2015年9月29日

9月のテーマは「ちいさい秋の絵本」【広松由希子の今月の絵本・46】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

9月のテーマは「ちいさい秋の絵本」

風にのって、キンモクセイの香りがしてきました。
秋風を感じる頃になると、
本棚から取り出す絵本があります。

どの季節に読んでもいいけれど、
秋に味わうと、一段とうれしい絵本たち。
絵本で「ちいさい秋」を見つけましょ。
 

46

 

『とってください』は、
小さい子どもたちと会うときには、
秋のわたしの必携本。
にまにま、いそいそ読んじゃいます。

主役は、小さいカメ。
木の上のものがほしくて、ほかの誰かに頼みます。

「おさるさん りんごを とってください」
サルが登ってとってくれると、
「ありがとう」

「はとさん おはなを とってください」
ハトが飛んでとってくれると、
「ありがとう」

手の届かない小さいカメは、小さい子どもたちの分身のよう。
そして、頼まれると必ず快く、望むものを与えてくれる、
鳥や大きな動物たちは、大人たちの分身……かな?

小さくてもだいじょうぶ。
必ず大きい人が助けてくれるからね。
「とってください」
「ありがとう」
の繰り返しが、安心と感謝の2拍子になっています。

最後に登場するのは、ごつくて強そうなサイ。
紅葉した木の下で、
「きれいな はっぱを とってください」
カメが頼むと?

なんてうれしいラスト。
頼もしくあたたかな版画で描かれた
秋の「恵み」の絵本です。

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『とってください』
福地伸夫/作 福音館書店
​本体700円+税 2003

 

 

『きはなんにもいわないの』は、
季節を問わず、じんわりしみこむ絵本ですが、
やわらかい水彩画の背景から、木々の色づきが見てとれます。

主人公は、小さいすーくん。
お父さんとふたりで公園に出かけ、
「ねえ おとうさん きに なって。」と頼んだら……

お父さんは、すっかりそのキ。
全身、木になりきります。

すーくんが木になったお父さんに登ろうと
助けを求めると、
(きは なんにも いわないの。) 

なんとか自力で登ったすーくんが
毛虫を見つけておびえても、
(きは なんにも いわないの。)
木になったお父さんは、声にならない声で、答えるばかり。

すーくんは、ひとりで
「木」との時間を体験するのですね。
おっかなびっくりの挑戦も、
気づかなかった発見も、
気持ちいい秋風も。
「そよそよ そよそよ。」

ベタつかず、突き放さず、そっと寄り添う
心地いい父子関係。
画面も風通しがよくて、
涼しい秋風が流れていきます。

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『きはなんにもいわないの』
片山健/作 復刊ドットコム
本体1800円+税 2014(*2005年学研版の復刊)

 

『びっくりまつぼっくり』は、
日常の「ちいさい秋」から、不思議がふくらむ
科学へのいざない絵本。

散歩していて見つけた、まつぼっくり。
こっちにも、あっちにも。
ころんとしたまつぼっくりは、とっても魅力的。
拾うだけでうれしくなるけれど。

上から見たら、花びらみたい。
下から見たら、どんなかたち?

まつぼっくりからひらひら落ちた
薄い羽みたいなものは……タネ?

柵の上に10個並べた、まつぼっくり。
雨の日に通りがかったら、
すっかり変わり果てた姿に?!

しょんぼりしたり、びっくりしたり。
おしまいに、まつぼっくりの手品つき。
タネはあっても、しかけはない。
小さい人たちも小学生も、大人だって、はまります。

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『びっくりまつぼっくり』
多田多恵子/文 堀川理万子/絵
福音館書店 本体800円+税 2010

 

 

『もりのかくれんぼう』は、
秋もぐっと深まり、黄金色に包まれる絵本です。

公園からの帰り、おにいちゃんを追いかけて
生け垣をくぐったら、けいこは、
知らない大きな森の入口に発っていました。

「きんいろに けむったような あきのもり」
落ち葉を踏んで歩いていくと、
いたずらな誰かの気配を感じます。
声はすれども、姿は見えず……

いえ、絵本をぐるっと回して、
ためつすがめつ見てください。
絵の中に、枝や枯れ葉と一体となった
「もりの かくれんぼう」の姿に気づくでしょ。
(表紙にも隠れていますよ)

森中の動物たちも集まってきて、
けいこと、かくれんぼうと、
秋のかくれんぼが始まります。

けいこといっしょにオニになり、
隠し絵に入り込んで、探しながら読み進める物語絵本です。
みんな、なかなかの隠れ上手だから、
読むたびに、真剣に探すことになりますよ。

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『もりのかくれんぼう』
末吉暁子/作 林明子/絵
偕成社 本体1000円+税 1978

 


絵本で秋の森林浴をした後は、
秋を探しに出かけましょう。

町でも公園でも八百屋さんでも……
ちいさい秋は、そこかしこにありますね。

 

 

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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