2019年1月25日

連載その80 1月のテーマ「お医者さんの絵本」

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年明け早々、めったにひかない風邪をひいてしまいました。
ベッドでもうろうとしていると、病気がちだった子どもの頃の通院や、お医者さんの記憶がよみがえります。具合悪くてつらいときに、苦い薬飲まされて、痛い注射も打たれるって、三重苦じゃん! って親に悪態ついていた気がする(具合悪くても口だけ達者な子ども)。

そうだよね。大人は理屈でまだがまんできるけど、子どもは不安だし、つらいよねぇ。慣れない場所で、相手が知らない大人なら、なおさら緊張するでしょう。
ああ、せめて、楽しいお医者さんの絵本でも読んでやったら少し気楽になるのかなあと、ぼんやり思った次第です。では、どうぞ。

まずは、『さるのせんせいとへびのかんごふさん』に、緊張を解きほぐしてもらいましょう。動物村に新しくできた、ほがらかなサルのお医者さんとキュートなヘビの看護師さんです。安心してください。大胆な治療方針に、体を張ったサポートぶりがすごい、名コンビです。

ヘビのかんごふさんときたら自ら(!)薬をつくるための試験管になったり、「ガブリ!」と患者の腕にかみつく注射器になったり、身体測定のメジャーになったり、するする胃カメラになったり……スーパー看護師! こんな絵本の治療なら、緊張どころか、どっと脱力して、大笑い。熱も血圧も下がりそう。風邪ひきのキツネも、腹いたのブタも、鼻づまりのゾウも、絶好調に。

あれ? すごいのは、お医者さんじゃなくて看護師のほうじゃないの?? と、なんとなく気づいてしまった人は、続編『へびのせんせいとさるのかんごふさん』もあります。荒井良二さんのあっけらかんとゆかいな絵が、明るい気分にしてくれますよ。


『さるのせんせいとへびのかんごふさん』 
穂高順也/文 荒井良二/絵 ビリケン出版
本体1600円+税 1999

 

ゆかいな昔話はいかがでしょう。『むかでのいしゃむかえ』は、『ねぎぼうずのあさたろう』などでおなじみの飯野和好さんが、20年以上前につくられた民話絵本ですが、再話も絵もしっかり飯野節。調子のいい台詞まわし、リズミカルな展開、虫たちの濃ゆい擬人化にも、ほれぼれします。

庄屋の「かまきりべえ」の家に集まった虫たちの宴会で、ばったの「とくさん」が急な腹痛を起こします。急いで医者を呼ばなくちゃ。でもメールも電話もない時代(背景は江戸時代風)、だれが医者を呼びに行ったらよいかしら? 足がたくさんあって速そうなムカデの「たへいさん」に白羽の矢が立ちました。
「それなら、わたしが ひとっぱしり いってきます」。

しばらくの辛抱と、とくさんを看病しながら待っていた虫たち。でも帰りがあまりに遅いので、様子を見に行くと……玄関にたへいさんがいるではありませんか。
「やあ、おかえりなさい」「で、おいしゃさんは どちらに?」

(おあとがよろしいようで)と締めたくなる、小咄みたいなおかしい民話です。「自分が落語家になったような気分で声に出して話を運びました」という飯野さん。最終ページのとぼけた後味が、たまりません。肝心のお医者さんはというと……しっかり裏表紙にだけ姿を現しているのでした。


『むかでのいしゃむかえ』 
飯野和好/作 福音館書店 
本体900円+税 1998

 

ふつうの人間のお医者さんにも登場してもらいましょう。『ゲーとピー』は、作者自身がモデルらしい小児科医の「たぬきせんせい」が、子どもたちを診察し、子育てにはおなじみのゲー(嘔吐)とピー(下痢)について子どもにもわかりやすく説明してくれる科学絵本です。

かずこちゃんは、夜中に突然気持ちが悪くなって、ゲーしちゃいました。翌日もごはんを食べたくありません。たぬき先生に診てもらうと、原因はヘントウセンエン。扁桃腺炎の細菌の毒が頭の中の「ゲーしれいぶ」(嘔吐中枢)を怒らせるんだって。ほかにも、風邪や食べ過ぎなどのゲーの理由や、乗り物酔いのゲーの予防方法など説明してくれます。
次の患者さん、たかしくんは、げりピーです。お母さんが仕事で忙しいのでお父さんが付き添います。ジェンダーへの目配りなどもさりげなく、安心して読めますね。
2、3日後に治った子どもたちには、今度かかったときのためにゲーやピーになったときの心得を教えてくれます。

