平野レミさん・和田明日香さんロングインタビュー。我が家の伝統は「やりたいことをどんどんやれ」【後編】
自由放任主義
ふたりの息子は対照的に
――お手伝いさんやベビーシッターさんのお世話になりました?
レミ ならない。仕事で出かけるときは、父や母や、和田さんのほうの義母に「すみません、すみません」。近所の人にも「すみません」って頼んで巻き込んで、なんとか乗り切ってここまでこれたんですよね(笑)。
みんな、助けてくれたから、今も近所の人に会うと、「あのときはありがとうね」と頭が下がっちゃう。私はずっとずっとみんなに感謝しっぱなし。
明日香 近所の人たちみんなが、「あら、率ちゃん立派なお父さんになって」って、もうみなさん、親みたいな感じですもんね(笑)。
――そういう人間関係を作るのもひとつの能力です。
レミ それ、大事ですよ。私に仕事がないときは、近所の子どもたちを「いらっしゃい」って呼んで、ごはん作ったりしてましたから。
――レミさんの教育方針も、お父さん譲りの「好きにやれ」ですか?
レミ そうそう。唱と率も自由にさせていたけど、私は「勉強とか宿題はちゃんとやった方がいいんじゃない?」とちょっと言ったりするんだけど、和田さんは父と一緒で一切言わない。だから夫婦ゲンカですよ。「和田さんから言ってよ」「いいからいいから」って。
唱が中学のとき、明日から学期末試験なのに帰ってこないのよね。「和田さん、帰ってこないよ」と言ったら、「いいからいいから」って。そして夜、唱はパンフレットの束を抱えて帰ってきて、嬉しそうに「お母さん、ギターどれ買おうか」。それで制服着たまんま、ボロボロのギター抱えて寝ちゃったの。「和田さん、大変! 寝ちゃってる」「いいよいいよ。このままでいい」って言うの、和田さん。それで今、「あそこでギター取り上げてたら、唱は向いてない嫌なことをずっとやって、つまんない人間になってたよ」と言ってる。
――じゃあ、和田家では進学校に入れたいとかは一切なかった?
レミ なかったわね。唱は、ますますギターにのめり込んでいったので、私と一緒の文化学院に入れちゃったの。もうそこからは音楽ひとすじ。
率は率で、高校受験のときに自分から「お母さん、塾行くからお金ちょうだーい」とか言って、何校か受けて全部入っちゃったんですよね。で、「和田さん、どこにしようって言ってるけどどうする?」と聞いたら、「なんにも言わない方がいいよ」って。それで率は自分で高校を選んだの。だからうちは自由にさせていたから楽で楽で(笑)。
明日香 率さんは「自分がしっかりしなきゃ」と目覚めて、全部ひとりでする子どもだったんです。
レミ 遠足行くときのお知らせとか、学校からプリントが来るでしょ。私がどこかにやっちゃうから、率は仲良くなった友達のお母さんに電話して聞いて、キッチンにあるカレンダーの空白のところに「ハンカチ、水筒、ちり紙、ビニール袋……」なんて全部書いてたのね。今でも、そのカレンダーありますよ。
あんまりキチッとしていて、一週間前から水筒に麦茶詰めちゃうの。「腐っちゃうからダメ」って言っても入れちゃうの。唱が遠足の朝に、「水筒がないよぉ~」って騒いでいるのを見て、学習したのね。
――唱さんが、「中学まで母が参観日に来ると嫌だった」と書いています。「かわいい」と声に出したり、子どもたちの演奏にノリノリで踊る母が恥ずかしかったと。でも、今では母に感謝していると。
レミ あれ読んで、びっくりしたのよね。「なあにぃ~?」って。数十年も経ってるのに知らなかった。なんだかいつも、私のことを怒ってのは覚えています。(舌打ちして)チッ、そんな感じで、自分は音楽やっているからって、ずっと私がお母さんだってことは黙っててくれって言っていた。「絶対ダメだよ、言っちゃ」と言うから、「はい、はい、わかった」って。
――率さんはどうだったのですか。
レミ 率は、あーちゃんに「お母さん本当変わっててやんなっちゃった」とか、言ってた?
明日香 結婚した当初は「お母さんあんなんだから、ちょっと気をつけてね」って(笑)。
レミ 「あんなんだから」ってどんなんだから?
