2024年5月22日

いっけね、観光の目玉はこっちだった! お城見て、ルターなご飯を食べに行こう!・後編【教えて!世界の子育て~ドイツ~】

海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。今回、ドイツからリアルな子育てのようすを届けてくれるのは中原さんです。

いっけね、
アイゼナハ観光の目玉はこっちだった

見て! あそこに城があるよ!
車博物館を出て見上げればそびえる城。おい、わたしたち観光ならあっちを先に行くべきだったのでは? だって城だぞ? ということで急ぎ向かってみました。

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博物館入り口にそびえる巨大な鉄の塊……の後ろのお城、ヴァルトブルク城! この工場の名前はあのお城に由来していたのです。

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ソーセージ「まって、買うわ」。

駐車場でうまそうな匂いを漂わせている焼きソーセージ屋に、当然のように引き寄せられていく我々。
テューリンゲン州の名物、テューリンガーソーセージはでかくて太くて肉汁たっぷり。粗挽きミンチが詰まった生の腸詰めを炭火でジュー! と焼きます。
城攻めの前に焼きソーセージを並べるとはけしからん。全くもって商いが上手い。まずは腹ごしらえじゃ。
けしからん! けしからん! と言いながら、みんなこれを片手にもぐもぐしながら城への坂を登っていくのです。

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この切り立った崖と木組みの壁! おすすめ観光スポットベスト10とかで見たことあるや! うおーーーかっこいい、着いたぞ!

跳ね橋を渡り、重厚なひとつ目の門をくぐると見えてくるのは古いヨロヨロした木組みの建築です。
ふたつ目の門をくぐって本丸に抜けると塔と石造の城があります。
最初は崖の上の住居のようなかたちで築城が始まり年月を追うごとに石造りの物見塔などが建造されていったのです。

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「見て見て!あそこでハト飼ってる!」

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おお、出窓だ! 出窓があると私はとても嬉しい。出窓の機能のひとつはトイレなんです。出窓の全てがそう、というわけではありませんが、塔から張り出した出窓から王様やお姫様のうんこが落ちてきていた時代があったのです。用を足そうとしたらお尻がすっぽ抜けて落ちてしまう人も居たそう。ひいいいいいいいい。

こういう歴史ものって自分のペースで歩き回って案内を読んだりするのも楽しいけれど、子連れならガイドツアーが一番です。

今回私たちはファミリーツアーというのに行ってみました。これがとっても楽しかったんですよ!
以下、ツアーガイドのおじさんのお話!

ヴァルトブルク城は9世紀にルドヴィガーという人が「ここを城にする」と言い出したのが始まり。ルドヴィガーは城にやってきたライオンを恐れるどころか威圧で服従させたそうです。いや待って、ドイツに野生のライオンが? まじ? という疑問はのみ込んでおきましょう。
とにかく、そのエピソードにより獅子がヴァルトブルクの紋章になっていきます。
ヨーロッパにあるライオンをモチーフにした王侯の紋章はルドヴィガー縁なのだそうですよ(ガイドのおいちゃん談)。

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Ludwig ルドヴィガー。昔々のヨーロッパ言語は現在とは異なる発音だったそう。「ルートヴィッヒってよくある名前だろ? 1000年前はルドヴィガーだったんだよ」とガイドさん。

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お城なのでミミックの箱もある。

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城詰めの兵士の詰所。

ガイドさんは子どもたちに聞きます。
「さあ、ここはお城の兵士が寝ていた所です。どうやって寝ていたと思う?」
「ベッド!」「マットレス!」
キッズの元気なお返事をおいちゃんは一蹴する。
「ふっふっふ、城で働く者には寝台など無い。座ったまま寝るんだ。寒さに耐えられず藁の中などに潜り込むならノミやダニの餌食になることを覚悟するんだな!」
「えええええーーーーー!!!」

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石造りの城は極寒ですから暖炉があります。かまくらみたいで可愛い。もしかして……いばら姫の、座ったまま寝てるお城の人たちの描写、あれ日常ってこと?
あ、お風呂はありません。

