2020年10月27日

作家・西加奈子さんロングインタビュー。お母さんがすべて、とは絶対思わないでほしい【後編】

反省しながら
アップデートしていきたい

今春、初期代表作『さくら』の映画化が決定し、2020年夏に公開予定(取材当時)。人気者だった長男の交通事故をきっかけに、家族の形が変わり、また再生していく様を、北村匠海、小松菜奈、吉沢亮が三きょうだい役で演じる。

――『さくら』では、ずっとスターのような存在だったお兄さんの突然の結末に、驚きました。

当時は全力で書いたし、恥じる気持ちは一切ないですけど、物語を動かすために彼を死なせてしまったという思いが今はあって。だからそういう書き方は今後は絶対しない、っていうのは決めています。

――西さんの中には、今も彼に申し訳ないという気持ちが。

あります、あります。すごくあります。それは作家としてやるべきじゃなかったと思います。『サラバ!』は、それから10年目に『さくら』と同じ編集者の方と作りたいと思ったんですが、家族の話なのでやっぱりどうしても『さくら』のことが頭にあって。
人が亡くなるっていうことはこれからも書きますけど、ああいうふうに、神様の采配でそうなったみたいな書き方はせずに、主人公の環境の変化は、彼の髪の毛がどんどん抜けていくとか、誰にでも起こりうることで書くようにしました。

でもきっと『サラバ!』も、10年後に読んだら、「これは間違ってた」って思うところはあるでしょうし。反省しながらアップデートしていきたいとは思います。

――ご自身の作品は、定期的に読み返されるんですか。

読み返しはしないですけど、例えば、著者が一冊ずつ語るような特集を組んでいただいたときとか、今回のように映画化の話をいただいたときとか、思い出すんですよね。『さくら』はやっぱり、忘れられないですね。すごく売れたというのもあるし、自分の人生が変わった作品でもあるので。『さくら』のおかげで、書くことだけに集中して、作家としてやってこられたというのはあるんですけど、でも、もう絶対ああいう書き方はしない、っていうのは決めてます。

――『まく子』(福音館書店)などでもそうですが、西さんは思春期の男の子の気持ちや体の変化を、どうしてあんなに詳しく書けるんでしょう。

う~ん、もう本当、想像でしかないです。思春期の男の子もそうですし、年の離れた男性のこととかを「どうして書けるんですか?」って聞かれることは多いんですけど。だからと言って、私は今42歳なんですが、42歳の作家の女性の話をうまく書けるかって言われたら、そうではないと思うんですね。
人間って等しく違うから。性別や年齢が違うということで距離ができるわけじゃないというのはすごく思っていて。一緒に育ったきょうだいのことすらわからないし。うん、そこは等間隔でいたいと思っています。
だから全部難しいし全部自分の想像でしかない。何度も何度も書き直すし、読み直すし、何度も何度も「この子やったらどうやろう」、って考えて書くという感じですね。

――お子さんが生まれたことで、書いてみたくなったものはありますか。

そうですね……、小説に関しては、まったくないですね。出産シーンとか、経験できたら書きやすくなるけど、私、無痛分娩やったから、自分の場合は苦労もしてないし。あとは絵本とかを、それこそ「いつか息子に読んでもらいたい」みたいに思って書くのが、私の性格上、一番危険やと思ってて。そこは切り離してます。色気出ちゃうんですよね。「お母さんすごい」って思われたいって。それは本当にやめないと。私、特にめちゃくちゃ調子のりなんで(笑)。そこは自分にブレーキかけてます。

――子育てに関しては、同じクリエイターのママ友達とのやりとりにも、励まされているとうかがいました。

そうですね。もう本当に勇気というか、糧になってます。だから子どもには「親より友達やで」っていうのは言いたいですね。「家族より友達が大切」って教えたい(笑)。もちろん家族は美しいけど、そうじゃない家族もあるし、家族がいない人もいるわけやから。私は家族を持つことを選んだし本当に幸せですけど、それが一番やとは思わないです。ひとりを選ぶ人も、全然おってほしいし。

作家・西加奈子ロングインタビュー「お母さんがすべて、とは絶対思わないでほしい」【後編】の画像2

ふたりの大先輩との共作に緊張

小さい頃から絵を描くことが好きで、自身の作品の装画も手がける西さん。愛用の画材はサクラクレパス。5月には絵を担当した絵本『字のないはがき』(小学館)が発売となった。
向田邦子さんが戦時中の家族の思い出をつづった名エッセイを絵本化、文章は角田光代さんが手がけている。

――作家ではなく画家として、いつもとはまた違うお仕事はいかがでしたか。

そうですね、すごく緊張しました。表紙に「向田邦子/原作 角田光代/文 西加奈子/絵」というこの並びですし。もう本当に光栄すぎて。とにかく、向田さんと角田さんの邪魔をしないっていうことだけ決めて描きました。
「戦争はダメだよ」って教訓めいた絵本にはせんとこう、というのは、角田さんも私も共有できていました。そんな打ち合わせはしていないんですけど。やっぱり涙なしでは読めないお話ですし、あとは作家として向田さんの筆の品というか、私やったらもっとドラマチックに書いちゃうと思うんですけど、なんぼでも美談にできるところを決してそうしない、人間の品やなぁと思います。

――昭和世代に人気の向田邦子作品ですが、絵本になったことでより広く手に取ってもらえることが増えそうですね。

そうですね。読んでほしいですね、たくさんの方に。これを機に向田さんのエッセイを読んだら、『字のないはがき』でお父さんが初めて泣いたのを見た、その奇跡もわかるじゃないですか。こんなにむちゃくちゃ怖いお父さんやったんや、とか。
絵本では触れられていないですけど、そんなきっかけになったらうれしいです。

BOOK INFORMATION

作家・西加奈子ロングインタビュー「お母さんがすべて、とは絶対思わないでほしい」【後編】の画像3『字のないはがき』
向田邦子/原作 角田光代/文
西加奈子/絵 小学館 本体1500円+税
 
向田邦子一家の戦時中のエピソードをつづった感動の名作『字のない葉書』(『眠る盃』所収、講談社)を絵本化。文・角田光代、絵・西加奈子という人気作家の共作としても話題。

最新情報はオフィシャルサイトをチェック!
www.nishikanako.com

インタビュー/原陽子 撮影/大森忠明(kodomoe2019月10月号掲載 )

 

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