山崎ナオコーラさんロングインタビュー。母親と思うよりも親と思う方がきっといい親になれる。だから母親になるのはやめました【後編】
役割分担をせず、それぞれがいい親になればいい――。作家・山崎ナオコーラさんご自身の出産・育児を綴った今までにない子育てエッセイ『母ではなくて、親になる』(河出書房新社)が、ママたちの間で大きな話題を呼びました。
kodomoe webでは、kodomoe2018年2月号のロングインタビューを全編公開。前編に続き、後編では山崎さんの結婚や出産、そして“向いている体質だった”と語られる子育てについてうかがいました。
※kodomoe2018年2月号に掲載のロングインタビューを全文公開。記事の中の年齢などは取材当時2018年のものです
Profile
やまざきなおこーら/1978年福岡県生まれ。『人のセックスを笑うな』(河出書房新社)で文藝賞を受賞し作家デビュー。『美しい距離』(文藝春秋)で島清恋愛文学賞を受賞。近著は『肉体のジェンダーを笑うな』(集英社 2020年11月発売)。モットーは「フェミニンな男性を肯定したい」。
男らしさから外れた夫
嫁にならない結婚
26歳で作家デビューし、一作一作独自の世界を築いてきた山崎さんは、33歳で1歳年上の町の本屋さんに勤める男性と結婚し、37歳で子どもを産んだ。2017年発売の『母ではなくて、親になる』には子育ての楽しさや性別役割への率直な疑問が綴られており、山崎さんの幸せの形が見える。子どもの性別は公にしていない。
――結婚したときご両親の反応は。
本屋さんは厳しい業界なので、夫はすごくいい仕事をしてるのに給料は低いんですよね。だから、どう言われるんだろうと不安になって、インターネットで「親に紹介する」「結婚の準備」って検索しました。なかには「反対される」という回答もあったけれど、実際に紹介したら何も問題なく、「いい人だからよかったじゃない」と喜んでくれました。夫の両親に会うときも、検索して、すごく準備していったんですが、何の問題もありませんでした。
――何の準備ですか。
私は、夫を立てるとか、やるべき嫁の仕事がいろいろあるんじゃないかとかビクビクしてたんで、事前に夫からご両親に「仕事をしてる人だから嫁とは思わないでほしい」と説明しておいてもらったんですね。そうしたら本当にそう接してくれて、今まで一度も嫁扱いされたことはありません。夫の実家に行ったとき、1回「お皿洗います」と言ったら、「いいです、いいです」って(笑)。
――結婚するとき、夫にご自分の考えを説明されたんですね。
「女性だからという理由で何かの役割を担うことはしない」と切々と言いました。彼は私と完全に考えが同じなわけではないとは思いますけど、言ってることはわかってくれた気がします。あと、夫は見た目も性格もかなりなよなよしていて、「男らしさ」を素晴らしいとする価値観で見たら最下位になりそうなタイプなんですよ(笑)。頼りがいもないし優柔不断だし。でも、とにかく優しくて、人の悪口は言わないし、温かい人柄なんです。だから夫も、男らしさを気にしない方が絶対いい生き方ができると思ったんですよね。
――山崎さんには、男らしさへの憧れはなかったんですか。
若いときは、格好いい人がいいとか、むしろ怖い人の方が好きとか思ってたんですけど、30歳にもなると、自分がすごく我が強くて性別にこだわらない性格で、これは多分一生変わらないんだっていうことがさすがにわかってきます。そのぐらいの年になって、やっと夫のよさというか、自分にはこういう人じゃないとダメだっていうのがわかったんですよね。
――結婚当初は、それぞれの収入に応じての家事分担を求めたそうですが(笑)。
当初は、家事の割合を収入の割合と同じにと提案してやってたんですけど(笑)、実際にはそうはできないじゃないですか。私のストレスが溜まってきたので、段々と「あ、この考え方を捨てるほうがいいんだ」と気づいたんですよ。「対等」と考えないようにしたら、すごく楽になったんです。そうした考えも夫が教えてくれた気がします。
夫はお金がないことを不満とも恥ずかしいとも思っていません。勝ったとか負けたとか、上昇志向がないんですよね。書店員という仕事にプライドを持って、毎日一所懸命楽しく働いています。そんな彼と話していると、ずっと悩んできた仕事の焦りなど感じる必要はない、文学が好き、本が楽しいと思っていれば、しっかりと筆を持って仕事を好きなままやっていけるんだって思うようになりました。そうすると、夫に対しても、「平等に家事負担」とか、「夫と私とで対等な関係を保ちたい」というのもいちいち気にしなくっていいと思えるようになって。ただお互いに健康で楽しく生きていればいいんだって。