2013年1月10日

1月のテーマは「へびの絵本」【広松由希子の今月の絵本・15】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

1月のテーマは「へびの絵本」

ホンモノが目の前に出てきたら、
「ひっ」と身を硬くするけれど、

絵本のへびは、
おかしかったり、可愛かったり、
賢かったり、けなげだったり、
ほんとに表情豊かです。

でも、へびにとって
一番たいせつなのは、
やっぱり、「長い」ということ。

そう、あのルナールも書いてますね。
名著『博物誌』のなかで、
へびについては、ただひと言。
「長すぎる」と。
15_shugo.jpg
それにしても、ここまで長すぎるとはねぇ。
『ながいながいへびのはなし』のへびときたら、

「あたまが まちにいても
 しっぽは やまのなか」だし、
「あたまが おひるをたべるころ
 しっぽはまだ よるのくにでぐっすり」だし。

見開きを上下に2分割した画面が新鮮。
「あたま」と「しっぽ」の
はるか彼方にいる状況と
シンクロし合う気持ちが
絵から楽しく読み取れます。

そして、あんまり遠くにいるものだから、
「あたま」と「しっぽ」は
互いが恋しくなってくるのね。

しっぽが、頭ほどに物を言う、へび。
駆け寄るふたり(?)の再会に、
笑いながらもじーんときちゃう。
nagaihebi.jpg
『ながいながいへびのはなし』
風木一人/文 高畠純/絵
小峰書店 定価1260円 2001

 

人のいいへびもいます。
『へびくんのおさんぽ』のへびくんは、
散歩の途中、大きな水たまりに
出くわしました。

「なーに こんなの へっちゃらさ
 こうやって」
ぬおーっと、体を伸ばして橋になり、
向こう岸に渡ろうとします。
(やっぱり長いって便利ですね)

そこへ、ありんこたちがやってきて
「せなかを わたらせてもらえませんか」
「どうぞ どうぞ」
「ぞろ ぞろ ぞろ ぞろ」

よろこんでもらうのはうれしいけれど、
「どか どか」
「どす どす」
「どしん どしん」
な、なんだか、たいへんなことに!?

みんなが去った後、
がんばった自分に
「えらい えらい」
そうして、また散歩を続けるへびくん。
にっこりがうつる、おだやかに満足の後味。
hebiosanpo.jpg
『へびくんのおさんぽ』
いとうひろし/作
鈴木出版 定価1155円 1992

 

さて、日本では神にも仏にもなるへびですが、
アダムとイヴ以来、西洋では
へびは忌まわしいイメージ。

だから1958年に誕生した
『へびのクリクター』は、へび絵本のパイオニア。
斜め視点のウンゲラーならではの
へびリスペクトです。

フランスに住むマダムの誕生日に、
アフリカに住む息子から届いたのは、
なんとへび!
最初は仰天しましたが、
クリクターと名付け、愛情を注ぎ、
聖人君子のような立派なへびに育てます。

軽やかな美しい線に、
赤とモスグリーンの彩色がシック。
さりげなく描き込まれたディテールが楽しい。
子どもも大人も飽かず楽しめる逸品です。
hebikurisuta.jpg
『へびのクリクター』
トミー・ウンゲラー/作 中野完二/訳
文化出版局 定価1050円 1974

 

 

いやいや、やっぱりへびは怖くなくっちゃ。
という人には、ぐっと腹黒そうなへび絵本
『へび のみこんだ なに のみこんだ』を。
本を手に取っただけで、
ざらっとヘビ皮風の触感に、ぞくっときますね。

キャッチコピーにもあるように、この絵本のポイントは
「やみとひかり」。
へびが闇の中から白日の下に現れると、
黒いシルエットが、凸凹ふくらんでいます。

「へび のみこんだ はらへったから のみこんだ なに のみこんだ?」

へびですからね、丸呑みしちゃうのね。
めくると、闇の中に、レントゲンのように
へびのおなかの中身が、くっきり浮かび上がる。
白黒に色が引き立ち、すごくきれい。

うわ。こんなものも呑み込んじゃったんだー。。。
横長の画面に、呑んだ分だけ伸びていくへび。
とどまるところを知らない貪欲さに、
だんだん笑いも引きつってくるかも?
うーん。怖いのがうれしい人だけにしましょうね。
hebinomikonda.jpg
『へび のみこんだ なに のみこんだ?』
tupera tupera/作
えほんの杜 定価1600円 2011

 

最後にちらっと、お口直し♪
こんな可愛いへびの詩もあります。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
へびのあかちゃん
めがさめた
おめめは さめたが
しっぽは ねむい
まだ ねむい
(後略)
(阪田寛夫「へびのあかちゃん」より)
・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
『みみずのたいそう』所収。
これも、子どもが初めて出会うのに
ぴったりの詩のアンソロジーですよ。

『わたしのワンピース』の西巻茅子さんの
モノクロカットも愛らしく。

今年は毎晩寝る前に、親子で絵本を1冊、
それから詩を1編読むことにしようか・・・
始まったばかりの巳年に、夢ふくらませて。

*『博物誌』
ルナール/著 ボナール/絵 岸田国士/訳
新潮文庫 定価460円 1954

*『みみずのたいそう』
市河紀子/編 西巻茅子/絵
のら書店 定価1260円 2006

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

シェア
ツイート
ブックマーク
トピックス

ページトップへ