2月のテーマは「すき? きらい? の絵本」【広松由希子の今月の絵本・4】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
2月のテーマは「すき? きらい? の絵本」
2月といえば、バレンタイン。
わたしのバレンタイン初体験は、幼稚園のとき。
「なかよくしてね」と、カードをあげた相手の子は……女の子でした。
かなり意地悪な子だったっけ。
あ、男の子も、好きでしたよ。
あれが、初恋だったのかな。
やっぱり幼稚園のとき、年下の小さい子に、
なかよくしたり、からかったりしながら、
ちょっとドキドキしていました。
変? そうかな? どうだろ?
幼い頃の「すき」と「きらい」って、
紙一重だった気がするけれど。
相手が同性でも、異性でも、
好きなのかな? 嫌いなのかな? って、
ゆらゆら揺れていたあの頃の気持ちを思い出しながら、
今月は「すき? きらい? の絵本」を選んでみました。
まずは『ねえ どっちがすき?』で、ウォーミング・アップ。
自分の「すき」を見つめるべく、
2択の「すき」で遊んでみましょうか。
「ねえ どっちが すき?
ぴっかり めだまやきと
ほっこり たまごやき」
「ねえ どっちが すき?
きしし きしし ゆきふみと
ざっぷーん じょわわー なみのり」
身体感覚に訴える、ゆかいな擬音・擬態語で、
うーん。どっちもいいよねえ。
その日の気分で、ちがうよねえ。
と、読むたびに楽しく悩める絵本。
案内役は、ネコ耳帽子の男の子と、吊りズボンのキツネ。
『めっきらもっきらどおんどん』や『ともだちや』シリーズなどで知られる
降矢さんの絵は、親しさのなかに魔法のスパイスがまぶされているよう。
ゆやーん、ゆよーんと、子どもといっしょに、
揺れて悩んで遊んでください。
『ねえ どっちがすき?』
安江リエ/文 降矢奈々/絵
福音館書店 定価840円 2003
嫌い嫌いも好きのうち?
『きみなんか だいきらいさ』は、
赤い表紙が小憎らしくも愛らしい、掌サイズの絵本です。
直線的なペン画で描く、三頭身のキュートな姿体。
センダックの初期の絵、ほんとに魅力的ですね。
いつもくっついていたふたりが、今日は大げんか!
ページの右端と左端で、そっぽを向いている後ろ姿が、
ふたりの気持ちを物語っています。
ジェームズなんて、ヤなやつ。
いつだって、いばりんぼだし、けちんぼだし、意地悪だった。
すごくなかよくしてたけど……もう大嫌いさ!
よし。あいつの家に行って「ぜっこうだ」って言ってやる……!
不意に襲ってくる「きらい」。
そして、会うと、こみ上げてくる「すき」。
けんかの気持ちと、仲直りの瞬間。
小さい人もシンプルに共感できて、閉じるときには、きっとにっこり。
『きみなんかだいきらいさ』
ジャニス・メイ・ユードリー/文
モーリス・センダック/絵 こだまともこ/訳
冨山房 定価630円 1975
さて、こちら。
『すーちゃんとねこ』のふくれっつらも、強烈でしょ。
子どもと大人の心のひだを、ひりひりするほどに描き出した
佐野洋子さんのすばらしい一冊が復刊されました。
いっしょに散歩していた「すーちゃん」と「ねこちゃん」ですが、
ねこちゃんが見つけた風船を、すーちゃんが横取りしてしまいます。
しかもねこちゃんがいやがればいやがるほど、
すーちゃんは、これ見よがし、風船となかよくするのです。
まあ、そのあんまりな仕打ちったら!
ふんわりパステルカラーの特色版で、
どっきりリアルに描かれた、
子どもの残酷さ。独占欲。嫉妬心。すごいっ。
すーちゃんは、反省して仲直りするのかな?
いやいや、なんたって佐野さんですからね。
一筋縄でいくはずありません。
物語は意外な展開をみせ、あっと驚く開放的な終わりへと……うーん。
『すーちゃんとねこ』
さのようこ/お話・絵 こぐま社
定価1,260円 1973
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
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