1月のテーマは「体で読む絵本」【広松由希子の今月の絵本・38】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
1月のテーマは「体で読む絵本」
さあ、新年。
今年も思いきり、絵本を楽しんでいきますよ。
目で眺めるだけでなく、
絵本は、全身で感じて読みたいもの。
体にぐっとくる絵本を選んでみました。
新春一冊目は、片山健さんの
とびきり赤ちゃん絵本『いいな いいな』です。
月刊絵本「こどものとも0.1.2.」が待望の単行本化。
いとけない仕草と表情の
小さな男の子の名は、ぷうちゃん。
動物たちとスキンシップでたわむれます。
「いいな いいな
いぬさんの おかお
もしゃもしゃ おかお」
ぷうちゃんが、イヌの顔をなでまわすと、
「いいな いいな
ぷうちゃんの ほっぺ
ぴかぴか ほっぺ」
イヌは、ぷうちゃんをなめまわします。
さわって感じ合う、小さな人間と、動物。
「いいな いいな」
うさぎさんの背中は、まあるくて。
ぷうちゃんのおなかも、まあるくて。
いんこさんの頭は、しましまで。
ぷうちゃんの頭は、ぽよぽよで。
おしりも、しっぽも、おへそも、みんな、
「いいな いいな」
世界を体で感じて、認識していく人たち。
赤ちゃんって、ほれぼれするくらい、官能的な生きもの。
その生まれたての感じやすい体を、
片山さんの絵本が、よみがえらせてくれます。
親子でつっつき合って
「いいな いいな」してください。
『いいな いいな』
かたやまけん/作 福音館書店
本体700円+税 2014
2冊目は、どーんと体当たり。
筆でなく、クレヨンで、
頭でなく、体で描く画家、加藤休ミさんの
汗と涙と青春の相撲絵本『りきしのほし』です。
「かちかちやま、土俵で会う日を 楽しみにしてるぞ!」
第69代横綱の白鵬から、帯に雄々しい文が寄せられています。
春からなんだか、力むくむく
縁起のいい気持ちになるじゃありませんか。
「おいら りきしの かちかちやま。
おっす! けいこだ しこ にひゃっかい!」
「バチン ビチン バチン。」
無類の相撲好きで知られる画家。
肌の肉感、ちゃんこ鍋の汁感、
ディテールにクレヨンの気合いがこもります。
きびしい稽古に、
「やめようかな。」
と、黄昏れるかちかちやまでしたが、
夕陽に背中を押されて頑張ります。
親も子も、めげそうになったら、
かちかちやまを思い出して。
「のこった のこった」
「もういっちょ!」
で、おいらも、つよくなるっす。
『りきしのほし』
加藤休ミ/作・絵 イースト・プレス
本体1300円+税 2013
絵本はモノ。
モニター画面とちがって、
大きい本は大きな驚きや重みをもって、
小さい本は小さな愛しさや軽みをもって、体感できるんですね。
大型絵本『これがほんとの大きさ!』は、
そんな絵本ならではの特徴がしっかり生かされています。
地球上のいろんな生物を、意外な「実物大」で驚かせてくれる絵本です。
表紙は、
最大の霊長類、マウンテンゴリラの手と
最小の霊長類、ピグミーネズミキツネザルのツーショット。
身長は約6cm、体重は30g未満のおさるって……たまりません。
扉ページの題字の下には、なんとも愛らしい世界最小の哺乳類が。
かと思うと、見開きに片方の目玉(直径30cm)しか入らない
ダイオウイカのアップが。
観音開きのページを開くと、
ひきつるほど巨大なカエルのジャンプが。
ページの構成もみごとで、めくるごとに歓声が上がりそう。
スティーブ・ジェンキンズの、質感も生かした切り絵は圧巻。
巻末の解説も興味深く、これぞ体で読む科学絵本です。
絶滅した生物の大きさを実感する、
『続これがほんとの大きさ!古代の生きものたち』も、どうぞ。
『これがほんとの大きさ!』
スティーブ・ジェンキンズ/作 佐藤見果夢/訳
評論社 本体1600円+税 2008
『さわるめいろ』は、その名の通り、
触感で読む、点字絵本。
1ページに1色ずつ、
鮮やかな色の線で描かれた、
伝統文様のような美しい意匠の迷路が10点。
眺めるだけでもうっとりしますが、
見ているだけではわからない。
この線は、部分的に点字加工がされていて、
指でたどると、はじめて
迷路になっていることが感じられるのです。
ふだんなかなか意識しない
指先の感覚を研ぎ澄まして、挑戦してみてください。
子どもも大人も、
視覚にハンディのある人も、ない人も、みんなで遊べる。
面白く、美しく、配慮の行き届いた
バリアフリー絵本です。
ひとしきり遊んだ後で、さらに驚くのは、
この絵本の造本デザイン。
ぱたぱたと広げてみると……えっ、1枚の四角い紙になっちゃった?
なんて、文字で説明しても、うまく伝わりませんね。
ぜひお手元で、実際に、さわって広げてみてください。
新年にふさわしい文様の床が登場しますから。
『さわるめいろ』
村山純子/作 小学館
本体1900円+税 2013
細胞が目を覚まし、
体も心も解き放つ絵本と
出会えますように。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
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