2019年3月18日

連載その81 3月のテーマ「おしゃれの絵本」

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「めでたさも ちうくらゐなり おらが春」……またやってきました。うるんだ瞳で晴れた空を見上げる季節。
一茶が花粉症だったかどうかはさておき、数年前に発症してしまったわたしは、春の訪れが100%すなおによろこべなくなってしまったような。
いや、こんなことじゃいかんいかん。

重たいコートを脱いで、春の装いに着替えて、出かけましょう。
マスクとゴーグルはつけていても、心はらんまん。おしゃれの絵本を読んで、まずは気分から、春にね。

「ラララン ロロロン」と、女の子も男の子も、大人も口ずさみたくなるのは『わたしのワンピース』。
なんと、今年は生誕(出版)50周年! なのに、ちっとも古びなくて、何度でもまっしろな気持ちに戻って読める絵本です。

空からふわふわまっしろな布が落ちてきて、うさぎは自分のワンピースをつくります。
「ミシン カタカタ ミシン カタカタ」(ここは、やっぱり足踏みミシンじゃないとね)
できたて、まっしろなワンピースを着て、うさぎはごきげんでお出かけします。
「ラララン ロロロン わたしに にあうかしら」ところが、お花畑を散歩すると、「あれっ ワンピースが はなもようになった」

花模様になったワンピースで「ラララン ロロロン」歩いていくと、今度は雨が降ってきて、「あれっ ワンピースが みずたまもようになった」
草の実の模様になったかと思うと、それを食べに来た鳥たちのおかげで、今度は小鳥の模様になったり。かと思ったら、模様の小鳥たちが羽ばたいて、空を飛んだり……。

荒唐無稽なようで、一本筋が通っていて、ブレない「わたし」の世界に引き込まれます。
幼子のようなタッチの線に、にごりのないリトグラフの色。おどろきもすなおに受け止める「わたし」の口調。
まっしろなうさぎの白無垢ワンピースが、うつろう空模様を映すイメージに、心が広がります。
次の半世紀も愛されることまちがいなしの、ごきげんワンピース絵本に、ブラボー。


『わたしのワンピース』
にしまきかやこ/作 こぐま社
本体1100円+税 1969

 

50年経っても、やっぱり春はワンピースを新調したくなるのが、「女ごころ/うさぎごころ」というもの……。
『はるのワンピースをつくりに』は、2018年の作です。この本の世界では、もう少し分別のある、やさしく詩的な暮らしが営まれています。

主人公のうさぎは、さきちゃんという名前。風に誘われていそいそ出かける先は、森の仕立て屋さん、きつねのミコさんのお店。
ミコさんのつくる服は、大きさや形がぴったりなだけでなく、「うれしいときには かぜに ふわりと のったような」「さびしいときには くもに そおっと つつまれているような」気持ちになるんですって。イントロから、やわらかく包まれる物語。

さきちゃんの気分にぴったりの春のワンピースを仕立てるために、ミコさんはさきちゃんにいくつか質問します。「ねえ さきちゃん、はるの はなって どんな はな?」「はるの いろって どんな いろ?」春の音、春に会いたい人、春にしたいこと……ポケットにはなにを入れたいかな? 
ふんわりしたイメージからディテールへ。いろんな模様の布やパーツが絵の中で繰り広げられ、読者もさきちゃんといっしょにどんなワンピースができるのかと、ときめきます。

そして夜中、ミコさんが使うのは、やっぱりカタカタ足踏みミシン。お裁縫の道具は、ちょっとクラシックで、ゆっくり時間が流れていくのがいいなあ。


『はるのワンピースをつくりに』
石井睦美/文 布川愛子/絵 ブロンズ新社
本体1300円+税 2018

 

