
俳優・坂東龍汰さん「『スーホの白い馬』は、子どものころの僕にとってヒーローでした」
子どものころ、坂東龍汰さんのそばには、いつも絵本がありました。テレビもゲームもない環境で、絵を描いたり、何かを作ったりしながら育った日々。その時間のなかで育まれた感性は、いま俳優として表現に向き合う坂東さんの根っこにも息づいているのかもしれません。出演を控える舞台『カッコーの巣の上で』への思いと合わせて聞きました。
テレビもゲームもない毎日で、
絵本の世界に夢中になっていました
――今回、坂東さんが選んでくださった絵本は『スーホの白い馬』。どのように親しんでいた絵本ですか。
めちゃくちゃ読んでいました。ずっと家にあって、何度も手に取っていた絵本です。僕、子どものころから馬がすごく好きだったんですよ。なんでそんなに好きだったのかは自分でもよくわからないんですけど、とにかくかっこいい存在で、馬の絵もたくさん描いていました。もしかしたら、その原点ってこの絵本だったのかもしれないですね。
この本を読んで馬頭琴がめちゃくちゃ欲しくなって、父に頼んで買ってもらったんです。小学校3、4年生くらいだったかな。しばらく弾いていたと思います。
それに、修学旅行ではモンゴルに行ったんですよ。馬に乗れて、リアルスーホだ!ってうれしかったですね。実は乗馬したら骨折もしちゃったんですけど(笑)。馬頭琴奏者の人とも仲良くなれたし、自分の中では『スーホの白い馬』の世界と地続きという感じがしていて、思い出深いですね。

ジャケット¥121,000/SARTO パンツ¥37,400/Kiivu

『スーホの白い馬』 大塚勇三/再話 赤羽末吉/画 福音館書店 1650円
――絵本の世界が、そのまま体験につながっていったんですね。
そうですね。家には絵本がたくさんあって、そのなかでも『スーホの白い馬』とか、『ゆきとトナカイのうた』(ボディル・ハグブリンク/作・絵 山内清子/訳 ポプラ社)は特に好きでした。
僕は小学校から高校までシュタイナー教育の学校に通っていたので、テレビもゲームもインターネットもない環境で育ったんです。まわりがポケモンをやっていてもできないし、仮面ライダーもウルトラマンも、それ何?っていう子どもだったから。スーホがその代わりだったのかもしれません。絵本しかなかったから、そこに出てくる物語や登場人物が、自分にとってのヒーローだったんです。
“ないなら作る”子ども時代が、
今の表現につながっている
――テレビやゲームがない中で、どんな遊びをしていましたか?
絵を描いたり、何かを削って作ったり、そういうことばっかりしていました。北海道の自然のなかで育ったので、外で遊ぶことも多かったですね。焚き火を起こしたり、拾ってきた釘を火に入れて叩いて何かを作ったり。ナイフを削って作って、自分で釣った魚を捌いたりもしていました。浜辺を歩いていたら、大きなトドが打ち上がっている、みたいなことも普通にあったんですよ(笑)。
――トド! すごいですね。
そういう環境の中で過ごしたから、「何もないなら自分で作ればいい」みたいな感覚が自然と身についた気がします。そもそも、父が家を一人で建てたんですよ。それを眼の前で見てたからかもしれませんね。遊ぶことも、暇をつぶすことも、誰かが用意してくれるものを待つんじゃなくて、自分で見つけたり作ったりするのが、子どものころの僕にはすごく自然なことだったんです。

――その感覚は、今の仕事にもつながっていると思いますか?
つながっていてほしいな、と思います。あのころの無邪気さそのままではないと思うんですけど、持っていた感性みたいなものは、きっと今もどこかに残っていてほしい。俳優という仕事をしている以上、そういうものが完全になくなってしまったら寂しいですよね。
それに僕、今でもやったことのないことをやるのがすごく好きなんです。新しい経験って全部出会いだと思うし、それがどこで芝居に返ってくるかわからない。だから無駄なことって一つもないなと思っています。
最近だと、暗室で写真を現像したことがすごく印象に残っています。もともとカメラは好きだったんですけど、自分で現像してみたら、めちゃくちゃ楽しくて(笑)。光を焼きつけたフィルムが、また光で浮かび上がってくるのが、本当に魔法みたいだったんです。ああいう瞬間に、ものを作ることのおもしろさを改めて感じます。
舞台は、ごまかしがきかないからこそおもしろい
――そんな坂東さんが、今、強く惹かれている表現のひとつが舞台なんですね。
そうですね。25、26歳くらいのころから、舞台をやらないとダメだなと思うようになりました。舞台をやっている俳優さんたちのお芝居を見ると、やっぱり圧倒されるんです。声や重心、その人が持っている芝居の基礎みたいなものが全然違うと感じる瞬間があって。自分も舞台をやったほうが絶対に豊かになる、と思いました。映像はカメラが細やかに拾ってくれる表現もありますけど、舞台は自分の体ひとつで空間を立ち上げていかなきゃいけない。その感覚はすごくシンプルで、でもごまかしがきかなくて、俳優としての根っこの力を試される気がするんです。