何を食べていましたか?
当時のひとびと

ガイドさんの話は子どもの心をがっちり掴んでいきます。
「今から800年くらい前って何食べてたと思う?」
「じゃがいも!」
「パスタ!」
「グミ!」
「パプリカサラダ!」
元気なキッズはおじさんの期待を裏切らない。
「はっはァーーー! 残念だがどれも無い! 800年前にあったのは……」
「あ、パン?」
「そう、パン! パンと小麦などの穀物、季節の果物と、あとはキャベツだけ。ザウアークラウト」
「えええええええええ!!! キャベツ嫌い!」
「じゃがいもなんて今から200年前くらいにドイツに来たものなんだから相当新しいんだよ。フライドポテトなんかどこにも無いからね! ところでみんなの家族はビールを飲むかな?」
「飲む! おかあさんが!」と、リンゼの大きな声。

「いまから800年前、このあたりで人々の飲み物といえばビールだったんだよ。深いところから汲み上げる井戸の水でもない限り、あぶなくて飲めなかったんだ」
「あぶないって何が?」
「誰かのおしっこやうんこが混じってたり、腐った動物の死体が流れていたり、川や湖の水はばい菌でいっぱいだったんだ。大人にはビールがあったけど、子どもはときどき悪い水にあたって死んでいた。腐った食べ物や悪い水には気をつけるんだぞ」ハーブティーの話で修道士が体に良い植物を研究していたくだりに触れましたが、ビール作りも修道士の大切な仕事でした。ビールは滋養があるだけでなくアルコール殺菌された安全な飲み物だったのです。
さすがビール。命の水!

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王様の暖炉。兵士のための暖炉との違い……!

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ロマン派の豪奢なモザイク。城の高貴な人も糸を紡いでいたのです。

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このお城で見つけたマイベストお宝、絨毯(じゅうたん)とレリーフ。

ルターの部屋

まあドイツは城と城跡だらけです。
どこもかしこも良い城ばかり、城の強豪がひしめくこの国でヴァルトブルクを『行くべき城ベスト10 !!』にまで押し上げるのはルターの隠れ部屋の存在です。

ルターって誰だっけ? の人のために簡単に言うと、宗教改革のルターは「この紙を買ったらあなたが犯した悪いことは許されて天国に行けますよ!」という超胡散臭い紙を売っていたカトリック教会に「おまえそんなん聖書のどこにも書いとらんやんけ」と疑問を呈し、当時ギリシャ語とかラテン語しかなかった聖書をドイツ語に訳し誰でも読めるようにしてしまうという、カトリック教会にとって大変都合の悪いことをしてしまうのですが、その翻訳作業を行なっていたのがこのヴァルトブルク城にある隠れ部屋。

見に行ってみましょう。
礼拝堂の奥へ奥へと進むと細い回廊に繋がります。さっき見た鳩の出入り口のちょうど上あたりです。古い木材の梁が有機的なカーブを描いており、空間がぐねぐね蠢(うごめ)いているように見えます。
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分厚い扉に守られていたルターの小部屋がこちら。

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命を狙われながら隠れ住み、ひたすら翻訳作業に追われるルターは常に恐怖や不安とともにありました。ある夜、悪魔の幻影を見たルターは壁にむかってインク瓶を投げつけ、自分の心の迷いを打ち払います。その時にできたインクのシミはずっと壁に残されていたそうですが、訪れる人々がひと削り、またひと削りと剥がして土産にもっていってしまい、壁を埋めても直しても削られ、インクのシミなんてとうの昔に持ち去られているのにもかかわらず壁を抉(えぐ)る人は跡を絶たず、無惨に抉られたそこに今はもう近寄ることができません。

お城面白かったね!
ということでルターなご飯を食べに行こう

おなかすいたなぁ、せっかくだからその土地のものを食べたいね。ということで入ったのはRestaurant Lutherstuben「ルターの小部屋」という中世ヨーロッパ風レストラン。
仄暗(ほのぐら)い店内が蝋燭(ろうそく)の光に浮かび、テーブルのしつらいもとても素敵です。
中世ヨーロッパの使用人服を着た店員さんが迎えてくれます。

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あのう、すいませんメニュー読みたいんで懐中電灯とかヘッドランプとか何かありませんか? え、電気は無い? うそ……揺れる蝋燭の光で巻物のメニューを読み……読めぬ。

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頑張って読むメニュー。火に近づけ過ぎて燃えそう。スマホで撮った写真の方が読みやすい!

