小林：
親御さんがお子さんと別れるとき、すぐ切り替えられないからと、
何度もお別れのスキンシップをすることがあります。
「もうちょっとぎゅうして、〇〇ちゃんが納得したら行こうか」とか
「じゃあ、あと３回タッチしよっか」と、
スキンシップを増やしていく方もいらっしゃいます。
それが心を切り替えるための「最後の一回」だったらいいんですけど、
これやってみても泣いてるから、じゃあこれも、これもしようかっていう形だと、
お子さんのほうも「これ、まだいけるかも」って思っちゃうんです。

日下：
子どものほうも必死なんですね。

小林：
「タッチしたらバイバイ」を名残惜しそうに、
お母さんもまだやり足りないふうにやってしまうと、
お子さんってすごく敏感なので、もう一回やってほしくなってしまう。
そうすると、その後まで、別れがたくて泣く行動が続いてしまうんですよ。

日下：
子どもも、「もう一回タッチ」「あと一回タッチ」…て、
外に出たお母さんが見えるところまで走ってくるのをよく見ます。

小林：
お母さんが、離れる気持ちであることが伝わるタッチならいいんです。
そうではなくて、お母さんが行こうとしてまた戻ってくるとか、
できる限りこの子といようとする感じが子どもに伝わってきちゃうと、
その中に保育士が入る余地がないんです。
離れられない親子の仲を保育士が引き離すというと、
お子さんの受けるダメージが大きくなってくるので、
そこはやはり、お母さんの方から「いってきます」と言ってほしい。
朝の別れをどれだけのばしても、
子どもとの関わり自体は深くならないと思うんです。
できるなら、その分急いで帰ってきてくれたらなあって、私は思っています。

日下：
結局、お仕事に行ってしまうという事実は変わらないですもんね。
泣くという感情に引っ張られず、お子さんにここにいて大丈夫なんだよって
親御さん自身が態度で伝えていくことで、子どもの意識も変わるのだと思います。

ママと別れた後、子どもの涙が止まる理由

日下：
朝の号泣の反面、子どもが親と別れた途端、「あれは何だったの？」というぐらい、
ケロッと泣き止んで遊んでいる、という話もよく聞くのですが、
あれはどういう心境なんだと思いますか？

小林：
これは、お子さんによって異なるのですが、ひとつは「儀式化している」
ということがあります。
朝、お母さんと一緒に来て、泣いてスッキリすることで、
切り替えられていることがあります。
もうひとつは、さきほどお話したように、
「泣いたら、お母さんとそれだけ長くいられると思っている」パターン。
あとは、泣いているときはお母さんだけを見ているんですが、
お母さんが行ってしまった後は、自分の好きなものやお友達が見えてくる。
そこで「遊びたいという気持ちに切り替わった」というパターンもあります。

日下：
本当に、扉をしめた瞬間に変わるお子さんって、いるんですよね。

小林：
それがなんでかって言われると説明しにくいんですけど、
本当にぱきっと変わる子も多いです。
親御さんとしては、あんなに泣いていたのに嘘でしょってなるんですけど、
切り替える力って、意外にお子さんは持っているなと思います。
もちろん、ピタッと変わらない子に関しては、一緒にいて、
少しずつ声をかけていきますから、安心してください。

日下：
あんなに泣いていたのが、お迎えのときに遊んでいたりすると、ほっとしますよね。
でも、どうやって慣らしていったの？ と親御さんによく聞かれませんか？

小林：
「信じられない」と言われることがすごく多いので、
ぼくたちは、本当に遊んでいるという様子を写真に残しています。
慣らし保育の期間などは特に、お迎えのときにそれをお見せしています。
泣いていたけど、お友達と笑って遊んでいましたよって。
言葉だけだと、保育士の都合のいいように言っているふうに
聞こえるかもしれませんが、
実際見せて伝えると、安心感を持ってくれますね。
子どもの笑顔の時間が少しでも長くなるように、
ぼくたちも親御さんと協力していきたいと思っています。

POINT：
・子どもはママと少しでも長くいるために泣くことでがんばる
・別れ際は、ママが笑顔で「いってきます！」
・タッチやハグのスキンシップは、サラッと1回、爽やかに
・子どももちゃんと切り替える力を持っていると心得て

第３回は、新しい年度でまた号泣！「行きたくない！」を楽しみに変えるには？　です。