2012年3月6日

3月のテーマは「目覚める虫たち…春のさんぽ絵本」【広松由希子の今月の絵本・5】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

3月のテーマは「目覚める虫たち…春のさんぽ絵本」

コートはまだ手放せないけれど、
日差しは、じんわり春の光です。
三月、啓蟄。冬ごもりの虫も、土の寝床から出てくる頃です。

もぞもぞ起き抜けの虫たちを思いながら、
本棚から絵本を取り出していたら、
こんなきれいな春色の表紙が並びました。

3月のテーマは「目覚める虫たち...春のさんぽ絵本」【広松由希子の今月の絵本・5】の画像1

春を運ぶ絵本の第一冊は、ふわふわの笑顔が表紙の
『ちょうちょうひらひら』。
やわらかい色鉛筆と水彩の羽をふるわせて、
春の野原を花から花へ……
いえ、蝶がとまるのは、
菜の花やレンゲだけではありません。

「うさちゃんに とまった
 うさちゃんが うふふ」
うさぎの耳を飛び立つと、今度は鹿の角に。
「しかさんが えへへ」

親世代にもファンが多い『わたしのワンピース』の
にしまきさんが描くあたたかで軽やかな絵。
ひとひらの言葉で春のよろこびを告げるのは、まど・みちおさん。
くすぐったい感触に、幸せな笑いが広がります。

小さい子どもをひざにのせ、
触れ合い、笑い合いながら読みたい絵本です。

3月のテーマは「目覚める虫たち...春のさんぽ絵本」【広松由希子の今月の絵本・5】の画像2

『ちょうちょうひらひら』
まど・みちお/文 にしまきかやこ/絵
こぐま社 定価945円 2008年

 

 

昨年の5月に出版された
『じっちょりんのあるくみち』も、
春がくるたびに読み返したくなりそうな一冊。

頭には触角。黒くて細い手足。でも歩くのは二本足で。
虫みたいな、人間みたいな、
人目をしのんで種をまいて歩く、おくゆかしいひとたち。
コンクリートの道や壁の隙間に、草花が芽吹くのは、
実はこの「じっちょりん」たちのしわざなんですよ。

じっちょりん一家の一日に同行し、
微細に描き込まれた画面に見入って。
あ、ここに。こんなところにも。
いじらしく咲く雑草の花を見つけるよろこび。

本を閉じたら、親子で春の雑草探しの散歩に出かけては。
運がよければ、草陰に、じっちょりんの姿を見つけられるかもしれません。

3月のテーマは「目覚める虫たち...春のさんぽ絵本」【広松由希子の今月の絵本・5】の画像3
『じっちょりんのあるくみち』
かとうあじゅ/作 文溪堂
定価1,365円 2011年

 

 

60年代生まれの懐かしい絵本もアリますよ。
子どもの頃から大好きだった
『ありこのおつかい』ですが、いま読み返すと、
はっとするほど美しく、ゆかいで粋で新鮮です。

アリの「ありこ」が、草の実を届けにおばあさんの家へ。
赤い帽子をかぶり、かごを下げて、赤ずきんちゃんを彷彿とさせる始まりです。
案の定、おかあさんの言いつけを守らずに、森で道草を食っていると、
カマキリの「きりお」に怒鳴られて、ぺろりとひとのみに!

「あやまったのに たべるなんて――ばかあ!」
「うるさい。だまれ!」
おなかの中から叫び続けるありこと、けんかしながらきりおが行くと、
今度はむくどりの「むくすけ」が……。

「ばかあ、ばかあ!」
「とんちきめ!」
「わるものお!」

勘違いから次第に大きな生きものに飲み込まれ、
どんどん入れ子になる食物連鎖の図が
けっこうシビアにユーモラス。
昭和な響きの悪口の応酬も、心地よく爽快です。

楽しい物語絵本の画面の決め手は、「黒(スミ版)」の使い方。
アリの表情、動きのある線、おなかの中の真っ暗闇などに注目すると、
古典絵本の楽しみが、さらにふくらむかも。

3月のテーマは「目覚める虫たち...春のさんぽ絵本」【広松由希子の今月の絵本・5】の画像4
『ありこのおつかい』
いしいももこ/作 なかがわそうや/絵
福音館書店 定価1,365円 1968年

 

 

最後に、近頃どうしても気になるこの絵本、
長新太さん晩年の作『みみずのオッサン』を。

先日出演した深夜番組でも、マツコ・デラックスさんが大絶賛でしたが、
読むほどに、おかしくて恐ろしくて哀しくて哲学的で……
どこまでも掘っていける面白い本なのです。
そして、なんたってすごいのは、そんなこと全然考えなくても、
子どもが思いきり楽しめるところ!

主役は、なんと「オッサン」という名前のミミズ。
「ちょっと さんぽに でかけましょう」と、
すっかり油断させられる出だしですが、いきなり
「ドシーン!」
2見開き目からたいへんな展開が。
「ヌルヌル ベトベト ベタベタベタ~」
ペンキ工場が爆発! あ、絵の具とクレヨンの工場も!
人も動物もあらゆる物も、ドロドロの色に埋もれてしまいますが……。

ふだん蔑まれているミミズの、それも「オッサン」の、救世主的な登場!
人間や他の動物が排泄した物を食べ、きれいな泥に変えていくミミズの偉大さ。
2003年にこの絵本が出たときは、本当にガツンとやられました。

2012年になり、この絵本を手に取ると、また深く感じるものがあります。
「オッサン」は人間が排出させたペンキを、今も食べ続けているのでしょうか?
3月のテーマは「目覚める虫たち...春のさんぽ絵本」【広松由希子の今月の絵本・5】の画像5
『みみずのオッサン』
長新太/作 童心社
定価1,365円 2003年

 

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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