そうです。時がきたら。
モモンガだって飛ぶんです。

『ももんがもんじろう』は、
「せけんと いう ものを まだ しらない」
幼いモモンガが主人公。

杉の木の枝先で、夜空に向かって
「とびたいけど、ブルブル ブルブル」
震えていましたが、突然
「いっといで!」
木が揺れて、風に押されて、飛ぶはめに。

「ヒュル〜!」
飛び立った世間は、意外にも?

クマったり、シカられたりしながら
(さりげないダジャレも隠し味♪)
野を越え、空を渡り、川に落ちかかり……大冒険。

でも、本当の冒険は、実はこれから。
知らない世界へ自ら飛び出す、ドキドキ感。
小さいもんじろうに、背中を押される気持ちになって、
「とぉ〜っ!」

momonga

『ももんがもんじろう』
村上康成/作 講談社
本体1300円+税 2015

 

 

ドキドキのワクワク、高まってきました。
『じゅんびはいいかい?』で
駄目押ししときましょう。

荒井さんの絵本は
『はじまりはじまり』(ブロンズ新社)とか
『あさになったのでまどをあけますよ』(偕成社)とか
絵本を手にとるだけで、
もう、なにか少しはじまっていることを感じさせます。

「そろそろ じゅんびは いいかい?」
「いいよう!」

と言って、朝がきます。
おはようを、言います。
春風が吹きます。
コートを脱いで、自転車に乗って、ブランコこいで……

読むうち、めくるうちに、
だんだん、どんどん
心の準備ができてきます。

「さあ さあ みんな じゅんびは いいかあい!」
「いいよう! いいですよう!」

春! 春!

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『じゅんびはいいかい』
荒井良二/作 学研
本体1300円+税 2015

 


まだ雨はやまないし、
あいかわらず眠いけど、
読む前より、ちょっと気分さわやか。

すぐには羽ばたけなくても、
とりあえず一歩から、
自分のなにかをはじめたくなる、春です。     

 

 

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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