明日香 「困ったことがあったらすぐ言いなよ」って。
レミ それでどうだったの?
明日香 私、何にも困らなかった。
レミ ああ、よかった。いい子だね、あーちゃん。
明日香 率さんと結婚を決めた日に、私の妊娠がわかったでしょ。うちの両親は喜んでくれたけれど、戸惑いも大きかったんです。でも、レミさんは涙目で抱きしめてくれて手放しで喜んでくれた。「あ、こんなに喜んでもらえるものなんだ」と思ってすごい安心しました。
心で作る料理
和田家の文化伝承中
明日香さんが8つ年上の率さんと結婚したのは、大学4年生のときだった。今では5歳と、2歳と1歳(いずれも取材当時)の1男2女のお母さん。そしてレミさんの薫陶を受け、食育インストラクターの道へ。
――レミさんと和田さんに育てられた率さんは、どんな夫ですか。
明日香 ちっちゃいときのしっかり者がそのまま大きくなってさらにしっかりした感じです(笑)。でも、頭が凝り固まってるわけではなくて、子どもと遊ぶときは子どものようになってくれるし、私に対しても「どんどんなんでもやんなさい」と言ってくれる。両親のいい教えをそのまんま受け継いで、それを私たち家族にも実行してくれてますね。
――明日香さんもお子さんに対しては、その教えを実行中ということでしょうか。
明日香 もちろん。だって、私が「勉強しなさい」とか「立派な大学を出なさい」とか言っても説得力はないから、とにかく好きで夢中になれることを見つけるために応援するしかないなと思っています。
レミ 当然だけどもね、あーちゃんは、子育てを面倒くさがらないのよね。「うるさい。ちょっとあっち行ってなさい」とか、「ちょっと待ってなさいよ」とか、「ああっ、もうっ」とか一度もない。顔見てると全然そうは見えないけど(笑)、すごくかわいがっちゃって、本当にいいお母さんよね。
――明日香さんは、結婚するまでは、料理にはまったく関心がなかったとか。
レミ 率が、「あーちゃんがねえ、餃子ができないって泣いて会社に電話をかけてくるんだよ……」って言ったことがあったのよね。
明日香 餃子、下手くそだったんです。何作っても下手くそだったんですけど、悔しくて。でも率さんは優しくて、「不味くてもいいから、3回は作ってみよう。3回作って嫌だったらもう作んなくていいから」と言ってくれるので、失敗してももう一回頑張れたりするんですよね。率さんの言葉に支えられながらなんとかここまできました。
レミ ゼロからここまで、えらいじゃない。だって、キャベツとレタスの違いがわかんなかったっていう人が(笑)、こんな立派な主婦になっちゃったんだからね。
明日香 まあ、子どもも次々生まれたので。子どもにごはんを作るというのは、旦那さんに作るのとまたちょっと違いますよね。私が作ったものを食べて大きくなっていくのがわかるから、毎日ちゃんと作ろうとよけいに思います。
レミ 手づくりのものって、やっぱり心が入っているからね。形はないけども絶対入ってる、なんかおいしいスパイスが。和田さんは、お茶一杯、ごはん一粒でも、「うちで食べるのが一番美味しい」と言うのよ。
――こういうレミ精神を明日香さんも引き継いでいかれるんですね。
明日香 本当に何から何までというか。家が近いのもあるんですけど、実家の母よりも子育てについて相談してますね。レミさんの言うことに、「え~っ」と疑問に思うことがひとつもありません。
実際に育てあげた息子たちがふたりとも、私は大好きです。ひとりは旦那さんなんですが(笑)。だから私たちも子どもたちを率さんや唱さんのように育てたい。和田家のお父さんとお母さんの関係を見ていても、憧れ要素がいっぱいあるし。
レミ あーちゃん、嬉しいこと言ってくれるじゃない。うん、今日はいっぱい話せて嬉しいっ。
INFORMATION
『和田明日香のほったらかしレシピ 献立編』
著者/和田明日香 辰巳出版 本体1000円+税
食育インストラクターでもある和田明日香さんの、簡単便利な最新レシピが2020年9月下旬に発売されます。今回は、2019年12月に発売された『ほったらかしレシピ』の第二弾! 忙しい子育て世代にうれしいレシピ集です。
インタビュー/島﨑今日子 撮影/志田三穂子(kodomoe2015年10月号掲載)※本誌の内容から一部変更になっている箇所があります