絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます！

5月のテーマは「緑の絵本」

花粉の風はぼちぼちやんで、
緑の風が吹く頃となりました。
家の前の公園の
芝生に足を投げ出して、
カチャカチャ原稿書いております。

暑くもなく、寒くもなく、蚊もいない。
空は青く、そよ風が頬をなで、
木の葉を揺らしています。

こんな感謝の季節に読みたい、
木の絵本。
特に「緑」が印象的な本を
本棚から持ち出してきましたよ。

まずは、これこれ、
その名も『木の本』。

表紙には、
葉ずれの音も聞こえてきそうな
若い緑のケヤキの木。
公園や雑木林で見られる
身近な木々のようすが描かれています。

ウメ、ジンチョウゲ、ユキヤナギ。
早春から季節を追って。
クヌギ、エゴノキ、ヤマザクラ。
木の花、葉っぱ、木の芽生え。
サツキ、フジ、ホオノキ、ミズキ。
緑の色も濃くなります。
やがて秋の木の実、冬の木の幹や小枝まで。

ふだん通り過ぎてしまう木の表情も
やさしい写実で、じっくり眺めて。
巻末には、ていねいな索引と解説も。

次に公園に行ったときには、
もっと立ち止まって見てみよう。
季節の味わいが深くなるかも。
これから親子で木と親しくなろうという人に、
最高の一冊。

『木の本』
高森登志夫／絵　萩原信介／文
福音館書店　本体1600円＋税　1986

木があること。
木といること。
その幸せをたっぷりしみじみ
感じさせてくれる本は、これ。
『木はいいなあ』。

木がたくさんあるのは、いいなあ。
生き生きするもの。
たった一本でも、いいなあ。
木陰ができるもの。

葉っぱは、いろんな遊びができるし。
幹と枝は、木登りができるし、りんごもとれる。
それから、それから……

鳥も人も動物も、
木といっしょに暮らし、憩い、
木に守られていることを知ります。

原書の初版は半世紀以上前。
やわらかい調子のなかに、
すっと一本通ったメッセージが届きます。
自然にくつろぐ素朴な筆致もすてき。

木のよろこびを胸いっぱい吸って、
読み終わったら、
自分の木を植えたくなります。

『木はいいなあ』
ユードリイ／作　シーモント／絵
偕成社　本体1000円＋税　1976

うちの本棚で、ひときわ緑な本は、これでした。
『すえっこおおかみ』。
主役はオオカミですが、
中心に木が、しっかと根をはっている本なのです。

原っぱで遊びまわるオオカミの兄弟。
ところがすえっこだけは、ナラの木陰に隠れ、
兄さんたちをじっと見ているだけ。

だって、兄さんや姉さんたちみたいに、
まっすぐ転がったり、速く走ったり、
高く飛んだりできないから。

話を聞いた父さんオオカミは、
「どれ、ともかく いっぺん やって みせてごらん」
と言います。

「やれっこないんだけどなぁ」
と思いながら、うねうね転がったり、
よろよろふにゃっと走ったりしてみせると……

今できることを、ひとつずつ。
早くできるように鍛えるのでなく、
よしよしと慰めるのでもなく、
「それでいいんだ」と認める、オオカミ父さんの包容力。

そして、いっぱい遊んだあとで、
今は小さなドングリが、
いつかナラの大木になることを伝えてくれる、
ラストシーンの濃い緑の影が、まぶたに焼き付きます。

『すえっこおおかみ』
ラリー・デーン・ブリマー／文　ホセ・アルエゴとアリアンヌ・デューイ／絵
まさきるりこ／訳　あすなろ書房　本体1300円＋税　2003

大きい人たちには、
５年後、10年後、20年後、読むたびにちがう読み方ができる
『おおきな木』（シェル・シルヴァスタイン作 村上春樹訳 あすなろ書房 2010）や、

いのちを養う
『アフリカの大きな木 バオバブ』（ミリアム・モス／文　エイドリアン・ケナウェイ／絵　さくまゆみこ／訳　アートン　本体0000円＋税　2006）も、どうぞ。

花や果実を焦らなくても、
幹をゆっくり太くしてくれるような
絵本との出会いがあります。