絵本作家・植垣歩子「お年寄りを描きたくて、大好きだった絵本の道に」
お年寄りの絵本から子どもの絵本へ
―― ついに絵本作家として本格的に歩き始めました。そのあともお年寄りを描きたいという思いは続きましたか?
お年寄りに夢中でした。『すみれおばあちゃんのひみつ』と『おじいさんのいえ』という絵本を、続けて出版しました。お年寄りが主人公だと、家の中や持ち物も「この人はどんな人生を歩んできたんだろう?」って、いろいろ想像しながら描けるので、楽しい。『すみれおばあちゃんのひみつ』は、実際に公園で出会ったおばあさんがモデルです。ある日、公園で鳩をスケッチしていたら、針と糸を持ってきて「通してくれない?」って。もう感動で震えましたよ。すぐに家に帰って、お話を書きました。編集者さんは、私と好きなものが似ている方で、本当に楽しく作った一冊です。『おじいさんのいえ』は、どうしても描きたかった絵本。たくさんのお年寄りを見てきて感じた、それぞれの人生、幸せの形、最後に残るもの、そういうものを描きたかったんですねえ。これからも、お年寄りは 私の大切なテーマだと思っています。当時は、自分の興味ある身近な題材で、小さい頃の自分が喜ぶような絵本を描きたい、と思って描いていました。「小さい歩ちゃんのために」描いていたという感じでしょうかねえ。
―― 子どものために描きたいと思うようになったのはいつですか?
姪っ子の誕生が大きかったです。街なかで子どもを見たりすることはあっても、触るってことはなかなかできなかったので、体温とかにおいとかを五感で感じて、驚きの連続でした。ほんとうにかわいかったですねえ(しみじみと)……自分の子よりも夢中になってしまいました。あれは事件でしたねえ。
この子の好きなものを、いっぱい描いてあげたいなあって思い始めました。それでもなかなか、作品には至らなかった。前に一度、赤ちゃん絵本を描いているのですが、私には赤ちゃん絵本はハードルが高くて、難しいと思っていて。姪っ子を喜ばせるために、画風を模索しはじめた時期でした。しばらくして、台所道具がたくさん登場する『うたこさん』を描いたんです。いわゆる赤ちゃん向けではありませんが、登場するいろいろな道具を、姪っ子が指さして喜んでるってことにびっくりしましたねえ。作品を楽しんでいる子どもを間近に見たのが、ほんとうに衝撃的な経験でした。
―― ご自身のお子さんがこの後誕生します。
31歳のときに結婚しました。夫は高校と大学の同級生で、ふたりとも大学では美術を専攻しています。今は植木屋さん……お庭をつくっています。
35歳で息子が生まれました。子どもが生まれて、生活はがらりと変わりました。我を失うっていうか、今まで私、どうやって生きてたのかなーっていうくらいの変化で(笑)。自分っていうものが一旦なくなってしまうような感覚でしょうかね。完全に今も我を失ってますねえ、あの人がひとりいるだけで……。3人、4人と育ててる方ってどうやってるんだろう。すごいことですよ。出産するまでは、おだやかに毎日を生きてきたんですけど、今は私ってこんなに感情の起伏があったんだなっていう日々ですねえ。怒りのあまり泣けてきたりとか……息子には悪気がないので、怒ったってしょうがないんですけどね。そういう葛藤が日々ありますね。子どもって不思議な生き物ですからねえ、ほんとに。
植垣さん作の結婚式ウェルカムボード