2023年9月23日

日本の小学校に4週間留学。集団登校!給食!算数の授業!フンコロガシ?【教えて!世界の子育て~ドイツ~】

海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。各国からリアルな声を届けてもらう今回は、ドイツ在住の中原さんから。
久々に日本で過ごした夏。お子さんたちは日本の小学校に4週間、通ったそうです!

日本の小学校で過ごした
4週間

ようやく! コロナによる入国制限が解除された2023年。
家族で飛行機に乗るハードルもぐっと下がって、この夏休み帰郷した在外邦人家族も多かったのではないでしょうか。
私たち一家も4年ぶりに日本の家族や友達と過ごし、子ども達は日本の小学校に4週間も通いました。リンゼとおいもさんは日本では1年生と3年生の通学年齢にあたり日本国籍を持っているため希望する学校の教育委員会の許可が降りれば一時通学が可能になります。
普段はドイツの小学校に通っているリンゼからしたらほぼ留学。日本語だけで過ごすと話す力がぐんぐん伸びて、おしゃべりも随分と達者になります。達者になったおしゃべりと「こんなに違うんだ!」という驚きで家族の会話はうんと増え、そこから普段リンゼが通うドイツのグルンドシューレ(基礎学校)のようすまで、より具体的に分かるようになったのでした。

集団登校ってなんですか!

「きたきたきた!」
「リンゼ! おいもちゃん! 集団登校の子たちが来たから急いで!」
登校初日、中原実家は、響く足音と興奮した声でごったがえしていました。
帽子と、うわばきと、ピアニカと、給食のセットと……あと何だっけ。
「きゅうしょくって何?」
「なんかまだ食べたいなぁ。あ、きゅうり持ってこ」
リンゼはいつもの習慣できゅうりを一本片手に登校グループに入っていきます。
「リンゼちゃんはきゅうりが好きなの?」
「うん」
登校グループの上級生は動揺を隠しきれず何か言いたそうな視線を私に送ります。想像ですが「ねえ、いいのきゅうり手に持って学校行って」といったところか。どうでしょう、私も今の日本の学校のようすを知らんのです。60年前は多分大丈夫だった。30年前だったらダメだったかもな。今は給食も残していいそうだし、きゅうりがダメだったら先生から教えてもらえるでしょう。とりあえず行っといで!
事前の打ち合わせで、子どもたちは普通の日本の小学校の体験をする、ドイツの学校生活との違いを感じてもらいましょう。という話がなされていました。違いを感じながら子どもたちが自分で考えたりお互いに話し合ったりするきっかけが生まれたらいい。常識の違う国からやってきた子どもたちとどのように交流していくか、日本の児童たちにとってもいい刺激になるはずだと教頭先生はおっしゃっていて、そんな言葉を頭の隅に置きながら、きゅうりを持ったリンゼを送り出しました。
はぁ、感無量。私の母校に娘たちが通うなんて。しかもきゅうり持って。

日本の小学校に行ってみたら給食が美味しすぎた

娘たちは「きゅうしょくがめっちゃ美味しかったー!」と叫びながら帰ってきました。
「自分でどのくらい食べたいか決めるんだよ」
「すごいよ、みんなで白い服着て自分たちでよそうの。最後の人に汁だけとか具だけとかにならないようにするんだよ! むずかしいんだよ」
これこれ。これを体験して欲しかったのです!
汁と具が均等になるようにお味噌汁をよそう私たちにとっての当たり前も、所変わると存在しなかったりする。これが分かってる人にドイツではなかなか会えない。具だけ汁だけになった汁物の鍋を私は幾度抱えたことか。
大人数のための配膳をしたことが無いと身につかないこの感覚に子どもたちが早速気づいてきて母はにんまり。
「朝ごはん家で食べてから給食まで何も食べないんだよ、何も! パンもクッキーもグミも持ってっちゃだめなんだって」
「先生に聞いたんだ?」
「うん、きゅうり持ってってよかった。あしたは人参にする。人参の方がおなか空かないかも」