作者の毛利子来(もうり たねき)先生は、2017年になくなりましたが、親子に安心をあたえてくれる小児科のお医者さんでした。わたしも新人ママだった頃、おおらかな育児書『赤ちゃんのいる暮らし』『幼い子のいる暮らし』(どちらも筑摩書房)にどれだけ支えられたことでしょう。
子ども向けの絵本の中でも、たいてい心配しなくていいけれど、中にはこわいゲーやピーがあることも、きちんと教えてくれます。
同じシリーズの『カユイ カユイ』もどうぞ。


『ゲーとピー/たぬきせんせいの びょうきのほん』 
毛利子来/文 なかのひろたか/絵 福音館書店 
本体900円+税 1998

 

がらっと気分を変えて、『ドアがあいて…』を開いてみましょう。ここは、待合室です。薄暗くて、しーんと静か。おとなしく椅子に座って自分の番を待っているのは、5人のこわれたおもちゃたちです。

ドアが開くと、ひとり、コトコトコトコト……てんとう虫のおもちゃが出てきました。入れ替わりに、ひとり、カッターン、カッターン……とペンギンのおもちゃが入っていきます。ドアの向こうは診察室のようですね。残りは4人、またしーんと待っています。あっ、また出てきた。カッタン、カッタン、カッタン、カッタン! 出てくるときにはそれぞれ元気な音になっています。

しーんと待つ場面。ドアが開いて元気に出てくる場面。交替でひとり、ケガした体で入っていく場面。シンプルな3拍子の繰り返しに、天井からぶら下がっている電球のように、気持ちがゆらゆら揺さぶられます。待つ人は1人ずつ少なくなり、最後は鼻の先の折れたピエロの人形がひとりぼっちに。心細さもピークになります。最後にやっと、「ぼくの ばん」。ピエロの子も、読者も、初めてお医者さんと出会えます。やさしい笑顔に、ほっ。

静かな演出で、おもちゃたちに思い入れする小さな心理劇。もとは映画用に構想されたものと聞いて納得です。ドキドキとホッの波がクセになるかも。


『ドアがあいて…』 
エルンスト・ヤンドゥル/作 ノルマン・ユンゲ/絵 斉藤洋/訳 ほるぷ出版 
本体1400円+税 1999

 

いくらやさしいお医者さんでも、親子で病院の行ったり来たりはくじけそうになりますよね。そんな気持ちにそっと寄り添ってくれそうなのが『いしゃがよい』。ゆったりやさしく、ユーモラスだけど、ほの哀しさもただよう絵本です。

ある日、山にキノコ狩りにきたエンさんが泣いている赤ちゃんパンダをみつけます。ファンファンとなづけて育てることにしましたが、ファンファンは体が弱くて、しょっちゅうお医者さんに行かなくちゃいけません。エンさんは、ファンファンを自転車に乗せて、山を越えて医者通い。雨の日も、雪の日も。

タイトルは『いしゃがよい』ですが、行きと帰りの通院がテーマで、病院もお医者さんも出てきません。お医者さんの帰り道、エンさんが自転車をこぎながら歌ってくれる歌がしみるんですよ。
「このこ だれのこ パンダのこ 
 やまのふもとで ないてたこ
 エンファン エンファン
 ふたりは とっても なかよしよ」

子どもは、大きくなったら、たいてい丈夫になります。ファンファンも元気に育って、エンさんの仕事を手伝うようになりました。そして長い長い月日が流れ、エンさんがすっかりおじいさんになると、自転車をこいでお医者に連れてってくれる立場が逆転します。帰り道の歌を歌ってくれるのも、ファンファンに……。

プラスチックダンボールの両面に彩色したユニークな画法が、ガラス絵のような効果で、素朴な味わいを深めています。2歳くらいから100歳越えまで、長く長く読めそうな絵本です。


『いしゃがよい』 
さくらせかい/作 福音館書店 
本体900円+税 2015

 


仕事が特に忙しいとき、だいじな用事があるとき、頼むから今だけはひかないでー……と念じていると、聞こえたかのように、子どもはしっかり熱出してくれちゃうんですよね。何度がっくりきたことか。そんなときは腹くくって、休みとって、並んで寝転んで、いっしょに絵本でも読んで「ふたりは とっても なかよしよ」って、ゆったり過ごせるといいんですけどねぇ……せつない。

思うままにならないのが、子育て。まわりのみなさんには迷惑かけてごめんなさい、の連続でした。人生どうにもならないことがあること、みんな迷惑かけあって生きていることを教えてくれたのも、やっぱり子育てでした。

風邪やらインフルやらのウイルスが猛然と元気な季節ですが、親子ともご自愛くださいね。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『はしれ、トト!』(日本絵本賞翻訳絵本賞、いずれも文化出版局)、『ローラとつくる あなたのせかい』(BL出版)など。「MOE」本誌でも、世界の絵本を紹介中。

web連載「広松由希子の今月の絵本」

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