懐かしくてあたたかい、現代の人情絵本 『すきま地蔵』 室井滋さん×長谷川義史さん インタビュー 第1回(全3回)
次々に建つビルのすきまから出られなくなったお地蔵さん一家。彼らにおつかいを頼まれた小学生の“ボク”は東へ西へ、困っている人に届け物をするために走る——!
室井滋さんと長谷川義史さんの新刊絵本『すきま地蔵』。お二人に絵本づくりからユニークな子ども時代のことをまで、大いに語っていただきました。
文・構成/宇田夏苗 撮影/黒澤義教
むろいしげる/富山県生まれ。早稲田大学在学中の1981年に「風の歌を聴け」でスクリーンデビュー。数々の映画賞受賞のほか、2012年に日本喜劇人協会喜劇人大賞特別賞、15年に松尾芸能賞優秀賞を受賞。絵本『いとしの毛玉ちゃん』(金の星社)に連動したCDアルバム「8つの宝箱~いとしの毛玉ちゃん~」(日本コロムビア)を同時発売。近刊に初めて自身で描画も担当した絵本『室井滋のてぬぐいあそび絵本「ピトトト トンよ~」』(世界文化社)がある。
はせがわよしふみ/大阪府生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーターを経て、『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』(BL出版)で絵本デビュー。『おたまさんのおかいさん』(日之出の絵本制作実行委員会/作、解放出版社)で第34回講談社出版文化賞絵本賞、『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)で第13回日本絵本賞および第57回小学館児童出版文化賞、『へいわってすてきだね』(安里有生/詩、ブロンズ新社)で第7回MOE絵本屋さん大賞2014第1位を受賞するなど受賞歴多数。
『すきま地蔵』
文/室井滋 絵/長谷川義史
「すきま地蔵の おつかいくん 参上っ!」 ビルのすきまから出られなくなったお地蔵さん一家に、さまざまなおつかいを頼まれた「ぼく」は、困っているひとのため、東西南北の町をかけめぐって大活躍! 大人気コンビが贈る最新絵本は、現代の人情絵本! 読み聞かせにもぴったり! 大好評発売中。
四六倍判変型/定価:本体1300円+税(MOEのえほん/白泉社刊)
名コンビが生まれるまで
――「しげちゃん一座」として、絵本の朗読に音楽やトークを織り交ぜた絵本ライブを全国各地で行い、小さな子どもからシニアまでを魅了しているお二人。そもそもの出会いは?
室井 私が週刊文春でやっていた連載エッセイ「すっぴん魂」がきっかけです。挿絵のイラストレーターさんを探していた時に長谷川さんの絵を見て、「これが絶対にいい!」と思いお願いしました。でも長谷川さんが大阪在住ということもあり、12年間の連載中はほとんど会ったことがなく。
長谷川 3回くらいしかなかったですね(笑)。
室井 ところが長谷川さんが絵を描いてくださった絵本『しげちゃん』の原画展が地元の富山で開かれた時に、二人でトークイベントに出ることに。それがすごくウケたんですよね。絵本関係の方に「大阪でもやってほしい」と言われ、サックス・フルート奏者の岡純(まこと)さん、ピアニストの大友剛さんと4人で「しげちゃん一座」を旗上げしたのが2011年ですね。
長谷川 以来、自然発生的に続いています。普段、僕は一人で絵を描いているので、絵本ライブは純粋に楽しいですね。
室井 私は絵本が面白くなり、長谷川さんとの共作を重ねて、『すきま地蔵』で7冊目になりました。
――「しげちゃん一座」ではお二人の漫才のような!(笑)やりとりも人気ですが、一緒に絵本を作る楽しさとは?
長谷川 室井さんは絵本やエッセイも書かれていますけど、女優さんなので、絵本はこうしないといけないとか、子どもはこのほうが喜ぶとか、変な先入観がまるでないんです。言葉選び一つとってもすごく自由に書かれているなと感じる。絵を描く人間としては、そこが新鮮で面白いですね。僕はまず室井さんの文章を読んで絵を描いていくわけですが、意外な場面が次にきたりしますから。
室井 私は絵本作家ではないので、絵本はこうでないと、という意識がそもそもないんですよ。というより、他の女優さんとか、エッセイストの方たちのことも全然気にしていないし。
長谷川 あはは。
室井 そういう人間なんです(笑)。逆に、普段自分がいるジャンルとは全く違う世界のこととして、長谷川さんから絵本業界のことを聞くのが楽しくてしょうがないですね。芸能界より個性的な作家さんがいるなあとか(笑)。何より長谷川さんの絵が大好きで、連載をお願いしたのが私自身なので。長谷川さんは物語に合わせて絵の雰囲気を変えられたりするので、毎回、どんな絵が出てくるかが一番楽しみなんです。(第2回に続く)