舞台では、一瞬の呼吸とか、相手とのわずかなズレとか、そういうものが全部出てしまう。怖さもあるんですけど、そのぶんおもしろさもすごく大きい。しかも、本番に入るとお客さんの存在をものすごく感じます。その日の空気で、作品の届き方が変わるんです。すごく笑いが起きる日もあれば、全然違う反応の日もある。300人のお客さんがいるはずなのに1000人に感じる日もあれば、逆に1人しかいないんじゃないかと思う日もある。その感覚も含めて、舞台ならではだなと思います。
楽しいだけじゃなくて、責任もあるし、重圧もある。つぶされそうになることもあります。でも、そのぶん報われる瞬間もちゃんとあって、カーテンコールでお客さんの顔を見たときは、「やっていてよかった」と。その瞬間があるから、またやりたくなるんだと思います。
――今回出演されるのが舞台『カッコーの巣の上で』です。ジャック・ニコルソンが出演した映画は名作として時代を超えて愛され続けています。本作のオファーを受けたときはどう感じましたか?
まず、「これを舞台でやるんだ!」という驚きがありました。映画でも観ていた作品だったので、すごく印象に残っていたんです。自分はどの役なんだろうと思っていたらビリーだと聞いて、「ああ、そうだよね」と妙に納得しました。最後のシーンも含めて強く心に残っている役だったので、難しそうだなと思う一方で、すごく挑戦しがいがある役だなとも感じています。
今はまだ稽古前の段階で(取材時の4月時点)、台本も届いていない状態なので、これからどう立ち上がっていくのか、自分でもすごく楽しみにしているところです。ビリーという人物に対して、今はまだ「こういう人だ」と決めつけるというより、稽古場で共演者の方々や演出の松尾さんから影響を受けながら、少しずつ見えてくるんだろうなと思っています。
舞台って、お客さんの前に立って初めてわかることも本当に多いんですよね。だからこそ不安もあるし、楽しみもある。そういう全部を抱えたまま、本番に向かっていく感じが、今はすごくおもしろいです。

――子どものころに絵本の世界に夢中になったことも、今の坂東さんの表現の原点のひとつなのかもしれませんね。
そうだったらうれしいです。子どものころにしか持てない感覚って、やっぱりあると思うので。それが今もどこかに残っていて、芝居のなかに少しでも生きていたらいいなと思います。
坂東龍汰
ばんどう・りょうた/俳優。1997年、ニューヨーク生まれ。北海道でシュタイナー教育の学校に18歳まで通い、演劇の授業をきっかけに俳優を志す。2017年にドラマ『セトウツミ』で俳優デビューし、翌年にはNHKスペシャルドラマ『花へんろ 特別編 春子の人形』で初主演。以降、映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍し、近年は映画単独初主演作『君の忘れ方』をはじめ話題作への出演が続く。
第32回日本映画批評家大賞新人男優賞(南俊子賞)、第122回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演男優賞を受賞。2026年には映画『爆弾』で第49回日本アカデミー賞新人俳優賞にも選ばれ、表現の幅を広げている。
INFORMATION
PARCO PRODUCE 2026
『カッコーの巣の上で』
1960年代の精神病院を舞台に、人間の尊厳と社会の不条理を描く名作。ケン・キージーの小説を原作に、デール・ワッサーマンが脚色した舞台版を、松尾スズキ演出で上演する。型破りな主人公マクマーフィーが、管理された病院の中で患者たちの閉ざされた心を揺り動かし、自由や権利、人間らしく生きることの意味を問いかけていく物語。
演出:松尾スズキ
出演:間宮祥太朗、坂東龍汰、皆川猿時、江口のりこほか
【公演スケジュール】
日時:2026年6月7日〜29日
場所:東京・PARCO劇場
日時:2026年7月4日・5日
場所:愛媛・愛媛県県民文化会館 メインホール
日時:2026年7月10日〜13日
場所:大阪・森ノ宮ピロティホール
日時:2026年7月18日・19日
場所:北九州・J:COM北九州芸術劇場 大ホール
日時:2026年7月24日〜26日
場所:仙台・仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール
にて上演。
詳しくはこちら
PARCO STAGE『カッコーの巣の上で』公式サイト
https://stage.parco.jp/program/cuckoo/
インタビュー/晴山香織 撮影/相馬ミナ スタイリング/李靖華 ヘアメイク/OLTA 後藤泰



































