2018年10月17日

懐かしくてあたたかい、現代の人情絵本 『すきま地蔵』 室井滋さん×長谷川義史さん インタビュー 第2回(全3回)

次々に建つビルのすきまから出られなくなったお地蔵さん一家。彼らにおつかいを頼まれた小学生の“ボク”は東へ西へ、困っている人に届け物をするために走る——!

室井滋さんと長谷川義史さんの新刊絵本『すきま地蔵』。お二人に絵本づくりからユニークな子ども時代のことをまで、大いに語っていただきました。
文・構成/宇田夏苗 撮影/黒澤義教

第1回の記事はこちら

むろいしげる/富山県生まれ。早稲田大学在学中の1981年に「風の歌を聴け」でスクリーンデビュー。数々の映画賞受賞のほか、2012年に日本喜劇人協会喜劇人大賞特別賞、15年に松尾芸能賞優秀賞を受賞。絵本『いとしの毛玉ちゃん』(金の星社)に連動したCDアルバム「8つの宝箱~いとしの毛玉ちゃん~」(日本コロムビア)を同時発売。近刊に初めて自身で描画も担当した絵本『室井滋のてぬぐいあそび絵本「ピトトト トンよ~」』(世界文化社)がある。

はせがわよしふみ/大阪府生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーターを経て、『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』(BL出版)で絵本デビュー。『おたまさんのおかいさん』(日之出の絵本制作実行委員会/作、解放出版社)で第34回講談社出版文化賞絵本賞、『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)で第13回日本絵本賞および第57回小学館児童出版文化賞、『へいわってすてきだね』(安里有生/詩、ブロンズ新社)で第7回MOE絵本屋さん大賞2014第1位を受賞するなど受賞歴多数。

『すきま地蔵』
文/室井滋 絵/長谷川義史

「すきま地蔵の おつかいくん 参上っ!」 ビルのすきまから出られなくなったお地蔵さん一家に、さまざまなおつかいを頼まれた「ぼく」は、困っているひとのため、東西南北の町をかけめぐって大活躍! 大人気コンビが贈る最新絵本は、現代の人情絵本! 読み聞かせにもぴったり! 大好評発売中。
四六倍判変型/定価:本体1300円+税(MOEのえほん/白泉社刊)

 

愛猫が出会わせてくれた“すきま地蔵”

――『すきま地蔵』のアイディアはどのように生まれたのですか。

室井 うちにいたキンちゃんという猫が、昨年の春に亡くなったんです。20歳で人間でいえば100歳。大往生でしたけれど、最後まで看取って動物霊園からお骨を抱きしめて車で帰る途中、信号待ちをしていたら、ふっと私の首が左に動いたんです。するとビルの合間にお地蔵さんを見つけたんです。猫はよく路地に入るし、すきまが好きですよね。もともと野良猫だったキンちゃんが出会わせてくれた気がして、これをもとに絵本を書こうと思いました。そうしたら、長谷川さんもたまたますきま地蔵に遭遇していたんですよね。

長谷川 去年、テレビ番組の仕事で京都を歩いている時に見ました。なんだか窮屈そうで気の毒でね。その時のイメージをもとに、お地蔵さん一家を描きました。

――お地蔵さんといえば、かつては町のどこかしらに必ずいたと思うのですが、最近あまり見かけないような?

室井 でもこの絵本を出してから、「実は近くにお地蔵さんがいらっしゃいました」とか、目に入るようになったという方が結構多いんですよ。

――見えていないだけなんですね。

室井 そう思います。お地蔵さんだけでなく、昔からそこにあったもの、例えば桜の木が開発によって切られたり、失われていっていますよね。でも、そうしたものには人々の思い、祈りのようなものが込められているはずなんです。目に見えるものより、そうした見えないものこそ、私は大事な気がして。今回はお地蔵さんが町を見守っている話にしたいと思い、『幸福の王子』と『かさじぞう』を下敷きにしています。最後に目が悪くなったおばあさんのために、“ボク”がたくさんの針に糸を通す話は、実は私が子供の頃に祖母にやっていたことなんです。長い糸に沢山の針がぶらさがった様子が、鯉のぼりに見えたらいいなあって。

長谷川 最初に室井さんがくれたのが、紙で作った鯉のぼりだったんです。だからすごくこだわりがあるのかなと思って、パッと空が開けるシーンを描きました。

室井 空に鯉のぼりが舞う絵を見た瞬間、天才だ!と思いました(笑)。長谷川さんからは最初に「ビルとビルの間にいるお地蔵さんたちは、動けるのか?」と質問されましたね。

長谷川 まずそこが気になったので。文章を読んで絵をイメージすることは誰でもできるけど、絵にするとなると、細かいことをわかってないといけない。お話であってもそこは正しくありたいといつも思っています。(第3回に続く)

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