8月のテーマは「ひとやすみの絵本」【広松由希子の今月の絵本・22】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
8月のテーマは「ひとやすみの絵本」
ふぅ。ハンパじゃない酷暑。。。
昨日も寝苦しい夜でした。
昼もじっとり汗をかきながら、
イライラを抑えて、もくもく家事をして、しこしこ仕事をして…
いや、もうムリムリ。無理でしょ。
休みましょうよ、こんな季節は。
ゴロゴロうだうだしたっていいじゃない。
と、自分に言いたくて、今月の選書は「ひとやすみ」です。
まずは、全身脱力で『ぷかぷか』。
青空にへろへろ飛ぶのは、
真っ赤なタコ(凧)じゃなくてタコ(蛸)!
胸の広がる爽やかな表紙です。
どこから海で、どこから空か、
境目がないような、いい天気。
タコはぷかぷか海に浮かびながら、
空飛ぶ自分を夢想します。
ヘリコプターみたいに8本足を回したり、
気球みたいにまんまるにふくらんだりしたらどうかな。
それとも、雲に乗ったら飛べるかな。
空を飛びたいタコの夢は叶うのかしら…?
煮つまった頭のガスが抜ける、
脱力の読後感がすてき。
『ぷかぷか』
石井聖岳/作 ゴブリン書房
定価1470円 2005
おつぎは、いっしょに『ねんころりん』。
表紙には、水上のハンモックに揺られるカエル。
うっとり、憧れの寝姿ですね。
中もさぞすやすや寝ているかと思いきや、
前半は、ただただ眠いシーンばかりが描かれます。
こねこの兄弟を連れて、足を引きずるかあさんねこ。
ひとりでボートをこぐ赤ちゃん。
一日泳ぎ続けた魚に跳ね続けたカエル…
みんなくたくたでねむねむなのに、寝られない。
ページをくりながら、眠りたくてしかたない
気持ちにさせられたところで、後半。
それぞれにとって最高の場所で、眠りについていきます。
ああ、ずぶずぶと深い眠りへ落ちていく幸せ。
ねんころりん、ねんころりん…
うーむ、さすがバーニンガム。
否応なく寝ついてしまう、
みごとな手腕のおやすみ絵本です。
『ねんころりん』
ジョン・バーニンガム/作 谷川俊太郎/訳
ほるぷ出版 定価1365円 2001
こんどは、ころんと『ひるねのね』。
なんて愛らしい子ゾウの寝ゾウ。
思わず隣に転がりたくなる表紙。
いとも単純に見えて、こんなゾウの姿体が描けるのは、
旭山動物園出身、あべ弘士さんしかいませんね。
舞台はサバンナ。
ゾウの家族が朝ご飯に出かけます。
ゾロゾロ トコトコ ヨチヨチ ノシノシ
おばあちゃんから赤ちゃんまで、
ゾウの家族はメスと子どもの群れで行動するんですね。
ムシャムシャ パクパク
大きいゾウたちは、葉っぱを食べて、草を食べて、水を飲んで、
チューチュー ゴックン
赤ちゃんは、おっぱい飲んで、おっぱい飲んで、おっぱい飲んで、
おなかくちくなったら、
コテッ
赤ちゃんを囲んで、みんなも休憩。
そうそう、これがだいじよね。
体の声は、赤ちゃんに聞けー。
『ひるねのね』
あべ弘士/作 ポプラ社
定価1365円 2011
最後に『ゆっくりのんびり』で
息を整えましょう。
はなちゃんとかめさんは、いいコンビ。
起きるのも、食べるのも、トイレいくのも、歩くのも、
ふたりはいつも、ゆっくりのんびり。
家族みんなが焦っていても、
友達にどんどん抜かれても、
かめさんといっしょなら、ぜんぜんへいき。
ずっと変わらない笑顔のまま、
ひたすら、ゆっくりのんびり。
とことん、ぜんぜんへいき。
自分のじりじりイライラがあほらしくなってくる。
成長や冒険を無理強いしない絵本。
『ゆっくりのんびり』
いとうひろし/作 絵本館
定価1260円 2010
あーあ。ごろーんと転がって、ぽかーんと口あけて、
「そらー」とか「うみー」とか感じてたいなあ。
なかなか叶わない人も、
絵本をおともに、
今夜は、心のひとやすみ。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
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