ドイツで子育て。妊娠・出産のお金のはなし【教えて!世界の子育て~ドイツ~】
海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。
場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。各国からリアルな声を伝えてもらいます。
ドイツで子育てする中原さんが、コロナ禍のドイツで妊娠・出産をしたお友達にインタビューをする後編。今回は、ドイツの育休事情や妊娠・出産に対するお金のはなしを交えてお届けしてくれます。
記事の後半では、あの衝撃の産院食が再び登場です!
※前編はこちらから
労働環境と妊娠。お金のはなし
中原「そういえば今ふたりとも育休なんだっけ?」
リザ「うん、私は妊娠5か月からドクターストップが掛かって、出勤停止になってる。8か月から産休に切り替わってるかな〜」
カイ「僕はリザの陣痛が来た日から2か月の育休を取ってるよ」
へー! パートナーも取れるんですね! 陣痛が来たら男性も即育休に入れるってのも職場の理解がある。いいなぁ。
中原「休んでる間のお給料って、ぶっちゃけどのくらい出るんですかのう……? もし聞いてもよければ」
リザ「医師の指示による出勤停止期間(Mutterschutz、Beschäftigungsverbot)は、病欠扱いで66%から100%が出てたかな」
カイ「僕は今育休中で、月1800ユーロもらってる」
ほほー! 妊娠・出産に関わるお金をまとめると
・Mutterschutz、Beschäftigungsverbot(妊娠期の母体保護、出勤停止期間)……つわりやハイリスク妊娠などで医師から指示が出た場合、病欠扱いで最初の6週間は給与の100%が会社から支給。それ以降は保険から給与の66%の支給。
・Elterngeld(両親手当)……産休、育休期間に月/300~1800ユーロが支払われる。支給期間は12か月~14か月間
・Kindergeld(子ども手当)……204ユーロ/月。誕生から成人するまで支給される。
・通院・出産時の費用、入院費用……基本的に全て保険の適用なので、お財布から出ていく額は無し。個人的に希望する特殊検査や入院時の個室利用は自己負担
そういえば、私も産後に300ユーロ/月をもらってた! あれは両親手当の最低額ってことか。外国人主婦の私にも支払われて、ありがたいことだったわ。
中原「カイくん、会社に育休申請する時、肩身は狭くなかった?」
カイ「え? みんな取るし、さあ今から頑張れよって感じだよ。社員の育休なんて組み込めて当然でしょ? 1年取ってる男性の同僚もいるよ」
中原「ええっ、そ、そうなんだね。(そういう認識なの!?)」
調べたところ、病欠期間以外のお金は保険や行政から支払われるそうで、会社への負担が少ないことから、男性も気兼ねせず育休を取得していくようです。
これならば、ママは産後の体を癒す時間が持てますし、パートナーも積極的に赤ちゃんのお世話と家事を担い、ふたりで支え合って育児のスタートを切る事ができます。
育休が十分に取れ、経済的にも困らない。これは里帰りの習慣が無いドイツではとても大切です。妊娠した時点で当面支払っていくだけの貯金が無かったり、頼れる人やパートナーの助けが無いと、妊娠・出産・子育てがとても厳しいものになってしまいますから、子どもを産み育てる権利を万人が行使できるよう、経済サポート制度や、産後スムーズに復職する為の雇用保護制度などが整備されているのですね。
なお、育休期間は最長3年取る事ができ、その他にも、予定日6週間前から産後8週目までの計14週間に支給(1日あたり13ユーロ、合計1274ユーロ)される、Mutterschaftsgeld(母親手当)などがあります。
最重要、ヘバメ(助産師)さんはいかに
と、ここで気になることが出てきました。ドイツでの産前産後の最重要人物と言っても過言では無い、ヘバメさん! ヘバメさん事情はどうなの!?
ドイツでは妊婦さんに担当のヘバメさんが付き、産前産後のトラブルバスター&知恵袋として、新米パパママの大きな支えになっています。
※中原さんのヘバメさんに関する記事はこちら
特に産後数週間は各家庭を訪問し、産後の体の戻りやお乳の出、赤ちゃんの体重の増加、健康の具合を見て、適時アドバイスしていってくれるのですから評判の良いヘバメさんを予約できるか否かは、パパママ血眼の重要事項です!
