「親子で一体感」を実感した。絵本作家・菊田まりこさんの読み聞かせ【うちの読み聞かせ・11】
気になるあのママ・パパは、絵本をどんなふうに楽しんでいるの? 親子の読み聞かせについてお話をうかがう連載。第11回は、絵本作家であり、現在大学2年(20 歳)と中学2 年(13 歳)の兄妹のママでもある菊田まりこさんにうかがいました。
呼吸まで一緒になる感じがした、読み聞かせの時間
――菊田さんは、いつごろからどんなふうに絵本の読み聞かせをされていますか?
うちは長男と長女、7歳離れている兄妹で、読み聞かせの思い出はそれぞれです。基本的に夜の「眠りにつく前の儀式」的なものとして読んでいて、たしか1歳前後から小学校1年くらいまで続けていました。
長男は寝るのが大嫌いな子で、寝つくまで何冊も読まないといけなかったという記憶が今でも鮮明です。逆に長女の時は、ほとんど読み聞かせをしませんでした……。というより、できなかったという方がしっくりくるでしょうか。寝る時間になると黙って自分で、……すっと、お布団に入って、次の瞬間……スヤァって寝ているような子でしたから(笑)。その一切無駄のない行動に、何度魅入ったことか。本当に読むスキがなかったんです(笑)。
――おふたりはかなり対照的なタイプだったのですね。では、読み聞かせる絵本はどうやって選んでいましたか?
長男の時は、1冊は私が選んで、長男が大体2〜3冊持ってきて……。1冊ではとにかく終われなかったのを覚えています。長女の時は、3歳くらいから、絵本というより、アンデルセンとか、日本むかし話とか、基本のお話を私が選んでいました。お布団に入るとすぐ目をつぶるような子でしたから、「今日は読むよ!」と決めた日はもう無理やりママが耳元で語って聞かせることができる「おはなし本」を読んでいましたね。
読み聞かせをしながら、長男の時は早く寝ておくれと、それだけ思って……、長女の時は、頼むから、少しくらい寝ないで聞いておくれ、って思ってました(笑)。
――読み聞かせをしていてよかったなと思うことは何ですか?
親子でゆっくりとした時間と世界を共有できたことが良かったことです。一緒に同じ場所にいても、子どもと大人って見ているものも感じていることも、違うじゃないですか。でも、同じ絵本に向かっている時は、ピタっと二人の時間や視点が同じ場所に定まる。本を読む速度に合わせて、呼吸まで一緒になる感じがしますよね。「ああ、今、親子ですごい一体感〜」と実感として思えるのが、読み聞かせの時間でした。
――お子さんは、いま20 歳と13 歳ということですが、読み聞かせをしてきたことが何か影響していると思うことはありますか?
読み聞かせをしていたからかどうかは謎ですが、長男は本がすごく好きな子になりました。文字を読みだすのも早かった。国語の成績が特に勉強しなくても抜群に良く、長文読解が得意な子になりました。ただ作文は苦手です。
下の娘は、読み聞かせの時間が少なかったからなのか……、理由はわかりませんが、本はあまり読まないですね。ただ、読むより字や絵を書くことが好きな子に育ちました。外へ向けての表現力や語彙力というのは、読み聞かせをたくさんしてきた兄より断然あります。作文なども理路整然とスラスラ書いてしまいます。そして彼女はいま、数学が得意。何が功を奏するかわかりません(笑)。
――ところで、菊田さんご自身は、子どもの頃の読み聞かせの思い出などありますか?
私は、小さい頃、祖父母とも一緒に暮らしていたので、昼夜問わず、おばあちゃんの語り聞かせが基本でした。
本を見ながらではないので、その時々で若干語り口調も文章も変わる(笑)。でも、そこは語り聞かせの醍醐味ですよね。だからこそ同じ話を何度も何度も聴きたかったし飽きなかった。そこに絵はないのですが、代わりに頭の中のイメージで物語を見ていたんですよね。
菊田さんの思い出の読み聞かせ絵本3冊
――それではここで、菊田さんの思い出の読み聞かせ絵本3冊を教えてください。
こぐまちゃんシリーズ
(わかやまけん/作 こぐま社)
2〜3歳前後。リズムある言葉で文章が書かれているので、自然と歌を歌うような気軽さで読み聞かせられますし、耳にも入ってきやすい。読み聞かせが初心者の親子に最適でした。短い文章なので、この本を使って文字を指で追いながら読んで、文字を教えた記憶もあります。
『かいじゅうたちのいるところ』
(モーリス・センダック/作 神宮輝夫/訳 冨山房)
3〜4歳前後。パワフルで元気な息子が自分を投影できるような主人公でしたのでこの本を読むとすぐに絵本の世界に入ってくれました。はちゃめちゃにひとしきり暴れて冒険を終わった後、自分の部屋のベッドに戻るというお話の流れなので、息子も同じように眠りへ導かれてくれていたように思います。
『さむがりやのサンタ』
( レイモンド・ブリッグズ /作・絵 菅原 啓州/訳 福音館書店)
4〜5歳前で好きだったのは、ほとんど文字のない、この絵本。あるのはサンタのつぶやきが少々。なので、息子が自分で文章を創ってお話を進めていくという、そういう絵本でした。サンタのセリフもその都度変えられる、とても自由な本で、息子が私にお話を創って読んで聞かせてくれたりすることが多く、楽しんでいたのを覚えています。
――お子さんたちに読み聞かせをした経験が、ご自身の絵本づくりに影響を与えていると思うことはありますか?
なかなか寝ない息子に付き合って、眠りに向かって夜を過ごすうち、「夜」という時間が特別になりました。夜の心の在り方について考えるようになりました。何でもそうですが、終わりの時間というのは特別で、良い方に誘導できたら、その続きはより良いつながりで始められます。だから、その日にどんなことがあったとしても、一日の最後に穏やかな気持ちで眠りにつけることって大事なこと。一度気持ちをリセットできるのは大事なこと。そういう、祈りに近い気持ちが「眠る」ということに関して生まれました。
いつか、私も眠れない夜を支える本を創りたい。「おやすみなさい」で終わる絵本を私も創れたらいいなって思っていました。……そして大人向けの絵本ですが、実際に出すことができました(笑)
――「絵本の読み聞かせ」について、いま振り返ってどんなことを思いますか?
「絵本の読み聞かせ」って、親子の双方が楽しめる時間を過ごせるかどうかが大切なのかなと思います。
絵本を子どもに読まなくっちゃ!……だってみんなやっているし、それが良いみたいだし! って思って、焦ってしまうママもいると思います。でも、もっと気楽でいいんです。読んでも読まなくても、「今」子どもと良い時間を過ごしてほしいと思います。それがいちばん子どもにとって良いことなんじゃないかなって思います。
絵本は子育ての味方のツールとして、いつでもあなたと子どもの傍にあるということ。それだけを、心に留めて子育ての時期を過ごしていただけたらなって思います。
菊田まりこ
絵本作家。絵本『いつでも会える』でボローニャ国際児童図書展で、ボローニャ児童賞・特別賞を受賞。絵本に『ゆきの日』(白泉社)『ひとつぼし』(学研プラス)『月のしずく』(WAVE出版)、育児エッセイに『だっこして おんぶして』『君へのてがみ』(角川文庫)、翻訳を手がけた絵本『わたしのそばできいていて』(WAVE出版)など。
http://kikutamariko.jp
※菊田まりこさんの新連載「菊田まりこの子ども是好日」が4月14日(火)にスタートします。お楽しみに♪