2018年11月28日

連載その78 11月のテーマ「りんごの絵本」

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実りの秋です。くだもの絵本の代表、りんごの絵本を読みましょう。

りんごは赤い……いいえ、黄色いのも、ピンクのもありますね。
『りんご』は、短いことばで赤ちゃんに語りかける絵本ですが、りんご=赤いくだものというように、単純に教え込む本とはちがいます。
「あかい りんご まるい りんご」
「きいろい りんご まるい りんご」
「ピンクの りんご まるい りんご」

ひとつずつちがう色のりんごの皮をむいたら……どのりんごも、みんな白い。
当たり前のようで、小さな子どもには、驚きの発見じゃないかしら。
そうして皮をむいたりんごを切って、芯をとって、みんなの口に入るまでが、ていねいに描かれます。
「ああ おいしい」

子どもにとってのりんごの本質を、やさしく大らかに誠実にとらえた絵本。ありそうで、意外とないと思う。
本文以外の表紙まわりには、りんごの白い花や木、りんごの入った段ボール箱まで描かれていて、想像や会話も広がりますね。


『りんご』 
松野正子/文 鎌田暢子/絵 童心社
本体600円+税 1984

 

りんごはおいしい……そう感じるのは、人間ばかりじゃありません。あおむしだって、大好物にきまってます。
たとえば、『りんごとちょう』を開いてみましょう。絵だけで展開する、グラフィックな文字なし科学絵本です。
ゆっくりページをめくるだけで、幼い子どももじっと絵に見入りますが、少しことばを添えてもいいし、画面に指をあてて、さりげなく気づきをうながしてもいいですね。

りんごの真ん中に、小さな卵が。卵から幼虫が生まれ、りんごを内から食べながら大きくなります。皮をやぶって外に出てきて、さなぎになって冬を越し、春になり、ちょうになって羽ばたいて、りんごの木に飛んできます。花に卵を産みつけて、花が枯れると、実になって、りんごはだんだん大きくなって……また、表紙に戻って、繰り返し。

原書はスパイラル綴じで、どこから読んでもよく、終わりのない絵本としてつくられたそう。めぐる自然と、虫食いリンゴの小さな秘密を、鮮やかに描き出しています。
イタリアで半世紀前に誕生したスタイリッシュな絵本ですが、時を経てもまったく古びず、小さな子どもから大人まで、読者の目を輝かせます。


『りんごとちょう』 
イエラ・マリ エンゾ・マリ/作 ほるぷ出版
本体1300円+税 1976

 

りんごはうれしい。おいしいだけでなく、「りんご」っていう日本語の響きもいいんですよね。
『りんご りんご りんご りんご りんご りんご』って、鈴をころがすように、歌うように、声を出して読んでみる。ほら、なんかウキウキ明るい気持ちになってきませんか。

りんごの木から、ころんと落ちたりんご。どこにいくのかな?
「りんご りんご りんご りんご りんご りんご」ところがって、ぶらんこに乗ったかと思うと、また落っこちて「りんご りんご りんご りんご りんご りんご」

舌と耳にうれしいゆかいなリズムと、なりゆきまかせにころがる展開、素朴な切り絵のりんごの表情がたまりません。
『がたんごとんがたんごとん』(福音館書店)で赤ちゃんたちを魅了してきたイラストレーター、安西水丸さんのりんご絵本です。


『りんご りんご りんご りんご りんご りんご』
安西水丸/作 主婦の友社
本体850円+税 2006

 

りんごは、時に悲しみのタネにも……『おばけリンゴ』を知っていますか?

あるところに、ワルターというびんぼうな男がいました。りんごの木を1本だけ持っていましたが、ひとつも花が咲かず、1個も実がならないのでした。
春には、よその家に咲くりんごの花を見て悲しくなり、秋には、たわわに実がなるりんごの木を見て悲しくなります。
ある日、ワルターはベッドのなかで心を込めて祈ります。
「ひとつで いいから、うちのきにも リンゴが なりますように。
 そんなに りっぱな みでなくても いいのです。
 ひとつで いいから ほしいのです」

願いはかなえられ、ある春の夜、ワルターの木にひとつだけ、リンゴの花が咲きました。
大よろこびしたワルターは、ひとつだけの花をだいじに世話し、夏には実になりました。
なんてしあわせな毎日!
秋になり、日に日に大きく赤くなり、とりいれどきになりましたが、あと1日、あと1日と、そのままにしておくうちにリンゴは見たこともないほど巨大になり……!

さて、ワルターは幸せになったでしょうか?
わたしは小学生の頃にこの絵本を読み、お芝居も見る機会があったのですが、当時はなんだか腑に落ちなかったのです。
どうしてワルターは、こんな目にあったのかしら? リンゴが「きらい」だったのはなぜ?
そして最後にこう祈ったのは、どうして?
「ふたつで いいから、リンゴが なりますように。
 ちいさな リンゴで いいのです。
 かごに はいるくらいのが ほしいのです」

胸につかえる絵本って、かみしめるたびに味わい深い絵本だったりもしますね。
秋深し、りんごかみしめ、物思う。


『おばけリンゴ』 
ヤーノシュ/作 やがわ・すみこ/訳 福音館書店
本体1200円+税 1969  

 


今世紀の物思う「りんご絵本」といえば、『りんごかもしれない』(ヨシタケシンスケ/作 ブロンズ新社)も、果てしないですねー。
ひとつのりんごから「数」の絵話がはじまる、『はじめはりんごのみがいっこ』(いとうひろし/作 ポプラ社)も、何度でも読みたくなる絵本。
赤ちゃんとわらべうたを楽しむなら、『えんやらりんごの木』(松谷みよ子/文 遠藤てるよ/絵 偕成社)があるし、
りんごの可愛さを追求するなら『りんごぼうや』(ディック・ブルーナ/文・絵 まつおかきょうこ/訳 福音館書店)がありますよ。

まだまだ尽きない、りんご絵本。アップルパイやりんごケーキに、姿を変えているのもありそう。
やっぱり、くだもの絵本の代表なのです。

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『はしれ、トト!』(日本絵本賞翻訳絵本賞、いずれも文化出版局)、『ローラとつくる あなたのせかい』(BL出版)など。「MOE」本誌でも、世界の絵本を紹介中。

web連載「広松由希子の今月の絵本」

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