2020年12月11日

山崎ナオコーラさんロングインタビュー。母親と思うよりも親と思う方がきっといい親になれる。だから母親になるのはやめました【後編】

子育て向き体質
ものすごく楽しい

――不妊治療をされての出産でした。

私は35歳のときに、自然妊娠して流産を経験したんですね。その1か月後ぐらいに、父に癌が見つかったんです。膵臓癌だったので進行が早くって、5か月の闘病の間、毎日お見舞いに行ってましたから、父が亡くなった後は喪失感が大きくて。だから、ただただ寂しくて、一日でも早く子どもが欲しくて不妊治療をして、結果、子どもを授かったんです。でも、「子どもができたからといって、穴は埋まらないなあ」と思いました。やっぱり、生まれてきた子は父や流産した子とはまったく別の存在だから。でも、子どもがいると、ものすごく楽しいです。

――出産体験は大きいですか。

いや、大したことなかったです。出産前、前置胎盤で2か月入院したのですが、それも自覚はなくてただ寝ていればいい状態だったし、予定帝王切開だったので、陣痛もなく、本当に「手術」という感じでした。しかも、運よく、妊娠中と出産後の体調不良もなかったんですね。出産後は、夫が1年だけ15時で仕事をあがれるように時短勤務にしてすすんで育児をやっていたし、子どももよく寝るタイプだったんです。産む前に、「出産後は地獄だ」と聞いていたので、どうなることやらってビクビクしていましたが、心配していたほどじゃありませんでした。

――最初から、自分たちを「母」とか「父」で括るのはやめようと決めておられたんですか。

妊娠中に、つい夫に「父親になるんだから」みたいなことを言ってしまったことがあり、すぐに反省したんです。「父親」という括りで見たら、夫はタフでもないし、ちゃんと叱るとか威厳を示すタイプじゃないから、いい父親じゃない(笑)。でも、「親」なら、すごく愛情深いし優しいし、読み聞かせもうまいから夫は輝くなと気づいたんですね。それで、「私も女性らしさはないから、『母親』と思うよりも『親』と思う方がきっといい親になれる」と思ったんです。そこから「母親」はゴミ箱に捨てました(笑)。子どもにも、どちらの性でもいい名前をつけました。

――「母親」「父親」をゴミ箱に捨てるのも難しそうです。

自然にしていると、世間から「母親の方が偉い」っていう風が吹いてきますからね。それこそ「母子手帳」もそうだし、子ども用品って「ママなんとか」みたいな商品名が多いでしょ。そんな世間に任せてると、どんどん母親の価値が高騰しちゃうから、自分たちの会話の中では絶対に「母子手帳」とは言わずただの「手帳」って言うとか、「ママバッグ」ではなく「子ども用バッグ」と言うようにしていたら、自然と括りからも自由になった気がします。
私は、夫には、同じ親なんだよって感じてほしいんですね。母乳をあげるのが、私の場合、すごく楽しかったんです。本当は夫もあげたいんだろうなと感じたので、お宮参りに行ったら夫に赤ちゃんを抱かせて、夫中心に写真を撮るとか。友達に会うときも夫に子どもを抱かせて、夫が育児自慢をしてるのを「そうそう、すごいやってる」って持ち上げて、夫に花を持たせるようにしました(笑)。

――母乳の時間に合わせて睡眠時間を短くしたら、かえって仕事の効率が上がったとか。

たまたま、私は子育てに向いてる体質だったのかもしれないです(笑)。「やってみたら楽しかった」というのが本音で、一秒も嫌な時間はありません。多分運がよかったんだと思います。

山崎ナオコーラさんロングインタビュー。母親と思うよりも親と思う方がきっといい親になれる。だから母親になるのはやめました【後編】の画像2

完璧な親にはなれない
だって私だもん

――他の子どもの成長と比べないし、競争もさせたくない、と書いておられます。

一切気にしないようにしようと思ってます。夫がそういう人ですから(笑)。いい学校行っていい就職してということを気にしていないのに、夫は知的で優雅な生活を楽しく送っている。子どももいい学校とか就職を目指さなくても、他の子より秀でているとかを気にしなくても、きっと幸せになれると思う。だからそこは気にしないでいこうかなと思います。

――離乳食ひとつとってもマニュアル通りではなく、結構適当というかカジュアルな感じがします。

「母親」って言葉をゴミ箱に捨ててるから。「いい母親」を目指さなくても、私にできる範囲のことでいいって思ってます。

――保育園は落ちたんですよね。

はい。今は「一時保育」で週3回預かってもらっています。そうしたら、保育園の方たちがすごく優しくしてくれて。保育園以外でも、街を歩いているときや、電車に乗っているときなど、みんな一緒にベビーカーを運んでくれたりするんですよね。世の中の人たちは、優しいなあと感じます。

――子どもを預けて働くことに一切後ろめたさを感じることはないとおっしゃいます。それは「母親」をゴミ箱に捨てたから?

