2021年6月1日

女流棋士・上田初美さんロングインタビュー。「育児しながら戦い続けるために」

早起きできず、
基本は手抜きの生活

――早起きできない上田先生が自ら提案した、「早起きできたら100円もらえる“ログインボーナス”」のシステムがありました。まだ続いてますか?

撤廃されました。甘えるなって(笑)。でも1年ぐらい続いたんじゃないかな。

――今は早起きできるようになったんですね。

いや起きてないです。お弁当は作りますけど。でも作る前から、子どもたちは起きてますからね。おもむろに「お弁当作んなきゃ」って起きて、子どもたちに「おはよ〜」って言われる、そんな感じです。でも、そろそろ本当にやばそうです、夫のイライラが(笑)。夫は私のママ友に愚痴ってるんですよ。公園で一緒に遊んで、私のママ友とすごく仲がいいので。「うち、朝起きてこないんですけど、なんとかなんないっすかね」って。でも、もう一人の優しいママ友が「私も全然起きないよ」ってフォローしてくれる(笑)。

――日常の外遊び、お洋服づくり、季節のイベントなどをツイッターに投稿されていますが、逆に「この部分は手抜きだな」と自覚している部分はありますか?

それ以外、全部です(笑)。やってないことは書かないですから。私は公園から帰ってきて、疲れてたら寝ますからね。その後に何が残っていようが、「じゃ、後はよろしく頼む」と言って布団に入る。なので、夫の方が不満が多いと思います(笑)。

お洋服は好きだからやっているだけで、娘のためじゃなくて、自分の楽しみですね。それを娘が着てくれてありがたいなあと。

――手抜きしているようには見えないのですが……。

それ、よく言われるんですよ。しっかりしていてチャキチャキ物事を進めると思われがちなんですが、家ではまったく違いますね。夫を尻に敷いていると思われてますけど、主導権はあっちにあります。

次女が入園するまでの1年は、
競争相手と並走することが目標

2012年、プロ棋士と将棋ソフトの団体戦が行われ、人間側が敗北。それ以降、事前に将棋ソフトを使った勉強がどれだけできるか、それが勝敗を左右するケースが増えている。育児に追われる上田さんは時間の余裕がなく、厳しい状況が続いている。

――現在、将棋の勉強は1日何時間ぐらいですか?

今はMAXで3時間です。しかも普通の3時間じゃないんですよ。疲労困憊の末の3時間だから、実質1時間ぐらいじゃないですかね。基本的には子どもが寝た後にやるしかないので、午後9時から12時ぐらいまでです。午後2時ぐらいに幼稚園が終わるんですが、うちの子どもは二人とも公園大好き人間なので、その足で公園へ行って、5時半ぐらいに帰ってきます。だから私も毎日5kmぐらい歩いて。これは何の修行なのかな(笑)。休日だと1万歩ぐらい歩いてますね。

完璧主義の方が両立しようとすると、非常に大変だと思います。私は将棋界きってのテキトー人間なので、「もうしょうがないじゃん」っていう感じで生きてるので、それが合っているのかもしれないですね。

――長いときは7時間も公園に滞在するそうですが、その間、頭の中で詰将棋を考えることはありますか?

ないですね。詰将棋を考えていると本当に危ないんです。集中しているときは景色を見ていても目に入っていない状態なので、何か起こっても対応できない。たまに携帯の棋譜中継を見て「今はこんな感じか」とか、夫の対局が中継されていたら「今日は何時頃に終わるかな」とか、そういう確認はしますけど、勉強はできないですね。公園では、最近はちょうちょを取ってます。網さばきをママ友から習って(笑)。

――勉強できない中、2021年1月から4月までの対局結果は10勝3敗でした。調子が戻ってきた感覚はありますか?

ないです。出産してから1回もないです。

――出産した後、タイトル(清麗戦)に挑戦するまで勝ち上がりましたが……。
 
不思議ですよね。将棋が強くなっている実感はまったくないんです。特に2人目が生まれてからは、劇的に弱くなっているように感じます。読む力とか、戦型に対しての理解度も、20代で将棋だけだった頃と比べると、ものすごく弱くなっています。それは間違いないですね。

――30歳になる直前のインタービューで「『30代は将棋を頑張った』と言える10年間にしたい」と話しています。今、32歳。現在のお気持ちは?

次女が幼稚園に入るまでは無理だと悟りました。1人目育児と2人目育児で、これだけ差があるっていうのは実際にやるまでわからなかった。2人目の方が楽なことが多いと周りの方も言ってますし、ある種それは事実です。ただ、取られる時間は、長女が1で次女が0.7だったとしても、足したらやっぱり重みがあります。

来年下の子が入園するまでに私がやるべきことは、相対的に将棋を弱くならないこと、並走していくことです。将棋は相手がいますから、お互いに強くなっても相手の方が強くなる量が多ければ差は開くわけです。それは自分が弱くなったことと同じ。相手より強くなるというのは、相手が強くなって、自分はそれ以上に強くなるということなんです。これは育児中には不可能です。夜9時までは埋まっていて将棋を挟むことはできない。でも他の人は夜9時までの時間がありますから。今は女流棋士のレベルが上がっていますので、何か背負っている中で相手よりも強くなるのは、非常に難しいです。

――保育園ではなく幼稚園を選んだのは、将棋よりもお子さんとの時間を優先したかったということでしょうか?

うちはどちらかと言うと「将棋の結果が人生のすべてではない」という共通認識を持っています。あくまで将棋のことだけを考えるのであれば、保育園に入れた方がいいと思います。でも、子どもと過ごす時間の中で与えてもらうものも、たくさんあります。非常に大変なこともありますけど、今この時期にしか見られない、代えられないものもあるのかなと思っています。
 

撮影/馬場わかな インタビュー/竹田一英 取材協力/田中誠

kodomoe2021年8月号(7月7日発売)のロングインタビューには、藤井聡太二冠の師匠・杉本昌隆八段が登場。そしてインタビュアーは、上田初美女流四段が務めます! 棋士同士の「子育て・弟子育て」談義をお楽しみに。
 
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