春風亭一之輔さんロングインタビュー。子どもたちには将来やりたいことは「自分でめっけてきて」欲しい
日本テレビの人気番組「笑点」の新メンバーに選ばれた、今、もっともチケットが取りにくい落語家の一人である春風亭一之輔さん。kodomoe2020年8月号では、4人きょうだいの末っ子として生まれ、年の離れたお姉さんたちにかわいがられて育った幼少時代から、ご自身の子育て、そして弟子を育てることについて語ってもらいました。kodomoe webでは3人のお子さんのことや奥様との関係など、ロングインタビューの一部をご紹介します!
しゅんぷうていいちのすけ/千葉県野田市生まれ。日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。2012年、21人抜きで真打ちに昇進。「チケットの取れない落語家」と呼ばれ、年間約900もの高座に上がる。ラジオ「春風亭一之輔 あなたとハッピー!」(ニッポン放送)にレギュラー出演するなど、テレビやラジオでも活躍中。著書に『春風亭一之輔の、いちのいちのいち』や、『春風亭一之輔 師いわく』(ともに小学館)など多数。YouTubeチャンネル「春風亭一之輔チャンネル」を開設。
僕の独演会は意外と子どもが来るんですよ。地方なんか行くと特に。まあ、親が連れてくるのが多いんでしょうけど。たまに6、7人いるなっていうときは、ちょっとだけサービスして、大人も楽しいけど子どもにもわかるっていう噺をすることもありますね。
――子どもが来やすいのには理由があるんですかね。
わかりやすいんじゃないですか。終わったあとのサイン会でも、「『落語ザムービー』(『超入門! 落語 THE MOVIE』)を見て、来ました」っていう子がいたりね。中には「今度あの噺が聴きたい」とか図々しいヤツもいるんで、「やらねえよ」なんて言って(笑)。まあ、嬉しいことですよね。
――一之輔さんのお子さんたちは、お父さんの落語会は?
最近はどうかな? ここ1年くらいはあまり来てないかも。ただ、団欒スペースに僕の落語DVDが置いてあって、それを僕がいないときにみんなで見てるらしくて。親父の仕事はおおむね好評のようですよ(笑)。
個性が芽生えてきた 3人の子どもたち
当代きっての人気落語家であり、3人の子どもの父親の顔も持つ春風亭一之輔さん。長男は中学3年、次男が小学6年生、末娘が小学4年生となる。
――10代に差しかかって、3人それぞれ個性も芽生えてきたんじゃないですか。
そうですね。兄ちゃんは、どっちかって言うとクールかな。勉強もできるほう。でも、基本だらしなくて、何日も同じシャツを着てたり、風呂入らずに寝たりする。あと、皮肉屋(笑)。そこはちょっと僕に似てるかも。で、兄ちゃんがイラッとするようなことをボソッと言うので、次男が怒るんですよ。こっちは情熱家タイプ。ちょっと神経質なところもあるかな。言われたことはちゃんと守りますね。家の手伝いもけっこうする。一番末の娘は平和というか、なんかぼんやりしてる感じですね。
――子どもの習いごとが大変だっていうエピソードを何度かエッセイに書かれていますね。
基本的に本人たちが「やりたい」と言ったものしかやらせてないんですけどね。あと、もうやめたのもいくつかあります。まず、プールだけは全員通わせてたんですよ。その上で、長男は一時、将棋に凝ってましたね。自分で本読んだり、町内の将棋教室に一人で通ってたこともありました。その兄ちゃんにいじめられるっていうか、泣かされることがあるんで、次男が「空手を習いたい」って言い出したんです。でも、兄ちゃんも見学したら、「僕もやる」って言い出して、ふたりで同時に始めて。
――一之輔さんも格闘技はお好きですよね。
ええ、もっぱら見るほうですけど。なので暇なときはついて行ったんですよ。いやぁ、面白い。また、空手の館長がね、けっこう厳しくて、「館長に言いつけるぞ」って言うとみんなピシッとする(笑)。あと、次男はなんかプログラミング? これは僕にも全然わからない世界。娘については、プールをやって、そのあと「ピアノがやりたい」って言い出して、3年ぐらいやってたかな。もうやめちゃった。あと、カミさんが日本舞踊を学生の頃からやってて、ずっと娘も一緒にやってます。何なら、僕も同じ師匠に習ってるんで。僕から見るとカミさんが僕の姉弟子、娘は妹弟子になりますね(笑)。僕はもうほとんど行ってないんですけど、娘のほうは「楽しい」って続けています。ちっちゃい子が稽古に行くと、チヤホヤされるんですよね(笑)。
――その奥さまとは大学時代に知り合ったとか。
ええ、お互い日藝(日大藝術学部)で、僕が落語研究会に1年生で入ったら、カミさんは歌舞伎舞踊研究会っていうサークルの2年生で。
――伝統芸能つながりですね。
そう、伝統芸能系で部室が同じ棟にまとまっていて。なんとなく仲良くなりました。一緒に寄席に行ったり、歌舞伎を幕見席で見たり。
――その後の一之輔さんのキャリアと無理がないですね。
だから僕が落語の世界に入るのも、カミさんにとってはわりと自然なことだったんじゃないですか。
大学卒業とともに一之輔さんは落語家を志し、春風亭一朝さんに入門。3年の前座修行を経て、二ツ目に昇進すると結婚。すぐに長男が誕生する。それからの数年間は一之輔さんが育児をする比重も大きかった。売れっ子となり、多忙を極める今は、育児を妻に任せることがどうしても増えたという。
――現在は家事の分担はどんな感じですか。
なんか昔からの流れで、洗濯は僕がやってますね。洗濯機を回して、干すまでが僕の仕事。あと洗い物も、午前中家にいるようなときは僕の仕事。そんなとこかな。3人も子どもがいると洗濯物も多いから、けっこう大型の洗濯機を2回、回してますよ。
――一之輔さんが売れて忙しくなるという状況は、家庭としても歓迎すべきことですもんね。
そうですねえ。ま、経済的にはそっちのほうがいいし。あ、そういえばカミさん、子どももちょっと手が離れてきたんで、去年ぐらいからまた働き始めたんですよ。リフレクソロジーっていうんですか? マッサージみたいな。それの資格を取って、パートみたいな感じでやってますよ。そうやって働きに出るのもいいことだと思うんで、僕も「やんなよ」とは言ってるんですけど。
――一之輔さんも家で施術してもらえるんですか?
