11月のテーマは「いっしょの絵本」【広松由希子の今月の絵本・99】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
11月のテーマは「いっしょの絵本」
握手もハグもままならぬこの頃ですが、「いっしょの絵本」をいっしょに読んで、内側から、ぬくぬくあったまりましょう。
まずは赤ちゃんや小さい子どもといっしょに『ここよ ここよ』を開いてみます。
描かれているのは、お母さんといっしょにいる動物の赤ちゃん。
大きなお母さんのどこかに、ちょっと隠れています。
「どこに いるの? コアラの あかちゃん」
と問われて、めくると、
「ここよ ここよ かあさんに おんぶよ」
と姿を表します。
さがして、めくってうれしい2拍子の絵本。
ニワトリの赤ちゃんは、母さんの羽の下に黄色い羽とくちばしがチラリ。
ラッコの赤ちゃんは、どこかしら?
表紙のカンガルーの答えは、裏表紙に。
あたたかな写実画で、動物絵本の第一人者だった薮内正幸さんが、なくなる前年に描かれた絵本。
赤ちゃんに話しかけるような、やさしい言葉は、「くまの子ウーフ」などでおなじみの神沢利子さんです。
いつもお母さんといっしょにいて、ひょっこり顔を出す動物の赤ちゃんたちを見て、人間の赤ちゃんたちもにっこり、安心できるでしょう。
『ここよ ここよ』
かんざわとしこ/文 薮内正幸/絵 福音館書店
本体800円+税 2003 (*初出は月刊絵本「こどものとも」1999)
『いっしょならもっといい』は、「ひとりで あそべるよ」というくらい大きくなった子どもたちへ。
ひとりもいいけれど、「ふたりなら もっと たのしくなる」。
シーソーも、手紙も、相手がいたら、もっと楽しいし。
荷車を運ぶのも、誰かが手伝ってくれたら、やる気がわくし、ブランコも、ボートも、お店屋さんごっこも……「ほらね」と、どんなに楽しくなるか見せてくれます。
この絵本のすてきなところは、ひとりを否定するのじゃなく、ひとりもいいけど「いっしょならもっと」というところ。
原題は“ONE IS GOOD BUT TWO ARE BETTER”です。
ひとりでも遊べるし、ひとりも楽しいけれど、ふたり、3人、4人……もっと増えたら?
あたたかく軽みのある絵で、ひとりでいる子もラストに近づくにつれ楽しい気持ちがむくむくふくらんで、「わいわい わーい」の読後感です。
1956年アメリカ発の絵本。
半世紀以上前の子どもの気持ちを、いま共有できるのも、絵本ならではのよろこびですね。
『いっしょならもっといい』
ルイス・スロボドキン/作 木坂涼/訳 偕成社
本体1200円+税 2011
『かあさんのいす』の主人公「わたし」は、もう少し大きい女の子。学校帰りに、かあさんが働く食堂に寄って、時には塩とこしょうのびんを洗ったり、玉ねぎの皮をむいたり、仕事の手伝いもできるんですからね。
かあさんの上司のジョセフィンが「なかなかやるわね」って、お金をくれることもあります。
そうしてもらったお金の半分は、必ず大きな「びん」に入れます。
かあさんも帰宅後に財布から小銭を出してくれるので、それも入れます。
おばあちゃんも、買い物で得したときは小銭をくれるので、それも。
おかあさんとおばあちゃんとわたしの、女3人暮らし。
みんなでコツコツ小銭を貯めて、びんがいっぱいになったら……ふわふわのきれいな、バラ模様の椅子を買うのです。
去年の火事で前の家が焼けてしまったこと、近所の人たちに支えられ、新しいアパートに越してきたけれど、仕事から帰った母さんのための椅子がないことが明かされます。
疲れた脚を広げ、硬い木の椅子で、眠りこけてしまう母さんのしどけない姿から、匂いが立ち昇るようです。
ついにびんがいっぱいになり、みんなで買い物に出かける様子からは、ウキウキわき立つ心が伝わってきます。
親も子もそれぞれが頑張って、支え合い、思い合う。
そして最後はバラ模様の椅子にかあさんといっしょに座った「わたし」の、しあわせな眠りにおちていく姿に、うっとり。
一人称で語る子どもの作文みたいな口調。温かいのに全然湿っぽくない、佐野洋子さんの訳語が秀逸。
『かあさんのいす』
ベラ B. ウィリアムズ/作・絵 佐野洋子/訳 あかね書房
本体1400円+税 1984
いっしょはすてき。でも、くっついていればいいってものでもないのよね。
『ねられん ねられん かぼちゃのこ』に出てくる「かぼちゃのこ」は、夜になってお月さまに「はやく ねなさーい」と言われても、寝られません。
なぜって、
「あたまに かえるさんが のってては ねられん ねられん」
かえるさんにどいてもらっても、
「せなかに いもむしさんが くっついてては」
いもむしさんにどいてもらっても、
「おしりに かなぶんさんが くっついてては」
とにかく
「ねられん ねられん」わけですね。
でもね、みんなどいちゃったら、それはそれで
「ねられん ねられん」。
ああ、いたっけ、わたしにも。いっしょでないと寝られない、だいじな存在。
ヘビのぬいぐるみだったり、毛布だったり、懐中電灯だったり……添い寝の友が。
にくめない駄々っ子を相手するように、半分呆れつつ、寝る前の対話をのんびり楽しんでください。
『ねられん ねられん かぼちゃのこ』
やぎゅうげんいちろう/作 福音館書店
本体900円+税2020
いつもいっしょ。
いっしょならもっと。
ときどきいっしょ。
いっしょでないと。
その年々で、いろんないっしょをたっぷり味わいたいものです。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
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