「男の人で仕事に行ってごめんと謝っている人を見たことないのに、なんで女性だけ謝んなきゃいけないんだ。自分が子どもを産んだときには絶対謝らない」と、若い頃から思ってたんです。それに、今現在、私が仕事をしていた方が私自身も精神的に安定して子どもに優しく接していられるし、経済的にも子どもに負担を与えないで済むはずだし、絶対私が働いた方が子どもは幸せになると思うので、堂々としていたいと思います。

――ただ、性別にこだわりたくないと言われても、ことに日本は性別の規範だらけですが。

ベビー服も白を選んでいたんですが、成長するにつれて、子ども服はピンクか青かみたいに分かれてしまうんですよね。今は両方の色を着せていますが、でも、予定帝王切開のときから誕生日もお医者さんに決められています。すでに妊娠中からそうなんですから、保育士さんから性別らしさも教わるかもしれないし、いろいろな人の影響を受け入れて自然に変わっていったらいいんじゃないかなって思いますね。私がそこまで調整できるという傲(おご)った気持ちは持たない方がいい、そこまでのことはできないとあきらめています。自分の思ってる性別の考えを押しつけたくなるときもあるけど、できるだけグッとこらえて(笑)。

――あきらめるという言葉がお好きなんですね。

私は大学で平安文学を勉強して、「物事をあかるみに出す」が「あきらめる」の語源だと習ったんですね。悪い意味じゃないと知って、「あきらめる」という言葉をよく使うようにしたら、結構楽になったんです。子どもが水をこぼしても「ああ、あきらめよう」って思うと、「どうせもうこぼしちゃったからどうしようもないから」と思って拭くだけで、心が波立たないんですよね。私自身も、「どうせ私なんだからそんないい親になれるわけないんだ」ってあきらめちゃえば、完璧な離乳食を作らなくても自分に対してストレスが起こらない。だって私だもん。「あきらめる」って言葉は、結構おすすめです。

――いいですね。じゃあ、しつけにもこだわらない?

一応ちょっと怒ったりはしますけど、まだ1歳なので、しつけってほどのことはできていないと思います。でも、子どもが水をこぼしたりするのは結構面白いんですよ。こっちはもう水なんて当たり前のものだと思ってるのに、子どもは、透明で光っているから美しいものと感じていて、こぼしても「わ~っ!」って。映画で、なんてことないシーンをすごくキラキラ輝くように撮っているとき価値観の転換が起こりますが、子どもといると「水があるだけで、これってすごく幸せなことなんだなあ」と気づけたりするんですよね。子育てって、それがすごく面白いかもしれないですね。

――では、世間のモノサシとは違うところで、「こう育って欲しい」という望みはありますか。

できるだけ長生きして欲しいなあって思います。ふふふ。

 

BOOK INFORMATION

ハハコにおすすめ
山崎ナオコーラさんの本

山崎さん初となる絵本はお父さんが主役。「絵本に出てくるお父さんは、お母さんとは違う役割の親というお話が多いので、そうではなく、お父さんがかわいいというだけの絵本を作りました」。家族の存在がますます愛おしくなる一冊です。

山崎ナオコーラさんロングインタビュー。母親と思うよりも親と思う方がきっといい親になれる。だから母親になるのはやめました【後編】の画像3『かわいいおとうさん』
山崎ナオコーラ/ぶん ささめやゆき/え こぐま社 本体1200円+税
 
「おとうさんのかお ずっと ずーっとみていたいよ あさも よるも みていたいよ」。子どもはみんなお父さんが大好き!

山崎ナオコーラさんロングインタビュー。母親と思うよりも親と思う方がきっといい親になれる。だから母親になるのはやめました【後編】の画像4『母ではなくて、親になる』
河出書房新社 本体1400円+税
 
37歳で待望の出産。作家と書店員夫婦の、妊娠から子どもが1歳になるまでのエピソードを明快に綴った子育てエッセイ。

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twitter.com/naocolayamazaki

インタビュー/島﨑今日子 撮影/大森忠明(kodomoe2018年2月号掲載)

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