やってくれます。ただ、資格取るまでは「練習させてよ」って向こうからノリノリで言ってきてたんですけど、最近は頼んでも、「えっタダでやんの? 私、一応プロなんだけど……」みたいな(笑)。
――子どもの教育方針やルールなどについて夫婦で話し合ったりすることは?
そのへんは、カミさんがちゃんとしてるんですよ。テレビゲームは1日30分とか、食事のときはテレビをつけない、とかそういうルールはあります。
――食事中はどんな話をされるんですか。
なんか適当に喋ってますよ。僕はビールとか飲みながら、「今日何あった?」とか、あと子どもたちは、今何が流行ってるとか、ゲームの話とかしていますね。そういう話は、カミさんも普段から子どもたちといるので、結果、僕だけぽつんと取り残されることも多い(笑)。僕のわかる話をしてくれるときもあるんですけどね。「『火の鳥』で何編が好き?」とか。
――また、シブい漫画を(笑)。
家族みんなのスペースに僕の漫画も置いてあるんですよ。でも、これが『ONE PIECE』とかだと僕は読んでないから、「それは『火の鳥』で言うと誰?」とか「『ドラゴンボール』で言うと誰?」とか、無理矢理話に混ざるしかない(笑)。
――一之輔さんの育った家庭の団欒は、どんな感じでしたか。
たぶん僕が子どもの頃も大きくは変わらないと思いますよ。ただ、ウチはずっとテレビがついてましたね。まあ、そういう時代だったのかもしれない。朝からNHKを見て、学校から帰ってきて誰もいなきゃとりあえずテレビつけて、夕方は「金八先生」とか「スクールウォーズ」の再放送があって、夕飯は親父が「野球見る」って野球中継にチャンネル合わせたら、みんなでそれを見て。で、親父が酒飲んで寝ちゃえば、姉ちゃんたちが「ベストテン」にチャンネル変えるっていう。
――「テレビばかり見てるんじゃない」なんて言われることもなく。
親からすれば、むしろテレビが遊んでくれている、みたいなところもあったんでしょうね。
小さな頃は3人の姉の “おもちゃ” だった
一之輔さんは4人姉弟の末っ子。上に姉が3人いる。幼稚園ぐらいまではもっぱら姉たちが、幼い一之輔の面倒を見ていたという。
――子どもが4人もいると、ご両親も大変だったでしょうね。
そんなに裕福ではなかったっていうのが最近わかりましたね。僕自身はわりと「うちは普通だ」と思ってたんですけど、姉ちゃんとかと話すと、うちは「中流より下だった」って。僕は一番上の姉とは12歳、一番下の姉とも7歳離れてるんですよね。姉たちが中高のときが一番大変だったと思うんです。なにせ学費がかかるんで。けど、当時は僕だけ小学生だったんであまりわかってなかったんですね。でも、言われてみれば、その頃、母が内職してたんですよ。僕だけ五月人形の段飾りがあったりして、よく、「ズルい!」とか言われてました。そのときは気がつかなかったんですけど、確かに、姉ちゃんたちは洋服とかランドセルとか順々にお下がりだったりしたんですよ。
――一之輔さんは男の子だから新品を買ってもらえる。
だから一番下の姉ちゃんが、「私が一番ワリを食った」って言いますよ。あと、「お前だけだ、お母さんを『ママ』って呼んでたのは」だって(笑)。まあ、当時の僕は姉ちゃんたちのおもちゃみたいなもんですよね。いろんなところに連れていかれましたよ。遊びにいくと姉ちゃんの友達がいっぱいいて、その横に座らされてるとか、そんな感じでしたね。
(kodomoe2020年8月号では、4人のお弟子さんやご自身のお父さまとの関係など、お話が続きます。)
INFORMATION
『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(著/春風亭一之輔 画/山口 晃 小学館 本体1500円+税)
好評を博す『春風亭一之輔おもしろ落語入門』(2016年発売)の続編。厳選の古典落語7本を収録。江戸時代の生活や考え方を知ることのできる1冊として、子どもにもおすすめ!
『春風亭一之輔・三遊亭天どん 新作江戸噺十二ヶ月』(ソニー・ミュージックダイレクト 本体3300円+税)
春風亭一之輔さんと三遊亭天どんさんによる12か月をテーマに創作した新作古典落語12作の中から、春夏秋冬4席を厳選したCD。その他著書、CD、DVD多数。
インタビュー/九龍ジョー 撮影/キッチンミノル(kodomoe2020年8月号掲載)