おしゃれをしたいのは、女の子ばかりじゃ、ありませんよね。男の子も、おじさんも、おしゃれギツネも、それからそれから……。
「おかあさんが あんで くれた ぼくの チョッキ ぴったり にあうでしょう」
と、赤いチョッキを着て、誇らしげにちんまりポーズをとっているのは、『ねずみくんのチョッキ』のねずみくんです。

そんなねずみくんを見ていたら、ほかの動物だって赤いチョッキを着てみたくなります。
「いい チョッキだね ちょっと きせてよ」と現れたのは、ねずみくんより少し大きなアヒル。「すこし きついが にあうかな?」
次はもう少し大きなサル、それからアシカ、ライオンも……「いい チョッキだね ちょっと きせてよ」「すこし きついが にあうかな?」の繰り返し。
前の動物より少し大きな動物が、ちょっとだけ無理して試着するから、だんだん伸びていくんですよね。そうして、しまいには、あの巨大な動物までが「すこし きついが にあうかな?」

「うわー ぼくの チョッキだ!」と、返してもらったチョッキは、見るも無残な姿に。無言でトボトボ去っていくねずみくんの後ろ姿が哀れな、最終見開き(p.30-31)。でもね、これで終わりじゃないの。奥付ページ(p.32)をうっかり見落とさないように。最高に気が利いていて、ほっと安心の読後感。

全ページ渋めのグリーンの中に白い画面と文字が浮かび、モノクロの絵に、チョッキだけが赤くスパイシーに映える、たいへんおしゃれな画面です。この一見シンプルで、実は隅々まで考え抜かれたシックな絵本を、日本の子どもたちはずっと長いこと愛してきたんですよね。先日旅立たれた画家の上野紀子さんに、心より感謝。ねずみくんシリーズは35巻、累計400万部、初版から45年のロングセラーです。


『ねずみくんのチョッキ』 
なかえよしを/作 上野紀子/絵 ポプラ社 
本体1000円+税 1974

 

もう1冊、2018年に出たカナダの絵本を読みましょう。『きょうがはじまる』です。

「きょう」という日のはじまりに、起きたらまずどうするかというと、「なにを きるか きめなくちゃ!」
チェックのシャツ、しましまタイツ、パーティドレスにふわふわコート、ちくちくするセーター、紫パンツや腰蓑まで……意表をつく選択肢も含めて、見開きにずらりと並んだいろんな洋服や小物。さあ、「どれにする?」
ページをめくると、またまたずらり。「かみがたは どうする?」と、アイディアあふれるヘアスタイルカタログみたいな見開きが。

いろんな子どもたちが、自分の好みにあった格好を選びます。それから、おもむろに朝ごはん。「きみだったら なにが たべたい?」
「さて、これから どこへ いく?」「きみなら どうやって いく?」

ぜんぶ選ぶのは、自分。これからはじまる、きょうという日は、まるきり自由の日なんですね。そして、それが洋服選びからはじまるんだと気づいて、楽しくなりました。おしゃれって、そういうことか。

本の終わりのほう、寝る前にも自由な選択がありました。「どの パジャマを きて ねたい?」
ぐっすり寝ましょう。あしたはあしたで、自由の日がはじまるから。


『きょうがはじまる』 
ジュリー・モースタッド/作 石津ちひろ/訳 BL出版 
本体1600円+税 2018

 


おしゃれの自由。
『ピンクがすきってきめないで』(ナタリー・オンス/文 イリヤ・グリーン/絵 ときありえ/訳 講談社 品切れ)は、フランスから届いた黒が好きな女の子の話。
洋服から、世間の固定概念、ジェンダーについても考えさせられる絵本です。近頃は、ランドセルの色も、自由になってきましたね。

ああ、自分を縛るいろいろから、解き放たれる春にしたいものです。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『はしれ、トト!』(日本絵本賞翻訳絵本賞、いずれも文化出版局)、『ローラとつくる あなたのせかい』(BL出版)など。「MOE」本誌でも、世界の絵本を紹介中。

web連載「広松由希子の今月の絵本」

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