2014年6月30日

6月のテーマは「なく絵本」【広松由希子の今月の絵本・31】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

6月のテーマは「なく絵本」

家を出るなり、とんでも豪雨。
駅に駆け込み、すべって尻もち。
泣きっ面にハチの梅雨シーズン……いかがお過ごしでしょうか。

尻もちはつかなくても、
洗濯物はたまるし、外遊びはできないし、
親子とも、ストレスたまりがち。
イライラぶつかって、泣きたくなることもありますね。

じめっと内にため込まず、外に発散できるよう、
今月は、「なく絵本」を選んでみました。
いっしょにわんわん、おんおん、しとしとないてください。

hiromatsu1406
 

まずは、『わんわん わんわん』で、
かるーくないてみましょうか。

イヌが1匹
「わんわん わんわん」
ネコも出てきて
「ニャーゴ ニャーゴ」

めくるごとに、場面がひしめき、鳴き声が増えていきます。
「ぶひっ ぶひっ」
「ンモー ンモー」
「クワッ クワッ クワッ」
「めへー めへー」

それぞれ好き勝手に、歩きながら鳴く様が
騒がしくって、おかしい。
飛び交う擬音。
意味のある言葉は、ひとつも出てこないから、
理屈抜きに音読して、楽しく発散して。

ところが、あれ? 
突然、静かになったと思ったら……。

ゆるやかな緩急で、
とぼけた物語が
「人間語」抜きに伝わります。

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『わんわんわんわん』
高畠純/作 理論社
本体1000円+税 
2002

 

 

もっと激しくなきたいときは?
散歩不足の梅雨時に、本全体からおかしみ漂う
『ゆかいなさんぽ』と洒落込みましょう。

本文ページはモノクロで、
南洋の民俗絵画かタペストリーを思わせます。

まるまる太ったこぶたが、
「ぶたぶた ぶたぶた」歩いて散歩に出かけます。
これから出会う仲間の姿も、道の先に小さく見えます。
動物たちは、みんなで浮かれて山のほうへ。
「ぶたぶた がおがお うぉお ぴょんぴょん」

山からはまた鳥たちが、
「つぴつぴ ちゅんちゅん じぇえ」
にぎやかに下りてきて、鉢合わせ。
どっちの歌がうまいかって、
みんなで言い争い出しました。

さあ、クライマックス。
うんと、やかましく読んでください。

「ぶたぶた つぴつぴ がおがお ちぺちぺ
うぉお ちゅん ぴょん ちゅん じぇえ」

ああ、やかましい。
「やんなっちゃう ぶたぶた」
意外とすっきりの読後感。

 yukaina

『ゆかいなさんぽ』
土方久功作・絵 福音館書店

本体800円+税 1965

 

 

さて、本格的に「なく本」も1冊。
この本の主人公は、人間の「ぼく」。

ころんで ないた。
けんかして ないた。
くやしくて ないた。
うれしくて ないた。
こわくて ないた。

いろんな場面で、ぼくはなく。
1日1回はないている。
どうしてぼくは、なくのかな?
大人になったら、なかなくなるのかな?

なく自分を外から見る目。
降り止まない涙には、
意外とこんな目が、
水を差してくれるかもしれません。

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『ないた』
中川ひろたか/作 長新太/絵
金の星社 
本体1300円+税 2004

 


昨日は梅雨というよりも、熱帯のスコールみたいな土砂降りのなか、
子どもを抱っこしながら、傘を差し、自転車を押すお母さんを見かけ、
「がんばれー」と小さく声をかけました。

いや、ほんと、たいへん。
時には、ないたり吠えたり、してくださいね。

 

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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