こんなに暗い蝋燭の光では目を凝らしても読めやしない。昔の人は読み物や繕い物など、どうしていたのでしょう。しょぼつく目が暗がりに慣れてくると、テーブルにいくつもの穴があいているのに気づきました。なぜテーブルに穴!?
その理由はビールが運ばれてくるとすぐにわかりました。

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えっ、コップの底が……!

Sturzbecherという中世ヨーロッパのカップだそう。なぜこんな形なの! これでは置くことができません。テーブルの穴はこの奇妙な形のカップを突き刺しておくためにあるみたい。面白いことがいっぱいでレストランが丸ごとアトラクション! 我々の命の水、修道院ビールで乾杯です。

ビールと一緒に運ばれてきたのはサワードウのパン。外の皮がバリっと厚く、中はしっとりもっちり弾力があります。手でちぎるとライ麦の香りがフワーと鼻をくすぐります。
噛み締めると酸味と共にしっかりしたコクと香ばしさ、酵母の味わいがある。これがツアーのガイドさんが言っていた、中世の人たちが食べていた主食なのかと思うと感慨深い。
パンに添えられたペーストは何でしょう。暗くてよくわからんけど、食べてみたらわかりました。シュマルツ(豚の脂)です。これに刻んだベアラオホが混ぜ込んであります。豚の脂は昔からパンに塗ったり炒め物に使ったりと日常的に食べられてきた食材です。しかし罪悪感がものすごいのは何ででしょう。バターをむっしゃむっしゃと食べるよりコレステロール摂ってる感があります。食べますけども!

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ベアラオホのクリームスープ。ドイツの春の野菜はまずベアラオホにはじまり、次に白アスパラガスへと季節が移っていきます。

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豚の頬肉、ちりめんキャベツのクミン炒め、そしてじゃがいも団子テューリンガー・カルトッフェルクルーセ。
カルトッフェルクルーセはスーパーで出来合いのものや混ぜるだけの粉を買い、家でも簡単に食卓に並べることができます。でもね、テューリンゲンの正式なやり方でじゃがいもから作るの、とっても大変なんですよ……。

まずは大量のじゃがいもを剥きます。剥きながら芋の多さにちょっと後悔し始めます。そしておろしたじゃがいもの水分を手で絞ってるあたりで「なぜ私はこれを作り始めたのだろう、こんなに手が痛いのに」と白目をむいてやっと工程の半分です。材料は芋と時間と手間。
そういうものはレストランで食べるのが一番です。
モチモチのお団子生地に混ぜ込んである細かくおろしたじゃがいもがシャキシャキと楽しく、お団子の中にはバターでローストした大粒のクルトンが入っていて、ここから染み出す香ばしさが華やかな、ただものではないじゃがいも団子なのです。
カルットフェルクルーセは子どもたちも大好きなメニューです。

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クルーセとシュニッツェル、りんごと一緒に甘く煮た紫キャベツの写真撮らせて〜と思ったら一足遅かった! 子どもにも鉄のフライパンでサーブされます。

「ああ美味しいなモグモグモグ」
「あれ? でもここってルターの小部屋なんでしょ? ガイドのおじさん、ルターの時はまだじゃがいもが無かったって言ってたのに」

……まあいいじゃないの! おいしいからね! アイゼナハはバッハにも縁があるそうで街の中にはバッハの銅像がありました。時間がなくてバッハハウスには行けなかったー!

文化の勃興、馬車から自動車になっていくようす。多くの戦争。じゃがいもを食べ、ビールを飲み、夜の城下を歩く私たちをヴァルトブルク城は静かに見下ろしています。

あー! アイゼナハ超おもしろかった!

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今回の海外ママは
中原さん
結婚を機に夫の故郷ドイツに移住。滞在年数10年を超えてもドイツ語に苦しむ。趣味はレストラン巡り、庭いじり、手芸などなど。掃除と片付けも趣味になったらいいのになあ……といつも思っています。2人の娘がいます。#中原ドイツ子育て Instagram @s_vn

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