ところが。
リザ「もちろん来れないわよ……」
うっそ……。ヘバメさん来れないって、じゃあどうしたの?
リザ「ヘバメさんが街の中に1部屋借りていて、そこに1家族ずつ行くの」
中原「ああ! 接触を減らすためか!」
リザ「そう。その部屋ね、椅子2脚とビニールの赤ちゃん用マット以外、何も置いてないの! 検診がひと通り終わったら部屋ごと消毒するためにね。病院や診療所だと物も人の出入りも多いから管理が難しいでしょう。もちろんマスクはつけっぱなしの常時換気。徹底してるでしょう?」
各家庭を訪問すると同居家族や設備などから感染する可能性が高まってしまいます。しかし赤ちゃんとお母さんだけが完全消毒された部屋に来るのならば、接触する物も人もぐっと少なくなります。 産院の勤務だけでなく、何家族ものケアを担当しているヘバメさんたち。
その両方の肩に掛かる責任たるや。何がなんでも感染するわけにはいかない重圧を想像するだけで、わたしはスルメのようにぺしゃんこに潰されそうよ。
産後のケアをひとつ取っても、そういった、考え抜かれた配慮がなされているんですね。
産院での様子は?
妊婦ヨガもだめ、ヘバメさんとの接触も難しいなら出産の時の立ち会いなどもダメだったんでしょう? と聞くと。
カイ「それが運良く個室が空いて立ち会えたんだ! 事前に何度も何度もコロナのテストを受けて陰性が続いていたのもよかった。ホームオフィスで自主隔離してたのが功を奏したね!」
中原「へー! それは良かったね。個室が空いていたからっていうのは?」
リザ「出産立会人は、一度、病院施設に入ったら退院まで外に出てはいけないことになってたの。いくら検査でコロナ陰性でも、出入りしてたら外で感染してきてしまうかもしれないでしょ。だから一緒に寝泊まりできる個室が必要なのよ。確保できなかったら立ち会いができないということね。」
中原「じゃあカイは出産に立ち会えたし、リザは産んだ直後の骨盤ガタガタ期にカイが一緒に寝泊まりしてくれてて助かったね」
リザ「外に買い出しに行けないのに売店も感染防止で閉まってたの。そのかわりおやつの自販機があったから、毎食カイがカロリーを買い足しに行ってたわよ」
中原「あ、やっぱあのごはんじゃ足りなかったんだ(笑)」
リザ「足りるわけないでしょ(笑)! ハーブティーばっかジャブジャブ飲むだけって、体の回復もへったくれもないわ! フルーツも多少持ち込んでたけど、退院したら即サラダ作ったわよ」
それではどうぞ。お約束のドイツ産院食です。
※中原さんの産院食掲載の記事はこちら
カイ「アントンの出産前に大雪が降って道が封鎖されてね。僕の大叔母も出産の時に大雪で動けなくなって、その時はキャタピュラで雪を乗り越えて来たパンツァー(戦車)で病院に運んでもらったんだ。親戚一同、また軍に頼まなきゃならないかと思ってヒヤヒヤしてたんだよ。入院の準備だけはバッチリして、いつ戦車呼んでもいいように運を天に任せろって言われてたんだ」
は? ええ!? なんだか凄いエピソードが頭上をかすめていったぞ!! まあなんだ、このふたりの話を聞いていて思うことは、運に身を任せて、あまり期待せず、怒らず、ゆったりと過ごしていることなんですよね。
中原「ままならない状況で、怒ったりつらくなったりしなかった?」
リザ「そう考え込まないようにしてたかな。ああだったのに、こうだったのに、って」
カイ「ふたりの時間を大切にして、できることを楽しむようにしたよね。そうするだけの時間はたくさんあったし」
リザ「散策には毎週といっていいほど行って、やったことなかった編み物や縫い物に挑戦するいい機会になったかな〜」
今の自分にできる現実的なことを見つけて、最大限楽しむ姿勢がこのふたりの穏やかな空気を生み出しているのですね。
それにしても「考え込まないようにする」って大事だな。アントン! 母ちゃんと父ちゃん、すごいぞ! 私も見習って、コロナ禍の過ごし方に取り入れてみようかな。
誰もいない森の中と、みんなに会えるインターネットの森と。