『てがみぼうやのゆくところ』【今日の絵本だより 第63回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『てがみぼうやのゆくところ』
加藤晶子/作 講談社 本体1300円+税
7月23日は、文月23日で、手紙に親しむ「ふみの日」。
最近はポストに手紙やはがきを出したことのないお子さんも多いそうで、それはもちろん大人の郵便離れによるところが大きいのでしょうが、手紙を送る、受け取る喜びは、ぜひ小さな頃から味わってほしいなあと思います。
これから初めて手紙を出す子にもおすすめの作品がこちら、『てがみぼうやのゆくところ』です。
「おばあちゃんのいえに とどきますように」
と、男の子の手から赤いポストに入れられた、黄色いてがみぼうや。
宛先は
「となりまち
なのはなどおり
あおいいえ」。
「まかせておいて!」
とはりきりますが、入ったポストの中は真っ暗で、何にも見えません。
ぶるぶるふるえていると、水色のはがきさんが親切に話しかけてくれました。
ふたりでおしゃべりしていると扉が開き、みんなは郵便屋さんに集められ、郵便局へ。
てがみぼうやははがきさんと一緒に、郵便局からとなりまちに向かいます。
配達の自転車が止まって、外をのぞいてみたら、おいしそうなアイスクリーム屋さん。
郵便屋さんの戻りを待つ間、ひと口味見をさせてもらっているところへ、強い風が吹いてきて……。
風に飛ばされてそこから先は、思わぬ冒険になってしまったてがみぼうや。
水たまりに落ちたり、大きなやぎに見つけられたり、ハラハラドキドキの連続ですが、くじけません。
「はやく おばあちゃんに あいたいなあ」
星空を見上げながらつぶやくぼうやは、ニコニコ笑顔。
「届く」ことを疑わないまっすぐさに、ぐっときます。
そう、手紙は相手に届くもの。
込められた思いは、相手に伝わるもの。
もちろんそんな深読みをせずとも、お子さんたちは純粋に、小さなてがみぼうやの冒険を自分のことのように感じてワクワクするでしょう。
そして、この絵本にはおまけのお楽しみが。
表紙にハート形の菜の花がひとつ、かくれているのです。
ニコニコ笑顔のてがみぼうやの表紙をじっくり見ながら、親子で探してみてくださいね。
次回も続けて、お手紙の絵本をご紹介します。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。