2015年2月27日

2月のテーマは「パンツの絵本」【広松由希子の今月の絵本・39】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

2月のテーマは「パンツの絵本」

アダムとイブのころから、
なくてはならないもの。
特に人間の成長過程には、
とっても重要な地位を占めるものーーパンツ。

今月は、子どもの生活によりそった
よりぬきのパンツ絵本を紹介します。

 

hiromatsu

春になると、
おむつの殻を脱ぎ捨て、軽やかなパンツ世代へと
旅立つ子どもたちも増えるでしょう。

……でも、ええ、パンツへの旅は
楽な道のりとはいえません。

『ぷくちゃんのすてきなぱんつ』は、
けっして平坦ではないパンツ道を、
ちょっと気楽にしてくれる、大らかで楽しい絵本です。

ピーナツのような姿形。
ぽってりお尻のかわいいぷくちゃんに、
おかあさんがパンツを買ってきてくれました。
はじめてのパンツは、いい気持ち。
軽くて、かっこよく歩けます。

ところが、
「じょじょじょーん!」
(やっぱり!)

おもらししても、おかあさんは、にっこり。
「でも、だいじょうぶ。
ほらね、おかわりぱんつ」
はきかえれば、いいんですからね。

はきかえるたびに、
また「じょじょじょ、、、」
ですが、ゆっくり成長していくぷくちゃん。

パンツの替えがなくたって、
「だいじょうぶ!」
おかあさんの笑顔が頼もしい。
パンツ大好きになれる絵本。

puku

『ぷくちゃんのすてきなぱんつ』
ひろかわさえこ/作 アリス館
本体880円+税 2001

 

 

おもらしステージをクリアしても、
パンツを自分ではけるようになるまでが
これまた、険しい道なんですね。

『パンツのはきかた』では、
ひとりでトイレをすませたぶたさんが、
「パンツはね」
と、歌にあわせて動作のお手本を見せてくれます。

「はじめに かたあし」
「いれるでしょ」

「それから
もう かたっぽ
いれるでしょ」

そうか。ひとつの穴に、片足ずつね。
大人には無意識の動作ですが、
あらためて、だいじなポイントに納得させられます。

「それから
きゅーっと
ひっぱって」
「そこまで できたら」
「たちましょう」

なるほど。これなら転ばないね。

歌にあわせて、完璧にパンツをはけたようで、
得意満面のぶたさん。
ですが、この絵本がすてきなのは、
ノウハウを教える見本じゃないところ。

「あーあ
せっかく はいたのに」

……思わぬ失敗のくりかえし。
だから、子どものいる暮らしは楽しいのね。
そう思わせるオチが最高。

岸田今日子さん親子の暮らしの中から生まれた歌。
子育てライブ感いっぱい。楽譜つき。
晩年の佐野洋子さんのピンクぶたも、
むちむち生き生き愛らしい。

pn

『パンツのはきかた』
岸田今日子/作 佐野洋子/絵
福音館書店 本体800円+税 2011

 

 

トイレも間に合うし、
自分ではけるようにもなった。
それでも、パンツの悩みは尽きません。

こちらも、ピンクの愛らしい生き物。
こどもで、ももで、パンツ一丁。
『こどももちゃん』ってネーミングが、
また、胸をわしづかみ。

「こどもの ももの こどももちゃんが、
わきめもふらず あるいてゆきます。」

今日は、なんだかごきげんななめ。
小鳥が声をかけても、猫が遊びに誘っても、
「おしえない。」
「あそばない。」
子ぐまがいいものをあげると言っても……いらないの?

いいえ、こどももちゃんの不機嫌には、
わけがあるって、お母さんぐまが、
ちゃんと気づいてくれましたよ。
こうすれば……ほら、だいじょうぶ。

頭が桃の不思議な造作ながら、
はにかむ微妙な表情の変化、ほのかな色っぽさ。
最強に魅惑的なキャラクターです。

すてきに変身したパンツで、思う存分遊べるね。

kodomomo

『こどももちゃん』
たちばなはるか/作・絵 偕成社
本体1000円+税 2005

 


パンツの絵本は、ほかにも、いろいろ。

しっぽのない人間たつくんの
悩みとよろこびあふれる物語絵本『はけたよはけたよ』
(神沢利子/文 西巻茅子/絵 偕成社 1970)
は、着替えを自分ではじめた3歳くらいから。

白いブリーフと少年の
別れと成長の物語『ボクのかしこいパンツくん』
(乙一/原作 長崎訓子/絵 イースト・プレス 2012)
は、小学校高学年から大人にも。

人生の友=パンツの絵本。その時々で楽しんで。

 

 

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

シェア
ツイート
ブックマーク
トピックス

ページトップへ