2020年12月25日

12月のテーマは「100の絵本」【広松由希子の今月の絵本・100】

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絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をこれまでに、たくさんたくさんセレクトしていただきました。今回が最終回です。

12月のテーマは「100の絵本」

2011年秋から、こけつまろびつ続けてきた連載も、おかげさまでついに100回目! 
キリよく「100」の絵本を読んで、締めくくりたいと思います。

12月のテーマは「100の絵本」【広松由希子の今月の絵本・100】の画像1

100って、なんていっぱいなんでしょう。
どんなにいっぱいかって、絵本『100』が見せてくれます。

扉に、つみきがコロンと1個。めくると、100!
広い画面の水槽の中に、金魚が1匹。めくると、100!
うぉぉ。壮観。
輪ゴムも100。固まっても散らばっても100。
金太郎飴の1と100って? 面白いなぁ。

ブックデザイナーとして大活躍中の名久井直子さんが、写真家の井上佐由紀さんと組んで創作した、3歳からの科学絵本。
自分の指くらいが数の上限の子どもにとって100ってどういうことなのか? 1と対照しながら見せてくれて、体にすとんと入ってきます。
数字を教える絵本じゃなくて、数の概念を伝えてくれる絵本ですよ。

スーパーボールやどんぐりなど、子どもが歓喜の目で受け止めるにちがいない素材選び。
一瞬を切り取る写真撮影のディレクション。
やわらかな光のなかで、白い背景に浮かび上がる、親しげな物の存在感。
めくるテンポと気持ちの満ち引き。
うーん、さすが。
3歳からうれしく、大人も心地いい写真絵本。
「100の絵本」決定版といえましょう。

12月のテーマは「100の絵本」【広松由希子の今月の絵本・100】の画像2
『100』 名久井直子/作 井上佐由紀/写真 福音館書店 
本体900円+税 2020 (*初出は月刊絵本「ちいさなかがくのとも」2016)

 

100って、意外と一瞬かも?
大あわての100秒を『おうさまがかえってくる100びょうまえ!』で味わってみましょう。

表紙を開くとすぐ、アバンタイトル。前見返しで、王様のお城の部屋が紹介されます。
きれいで広くて、面白そうなものがいっぱい。

今日は王様がお出かけ。留守の間に、3人の家来たちはこの豪華なお部屋ですっきりくつろぎ、冠かぶって王座にふんぞりかえったり、おやつを食べたり、昼寝をしたり……好き放題に散らかして遊んでおりました。
ところがそのとき、窓から王様が予定外に早く帰ってくるのが見えたのです。
「100びょうで へやを かたづけろ―――!!」

そこからカウントスタート。めくるごとに10秒ずつが過ぎていきます。
「1 2 3 4 5……」数字だけが書かれたページに、右へ左へあわてふためく家来たちの必死の片付けぶりが絵で語られます。
来客前の情景のようでもあり、大人にも妙な親近感とおかしな臨場感です。
焦りとともにどんどん数字も大きくなり、最後の10秒はスローモーションのようになって「96、97……」

「100」の瞬間にドアが開きます。なんとも濃い100秒間でした。
家来も読者も、ふーっ。無事に元通り……に見えたけれど??

100秒のスピード感とスリル、やみつきになりそう。
最後に前見返しの王様の部屋と、復元されたはずの後ろ見返しの部屋を見比べて。
まちがいさがしみたいなゆかいな遊びつきですよ。

12月のテーマは「100の絵本」【広松由希子の今月の絵本・100】の画像3
『おうさまがかえってくる100びょうまえ!』 
柏原佳世子/作 えほんの杜 
本体1400円+税 2018

 

100は、長い時間のつらなり。
「秒」のスピードとダイナミックな動きを思い切り味わったところで、今度はゆっくりと静的な『百年の家』を開いてみます。

主役は、1656年(ペストが大流行した年!)に作られた古い石造りの家。
長いこと廃屋となっていた「わたし」を子どもたちが見つけてくれたのは、1900年のことでした。
家は修理され、家族が引っ越してきます。

動けない家が一人称で長い自分史を語るように、年代を追い、立ち会ってきた出来事を綴っていきます。
結婚、誕生、復活祭のお祝い、第一次世界大戦と戦死、成長と収穫、そしてまた近づく戦火……現代化が進んだ1999年に至るまで、一軒の家を取り巻く100年の流れが浮かび上がります。

イタリアの古都フィレンツェに住むインノチェンティは、精緻で重厚な画風で世界で名だたる絵本画家。
石ころひとつ、雑草一本おろそかにしない絵に、読者自身のさまざまな記憶を重ね、想像を巡らせて。
ゆっくりページをめくりながら100年という長い時間を感じることで、ざわついた気持ちも鎮まってくるように感じます。

64ページのずしりと重たい大判の絵本。小学校高学年くらいから大人まで、じっくり味わえる一生ものです。

12月のテーマは「100の絵本」【広松由希子の今月の絵本・100】の画像4
『百年の家』 
ロベルト・インノチェンティ/絵 J. パトリック・ルイス/作 長田弘/訳 講談社 
本体1900円+税 2010

 

100は、考えようによっては0であり、無限でもあります。

『百まいのドレス』に出てくる移民の女の子ワンダは、学校には毎日同じ質素な青いワンピースを着てきていました。
でも、家の戸棚の中には、ドレスが100枚あるのだと言います。
嘘に決まっていると、クラスの女の子たちのからかいの的になってしまいます。

嘘? はたして嘘といえるでしょうか? 
ワンダが0から100を生み出せる想像力の持ち主だったことは、彼女が転校することになってしまうまで、誰も知りませんでした。

“The Hundred Dresses”は、アメリカで1944年に書かれ、日本では1954年に「岩波の子どもの本」の一冊『百まいのきもの』として出版されたお話。
2006年、初版から半世紀以上を経て、石井桃子さん自身の手で改訳されました。

ずいぶん昔の舞台ではありますが、今読んでも子どもの心の微妙な揺れに共振させられます。
差別やいじめについて、ちがう立場の人の気持ちについて、しみじみ考えるきっかけをくれます。

スロボドキンの柔らかな絵もたっぷり入っていますが、自分で読むなら、小学校中学年くらいからかな。
石井さんが100歳になられる半年前のみずみずしい新訳で、どうぞ味わってください。

12月のテーマは「100の絵本」【広松由希子の今月の絵本・100】の画像5
『百まいのドレス』 
エレナー・エスティス/作 石井桃子/訳 ルイス・スロボドキン/絵 岩波書店 
本体1600円+税 2006


いま、わたしも100にまつわる本を書いているところ。
100の重みを感じつつ、がんばります。

絵本は100回ぽっちじゃ語り尽くせず、絵本との出会いはまだまだ無限にありますが、ひとまず、これにて。
長くて短いおつきあい、ありがとうございました。
またどこか、絵本の場でお会いしましょう。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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