絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます！

12月のテーマは「ハグの絵本」

おかえりなさい。
今日も寒かったですねー。

どうぞ親子で「ぎゅっ」と
くっつき合って、あったまってください。
身も心もほかほかのハグ絵本をご用意しました。

まずは、ハグ絵本の定番『ぎゅっ』。
原題は”Hug”です。

散歩をしていた、こざるのジョジョくん。
ぞうの親子も、カメレオンも、ヘビも、出会うみんなが
「ぎゅっ」と、くっつき合っているのを見て、
さびしい気持ちになってきます。

ぞうの背に乗せてもらって、ママを探して回りますが、
ママの「ぎゅっ」が恋しくてたまらなくなったところでーー

「ジョジョ」
「ママー」

この２語以外は「ぎゅっ」しか出てきませんが、
ひとつずつの「ぎゅっ」に、気持ちが凝縮されています。

「ぎゅっ」は、大好きの印。
安心とよろこび。平和の証。
最後は動物たちがみんな、手に手をとって、大きな「ぎゅっ」
 

『ぎゅっ』
ジェズ・オールバラ／作・絵　徳間書店
本体1400円＋税　2000

『だっこして』の主人公は「ちっちゃいたこ」。
いつも「だっこして、だっこして！」
と「おかあたこ」にせがみます。

おかあたこは、
朝ごはんを食べさせながら、
お化粧をしながら、
洗濯をしながら、
いつでも「だっこ」にこたえます。

おかあさん、たいへん。でも、
「あしが はっぽん あるので、とても べんりです」
この繰り返されるフレーズが
せわしなさを、おかしく包んでいます。

甘えるばかりだったちっちゃいたこは、
あるとき、気づきます。そして、たくさん考えて、
自分の８本足を使って、
おかあたこにいいことをしてあげます。
おかあさんのよろこんだこと！

８本足×８本足のハグ！
そしてタコぐちの100ぺんのキス!!
強力なくっつき愛。
 

『だっこして』
エクトル・シエラ／文　村上康成／絵
佼成出版社　本体1300円＋税　2007

『ハグタイム』のジュールは、野望を抱いたこねこ。
「せかいをまるごと だきしめたい」
と願っているのです。
「それで せかいが よくなるわけ？」
と尋ねられると、力強く「うん」

「ハグめいぼ」を作って、ハグの旅に出発！
まずは親友のネコとイヌをハグ。
そして、ちょうちょ、キンポウゲ、ハイイロリス。
公園にいた小鳥たちを全員、一日かかってハグします。

旅は壮大。
海を渡り、クジラをハグ。
アフリカ大陸に着くと、ゾウやキリン、バオバブの木にもハグ。
南半球も、北極も、地球ぐるっと旅に同行しながら、
読者も、ジュールの気づきを共有します。

地球の丸さ、いとおしさ。
未知の生きものの意外なやさしさ。
ひとりぼっちの途方もなさ。
「せかい」は大きくて小さいこと。
ハグするよろこび、されるよろこび。

いちばん近くにいる人を抱きしめながら、
絵本を読んでいる「ここ」が
世界平和の素かもしれない……なんて、思えてくる絵本です。
 

『ハグタイム』
パトリック・マクドネル／作　覚和歌子／訳
あすなろ書房　本体1500円＋税　2008

体と心の緊張をほどくハグ。
こちらの『はぐ』は、またとびきりですよ。

西洋的ハグは照れくさい向きも、
ナンセンスな笑いを含んだ平仮名の「はぐ」なら、
いけるんじゃないでしょうか。

静かな海辺。めくると、

「あっ しまうまさーん」
「らくだくーん」

下手からラクダが、
上手からシマウマが駆け寄ります。

「あいたかったよー」
「はぐ していい？」

そして、２匹はひしと「はぐ」。

シュールにのどかな光景が繰り返されます。
ペンギンと、ワニ。
タコと、おじさん。
絶妙にお似合いな組み合わせで、
「はぐ」また「はぐ」……

そうして地球の向こうに日が沈む
永遠とも思える時間、
それぞれが相手だけを感じながら、
しみじみと
「あえて よかったー」

コブつきも、シマシマも、
哺乳類も、鳥類も、爬虫類も、
脊椎動物も、軟体動物も、
子どもも、大人も、男も、女も、
みんな「はぐ」ずっと「はぐ」……

最高に幸福な読後感です。
 

『はぐ』
佐々木マキ／作
福音館書店　本体800円＋税　2013

心も体もとろかすハグ。
寝る前に、絵本であったまって、よい夢を。
よい夢抱いて、よいお年を。