2021年1月15日

中野信子さんロングインタビュー。私が生きていくには、自分で脳を研究しないといけないんだと思いました【前編】

――ごきょうだいは?

妹がいます。妹は普通でした(笑)。うらやましかった。勉強は平均的ですけど、人の気持ちを汲むのが上手だったので。

――でも、中野さんご自身は自己肯定感が低いというわけではないんですよね。

そうですね。今はあまり自己肯定感が低いとは思わないんですけど、人生の一時期、そういう時期があったかもしれないですよね。かといって自己肯定感が高すぎるとも思わないし、ちょっと低めぐらいに設定しておいた方が、日本社会では生きやすいかなとは思いますけど。

自己肯定感が高い方が生存戦略上有利な国と、逆に不利になる国があって、その場所で適切なレベルがあると思うんですね。高い自己肯定感は日本ではあまりマッチしないと思うんです。最低限の自尊心というのはあってしかるべきだけれど、自分のことを過大に評価すべきではないと思います。

中野信子さんロングインタビュー。私が生きていくには、自分で脳を研究しないといけないんだと思いました【前編】の画像2

集団の中のバランスが
大事な日本という社会

中野さんは著作『ヒトは「いじめ」をやめられない』の中で、いじめ、すなわち社会的排除は、種の存続のために脳に組み込まれた機能であり、古来より稲作主体で災害が多く、集団で協力しなければ生き抜けなかった日本人は、遺伝子レベルで裏切り者を排除しようとする傾向が高いと説いている。

――倫理観だけでいじめをなくすことは難しい、回避策を考えてどううまくつき合うか、という論が、目からウロコでした。日本では他の国よりもいじめが起こりやすい、という分析も。

集団との向き合い方というのが日本においては一番気を遣うところというか、注意を要するところかなと思うんですよね。多分私が違和感を覚えてしまったそもそもの問題とも、かなり重なるかなと思うんですけれど。集団が最もリスクになり得る社会という(笑)。
集団であることが大事なんだけれども、逆説的に、集団から排除されるということが大きな危機にもなる。こことの兼ね合いが、他の国とは比較にならないほど致命的な要素として効いてくる、ちょっと特殊な社会ですよね、日本って。

ここでうまくやっていくには、決して学歴がそれを払拭してくれるわけではないんですよね。じゃあみんなと同調できることがいいのかというと、そうでもない。集団の中にいながらも適切な距離感を、自分の領域をきちっと保って、それもバランスよく、集団の中で位置を取らないといけない。
常に、浮きすぎていないか、沈みすぎていないか、それを調整できる細やかさだったり、社会を泳いでいくスキルというのが必要とされる。

日本の教育ではこういう対人スキルということを、あまり系統立てて教えてくれないですよね。けれど、体育会系の部活の中では人間関係をうまくこなしていく能力というのが養われるとされてきて。上意下達(じょういかたつ)の人間関係であったり、仲間の中で自分を適切にアピールする能力ですね。
で、これらを日本の旧来の企業が高く評価して、体育会系の人を積極的に採用してきたという歴史が長らくありましたね。特に昭和の戦後期、高度経済成長から後の日本社会で。

日本の社会ももう終身雇用制がだんだん崩れてきましたけれども、いわゆる有名企業では、いまだにそういう部分がある。女性が働きづらいと感じるのも、そういう人間関係の枠の中に入っていないことが一因かもしれません。
駒のひとつであるのに、出産や結婚、個人の理由で、会社の歯車であることを放棄されては困る、という。「よき歯車を作る教育」というのがこれまでの日本の社会の構造でしたし、まだまだそういう風潮は残っているのではないでしょうか。

この構造の中で、歯車である部分と個人である部分をうまく折り合いをつけながら、それを抱えて生きていくのが人生だ、と割り切るのもひとつの方法ですし、最初からもう歯車であることは放棄して、自分は自分というシステムとしてやっていくんだという戦略を取るもよし。
日本に定住するのか、日本という国ではない舞台で生きていくのか、これもまた自由ですね。どういうふうに子どもに人生を楽しんでいってほしいのかによって、親御さんの教育の方針も変わってくるのかな、と思います。

後編に続く……

BOOK INFORMATION

中野信子さんロングインタビュー。私が生きていくには、自分で脳を研究しないといけないんだと思いました【前編】の画像3『超 勉強力』
プレジデント社 本体1000円+税
 
頭のよさは後天的に伸ばせる! 試験、仕事、そして人生で確実に結果を出す。今の自分を超えていく! 脳科学×経験知から導き出した、学びを最大化するメソッド(「BOOK」より)
研究者であり法学博士、ニューヨーク州弁護士でもある山口真由さんとの共著。

最新情報はInstagramをCHECK!
Instagram @nobuko.n.nakano

インタビュー/原陽子 撮影/中垣美沙(kodomoe2018年10月号掲載)※本誌の内容から一部変更になっている箇所があります

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