日本の小学校に4週間留学。集団登校!給食!算数の授業!フンコロガシ?【教えて!世界の子育て~ドイツ~】の画像1

リンゼがドイツで毎日学校に持って行くサンドイッチボックスがこれ。

いつもなら登校前の朝6時半に朝食を摂り、9時半頃グルンドシューレの『朝ごはんの時間』で持参したサンドイッチやフルーツ、チョコレートバーなどを食べ、12時半に昼食。そういう生活リズムからやって来たら日本の学校はお腹が空いて辛いのでしょう。
「おいもさんは今日がんばってキノコ食べた……めっちゃがんばった……大嫌いなのに」
「わぁ、それはえらかったね。」
「みんな同じメニューなんだよ! 好きじゃない食べ物もちょっとチャレンジしないといけないの」
と、同じメニューに驚くリンゼのグルンドシューレの昼食は希望者が1週間分のメニューを注文するケータリングです。
どんなメニューかというと、
・パスタにトマトソース
・ポークビーンズにじゃがいも
・牛乳で煮た米にチョコレートソース
など。
アレルギーや生活習慣、宗教的理由など、子どもたち個々の事情に対応するため選択制になっているのです。
基本的に、味の濃い1品に芋かパスタなど炭水化物がついているもの、もしくはパンケーキなどおやつのような、いかにも子どもウケしそうな内容。パクパクよく食べるようすが容易に想像できます。
できる。できるが、これらのメニューを毎週見ていると私の中の日本人の部分が頭を抱えて絶叫する。
『野菜はどこーーーーー!!! 栄養バランスはーーーー!!!』

献立係のやる気が水を継ぎ足され続けた麦茶よりも薄い。…と、ついつい文句がでてしまうけど、リンゼのグルンドシューレにおける食事は日本のような学級活動ではありません。
食べても食べなくてもどちらでもいい、それぞれ生活習慣の違う子どもたちが帰宅まで最低限飢えないようにすることが目的なのです。日本の学校給食を子ども時代の生き甲斐にしてきた私からしたら許し難い死活案件なのだけれど、海外に住んでみて初めて分かったことがあります。
日本では当然の美味しくて滋養のある食事は、日本人の食への執着が生んだとても特別なもの。美味しいものがあって当たり前なのは凄い事なんです。
例えば、ドイツの入院食は見るだけで爆笑。食へのこだわりの薄さが見える良い例です!(参照:「ドイツで出産準備教室に参加。体重増加は20kgまでOK!?」

日本の小学校に4週間留学。集団登校!給食!算数の授業!フンコロガシ?【教えて!世界の子育て~ドイツ~】の画像2

お母さんは大声で叫んでおきたい。いいかい子どもたち。日本の美味しいご飯は、特別なんだよ!
「給食は、多すぎるなーと思ったら食べ始めるまえに減らせるのが特に良いなとおもったの。グルンドシューレのごはんは自分で配膳できないし全部一枚のお皿に載ってるから減らせない。『頑張って食べな』も言われないから残ったら全部ゴミになちゃうんだよ。レストランと一緒」
学校は12時頃には終わるため、学童に残る子どもや昼食を用意できない家庭の子どもたちが利用します。

日本の小学校に4週間留学。集団登校!給食!算数の授業!フンコロガシ?【教えて!世界の子育て~ドイツ~】の画像3

グルンドシューレのケータリング。パンケーキはいつだって人気メニュー! 残飯は隣村の養豚場に運ばれます。

日本ではたくさん考える

「算数も面白かったなー、3年生で習う計算の仕方を2年生が分かるように説明する授業とかあったんだよ」
どう説明したら分かってもらえるかみんなで話し合ったというのです。
「グルンドシューレではずっと座ってー、計算してー。テストしてー、それでおわり」
「で、テストの点が悪いと留年になるのか」(参照:「ショック! 1年生で留年するの? 同じ年齢だから同級生とは限らないドイツの学校システム」
「日本のKunst(芸術)も楽しかったの。紐を教室中に張り巡らせてヒモヒモワールドを作って、みんなでくぐって遊んだの。すごく沢山考えて、楽しかったけど考えすぎてめっちゃ疲れた」
「じゃあグルンドシューレのKunstの時間は?」
「超つまんないよ! たとえば、お姫様を描いてくださいー、最初は髪の毛は黄色でー、服はピンクでー、首をかしげてー、って先生が言う通りに描いて点をもらうんだよ。音楽も日本の学校は先生が本物のピアノ弾いてくれて、みんなで歌ったりピアニカしていろんなことがあるけど、ドイツの学校はね、テストのために歌の練習して、テストして、おわり! 体育も走っておわり! 日本はマット運動でしょ、水泳でしょ、カヌーでしょ」
日本の学校との比較でずらずらと出てくるリンゼの話を聞いていたらグルンドシューレが灰色に色褪せてきました。

今までグルンドシューレのようすを聞いても「普通だよー大丈夫だったよーテストだったよー」くらいの返事だったのは、他所(よそ)の授業のようすを知らなかったからだったのです。ちょっとびっくり、そりゃつまらんわ。
ああ、一人きりで歌のテストなんて、辛い。
モンテソーリやワルドルフなどの教育コンセプトのある私立や多言語特別学校などならまた違うのでしょうし担任の先生にもよるのでしょうが、リンゼのは普通の公立グルンドシューレ。授業のようすからは、各個人の資質と学校以外での活動や家庭での過ごし方が子どもの成績に大きく影響することが分かります。やる気になれないクラスメイトがどんどん留年するのもなんだか頷けてしまう。

