作家・西加奈子さんロングインタビュー。通じ合うってめちゃくちゃうれしい【前編】
通じ合うってめちゃくちゃうれしい
2004年の文壇デビュー以来、20万部を超えるベストセラーとなった『さくら』(小学館)、2015年に直木賞を受賞した『サラバ!』など、数多くの話題作を上梓している西さん。現在は2歳(当時)のお子さんのお母さんだが、母親になってからもエネルギッシュに執筆を続けている。
――小説は、おうちでは書かないことにしているそうですね。
はい。でも最近は、エッセイとか、メールとか、あとゲラ(校正)くらいやったらなんとか家でちょっとずつできるようになりましたけど。小説をがっつり書くとかはもう無理です、家では。子どものものがちらちら目につくから気が散って、家事や用事も「あ、今これできちゃう!」とかなるから、仕事は外に出てやってます。
子どもが生まれて2か月後ぐらいから仕事をはじめたんですけど、家ではとてもできないので、産後ドゥーラ(※)さんに家で子どもを見てもらって、私は外に出て仕事をするようにして。今もその習慣で、仕事は外でしています。
※産後ドゥーラ……産後間もない母親と赤ちゃんの生活をサポートする専門家。
――「在宅の仕事なら子どもを見ながらできていいわね」と言われることも多いと思いますが、実は逆に大変なことも多いですよね。
もちろん、毎日職場に通うことも大変ですし、私にはできないですけど。なんか在宅の仕事だから保育園落とされた話とか聞くと、もうほんま、悲しくなりますよね。「やってみろや、ほんなら」って。
――本当にその通りです。今は保育園の送り迎えは、ご夫婦で?
朝は夫が送って、帰りは私がお迎えですね。でもお互い都合に合わせて、臨機応変にやっています。
――お子さんはこの夏2歳になられたんですね(当時)。0、1歳の頃とはずいぶん違いますか。
今はもう、よくしゃべります。やっぱり意思疎通ができるようになったのが大きな進化というか変化で。むっちゃくちゃ楽しいです。前は、赤ちゃんってもう宇宙人みたいやから、観察してるのが楽しくて。「これが面白いんや?」とか、私たち大人にはわからない世界があるじゃないですか。愛想笑いもしないし。
だから、「このままでいてくれ」と思ったりもしたんですけど、でも実際、人間の言葉をしゃべって愛想笑いもするようになると、「通じ合うってめちゃくちゃうれしいんやな」って思いました。海外に行って、海外の人と話が合ったら面白いですもんね。その感覚が日々あるっていうか。
「赤信号やからあかん」はおかしい言い方
――お子さんには今、おうちでどんな絵本を読まれていますか。
何が好きかなぁ。『ねないこだれだ』はすごく好きですね。で、私、結構そういう絵本のマスターピースを読んでなくて。子どもができてから知ったんですよ。『ねずみくんのチョッキ』や、『ぐりとぐら』もそうやし。「こんな話なん? おもろい!」みたいな。『はらぺこあおむし』も、子どもができてから初めて読みました。それはそれでよかった気がします。先入観がなくて、私自身もヴィヴィッドに楽しめるので。
――大人になってから読んで印象的だった絵本はありますか?
『ねないこだれだ』は怖すぎるやろと思いますけどね(笑)。「おばけになってとんでいけ」って、今やったらあかんのちゃう? と思うんですけど。なんか昔の絵本って自由でいいなと思っていて。
小説に関しては制約はないですけど、こと教科書とか絵本とかになると、今はいろいろ言われることも多い。それが「この表現が子どもを傷つけるからあかん」やったらいいけど、「これで怒ってくる親御さんがおるんで」やったら聞きたくないし。
でも、こうやって怒ってるけど、それは自分にもめちゃくちゃ言えること。「自分がどこを向いてるか」っていうことをちゃんと考えないとあかんなって思います。「今、自分が何を躊躇してるのか」とか。読者のため、作品のためを思っての躊躇なのか、自分が糾弾されることが怖いがゆえの躊躇なのか、それをちゃんと考えてやらないと、っていうのは思います。
例えば災害が起きたときに、「祈りたい」という気持ちがあっても、「私に祈る権利はない」みたいにその気持ちを封印しちゃうところがあったんですけど、自分がそう思ったというよりは、「お前が何祈ってんねん」って言われんのが怖いだけやん、って。
それやったら誰に言われようが祈りたい気持ちを大切にした方がいいなぁと思うし。それを大人が率先して責任もってやらんと、そら子どもも真似しますよね。
最近、「赤信号やから渡ったらあかん」って教え方をしすぎてる気がして。「車が来るから、危ないから渡ったらあかん」のであって、記号的な、「赤やからあかん」みたいな言い方が多い気がする。「子どもを傷つけるからあかん」じゃなくて、「文句言われるからあかん」になってはいけないと思うんですよね。
BOOK INFORMATION
『さくら』
西加奈子/著 小学館 本体1400円+税
両親と三兄妹、そして、見つけてきたとき尻尾にピンクの花びらを付けていたことから「さくら」と名付けられた一匹の犬。同名映画「さくら」が2020年11月13日公開です。
最新情報は西加奈子さんオフィシャルサイトをチェック!
www.nishikanako.com
インタビュー/原 陽子 撮影/大森忠明(kodomoe2019月10月号掲載)
後半は、
作家・西加奈子さんロングインタビュー。お母さんがすべて、とは思わないで欲しい【後編】
です。お楽しみに♪