フンコロガシをめぐってクラスメイトと喧嘩

ある日、リンゼが涙と汗でぐちゃぐちゃになっていました。
「お、おかあさん、フンコロちゃんが、ヒックヒック、死んじゃう」
「は?」
「クラスの子がコガネムシだよーって虫を持ってきたんだって。でもリンゼはそれフンコロガシだって言ってて、教室には食べ物が無いから死んじゃうってこと!」
しゃくりあげるリンゼの代わりにおいもさんが説明してくれます。
「教室にはご飯無いから逃してあげてって言ったのに、嫌だって言われたの。ご飯無いと死んじゃうのに! でもリンゼの虫じゃないから勝手に逃せない」
「フンコロってセンチコガネか」
「うん、教室に置いたまんまにしてあるのヒックヒック、フンコロ助けてあげないと、ヒックヒック」
達者になった日本語で必死に訴える、フンコロの窮地。
「お水とか昆虫ゼリーは?」
「無い……土と草だけ」
「明日ゼリーだけでも持っていったら?……あ、明日学校は休みだ」
「うううう! うんこが無いとフンコロちゃんが死んじゃうよ! 先生に電話して! 教室にうんこ持ってってあげてくださいって」

日本の小学校に4週間留学。集団登校!給食!算数の授業!フンコロガシ?【教えて!世界の子育て~ドイツ~】の画像4

うんこ持ってってあげてください! センチコガネのごはんは哺乳類のうんこ……。

元々、森歩きで出会う糞虫を見つけて喜ぶ子ではありましたが、うんこ虫を追えという本でフンコロことセンチコガネが大好きになったリンゼは、ヨーロッパのセンチコガネとはまた色が違う、大きくてキラキラした憧れの”日本のフンコロ”に会ってとても嬉しかったのです。
じゃあ電話だけでもかけるか……と先生に事情を話すと、土曜日は学校が閉まるのでこっそり逃すのも難しいとのこと……。やっぱそうですよね。
明けて翌週、やっぱりフンコロは死んでいました。
でも虫の餌だからって教室にうんこ持って行くのは完全にやばいと思うし、一体どうすればよかったんだろう。リンゼのグルンドシューレには飼育動物がいません。

野の生き物はほとんど自然保護動物に指定されており(鳥類哺乳類だけでなく蛇や蛾や蜂、ヤスデなどの嫌われ者も!)個人的な捕獲や飼育が禁止されている森の国ドイツ。もちろんリンゼは、小さな虫も保護対象なのだと知っています。「こんな虫捕まえたよ!」と虫籠を持って学校に行く光景をグルンドシューレでは見たことがないそうです。
それと比べて、放課後の校庭で虫網を振り回していたら「こんな沢山バッタと遊んでもらえて、草ボーボーに生やしておいた甲斐があったな!」と校長先生がにこにこやって来る日本の小学校。ああ、なんておおらか!

私たちはこの夏たくさんの生き物を観察しました。川ではオイカワを捕まえて「みんなに見せるの」とリンゼは1日だけ輝くオイカワと一緒に登校し、「婚姻色のオイカワです! いまだけキラキラ」と紹介しました。家の前を横切って行く猿の群れ、畑の中の鹿、青い宝石のカミキリムシ、かわいいナナフシ、力強く地面を掘って逃げるオケラ。もちろん家の中にはアシダカグモ!
日本の虫は大きくて、種類もいっぱいですから生き物が大好きなリンゼには毎日が心躍る大冒険だったことでしょう。ラジオ体操のカードが配られる頃にはリンゼとおいもさんはすっかり小学校の生活リズムに慣れ、キュウリも人参も持たずに登校していけるようになり逆に学級菜園のきゅうりをもらって帰ってくるように。子どもの適応力すごい。
キュウリ持って来ちゃだめ! ではなく、子どもが環境に慣れるまで見守ってくれた学校の大らかさがとても有り難かったです。
30年前だったら「だめに決まってるでしょ!」と怒られて終わりだったな。

日本の小学校に4週間留学。集団登校!給食!算数の授業!フンコロガシ?【教えて!世界の子育て~ドイツ~】の画像5

婚姻色(繁殖期に出る体の色)のオイカワの日記。この夏の忘れられない思い出になりました。

日本の小学校に4週間留学。集団登校!給食!算数の授業!フンコロガシ?【教えて!世界の子育て~ドイツ~】の画像6

今回の海外ママは
中原さん
結婚を機に夫の故郷ドイツに移住。滞在年数10年を超えてもドイツ語に苦しむ。趣味はレストラン巡り、庭いじり、手芸などなど。掃除と片付けも趣味になったらいいのになあ……といつも思っています。2人の娘がいます。#中原ドイツ子育て Instagram @s_vn

シェア
ツイート
ブックマーク
トピックス

ページトップへ