2020年4月23日

4月のテーマは「植物とあそぶ絵本」【広松由希子の今月の絵本・93】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

4月のテーマは「植物とあそぶ絵本」

春うらら。こんないい陽気だと、どこか遠くに出かけたくなるけれど……今は、お出かけもがまんの毎日ですね。自宅の周辺だけを歩きながら、アスファルトの隅っこにタンポポやぺんぺん草を見つけたり、ご近所のお庭の花木を眺めさせてもらったり、ささやかな春を味わっています。どこにも出歩かない植物が、黙ってそこに生えているのを見つけて、ふぅっと気持ちがほどけたりします。

植物の絵本って静かなものが多いと思っていたけれど、そうでもないみたい。今月は、楽しかったりおいしかったり、植物ともっとなかよくなれそうな絵本を開いてみることにしました。

4月のテーマは「植物とあそぶ絵本」【広松由希子の今月の絵本・93】の画像1

まずは、のんびりゆかいな新刊『うんめぇめぇし のはらのごはん』をいただきまーす。タイトルを読んだだけで、のたりのたり春の気分が広がりますね。

主人公は、うんめぇものに目ぇがない、めぇめぇふたごのヤギ、あんちゃんと、もなちゃん。調理器具や調味料をたくさんかついで「うんめぇ めぇし」を目ぇ指し、野原に向かいます。

あおむしさんの「うんめぇ」好物、新しい緑の葉っぱは、ヤギたちも大好き。でもミミズさんにとって「うんめぇ」土は……いただけないので、「つちふうみそ」にアレンジしたら、これも「うんめぇー」! 小鳥や虫、いろんな生きものから、うんめぇ食材を分けてもらって、工夫しながら下ごしらえ。それから、たらふく食べまくるかと思いきや……ただの食いしん坊ヤギじゃないんですね。夜には、なんと……!

あんちゃんともなちゃんは、食材といっしょに、いろんなインスピレーションを野原でもらっていたんですね。心躍る春の盛り付け、ワンプレート・メニュー「のはらのごはん」。作者のおくはらゆめさんは、クリエイティブな料理人でもあるのです。巻末には、ていねいなレシピもついていて、カンペキ! 親子で作って、「うんめぇー」と歓声をあげてください。

4月のテーマは「植物とあそぶ絵本」【広松由希子の今月の絵本・93】の画像2
『うんめぇめぇし のはらのごはん』 
おくはらゆめ/作 ほるぷ出版 
本体1400円+税 2020  

 

もうひとつ、楽しい新刊絵本『はやくちことばのさんぽみち』を。ふみちゃんとお父さんがお散歩しながら、身近に目にする草花や自然を読み込んだ早口言葉を言っていくんです。声に出して読み合ううちに、どんどんゆかいになってきます。

庭のすみっこでは、
  むらさきかたばみ
  おおきばなかたばみ
  ただの かたばみ

野原に行ったら、
  みたこと あるかな
  みな あぶらなの なかま

早口言葉が特技のわたし(ひそかな自慢)でも、なかなか難しいものも。春夏秋冬、海辺やキャンプ場で、公園や林で、小鳥や昆虫を観察したり、木の実で遊んだり……四季折々の15場面に15の早口言葉が織り込まれています。
父娘の散歩の幸せな時間を共有しながら、やさしい筆致で描かれた身近な自然に親しんで。物語絵本で、ことばあそび絵本で、科学絵本。巻末には、クイズもついていて、至れり尽くせり。ご近所散歩のおたのしみもふえそう。

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『はやくちことばのさんぽみち』 
平田昌広/文 広野多珂子/絵 アリス館 
本体1400円+税 2020

 

てのひらサイズの絵本『いっしょにおつかい』は、ほんとにひかえめなたたずまい。文も意外と多めですが、読み始めると引き込まれ、ふくふく朗らかな気持ちになってきます。

スージーは、おかあさんに頼まれて、すぐそばのホーシーフェザーおばさんの家へ、カップ1杯のはちみつを分けてもらいに出かけます。おつかいのメモをポケットに入れ、なかよしのうさぎのウィルを誘い、いっしょに散歩しながら行くことに。

腕を組んで野原を抜け、おばさんへのお土産に花をつみます。ヒナギク、ヨモギギク、キヌガサギクにアスターも。突然「ぐるるるる……!」と怖い獣の声が……と思ったら、ねこのトミーの声真似でした。トミーがあんまり笑うので、そのうち集まってきた野原のみんなにも笑い声がうつっちゃう。

「なにがそんなにおかしいの?」なんて水を差す大人はひとりも登場しません。心ゆくまで寄り道し、思う存分花をつみます。池ではボートに乗って、背の高いアヤメを、森の小道では小さなスミレやスズランを。そうして豪快な花束を作りながら、うんと遠回りしておつかいにいくんですね(途中で出てくる寄り道の地図にびっくり!)。だれも叱らないし、教訓もないし。どこかで落とし穴があるのでは……なんて予想はみごとに裏切られます。

おいしくて、楽しくて、ついおどっちゃう、とことん幸せな小さい人たちの世界。1955年刊、古きよきアメリカ絵本が、2019年に初邦訳されました。おやすみ前のひととき、のんびり子どもたちと共有して、楽しい明日を迎えましょう。

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『いっしょにおつかい』 
メアリー・チャルマーズ/作 福本友美子/訳 岩波書店 
本体1100円+税 2019

 

草花あそびの本もいろいろありますが、『はじめてのくさばなあそび』を見てみましょう。ハンディなサイズに、内容たっぷり。かわいいイラストと写真が心地よくレイアウトされ、眺めてうれしい絵本の作り。ハウツー本の派手なデザインや詳しすぎる説明が苦手な人にもおすすめです。

「はじめての」というだけあって、いきなり大技を披露しないところが、この本のスタンス。四季それぞれのイントロは、草花あそびの心根のような、季節そのものを感じることから。たとえば春は、まず素足で草の上を歩いて、足の裏から春を感じてみたり。花を見つけたら、しゃがんでじっくり向き合って。タンポポにはてんとう虫、ハルジオンにはハナムグリ……花に訪れる虫を見つけてみたり。

ああ、大人なわたしは、長いことそんなふうに草花に近寄っていなかった。遠目に「きれいね」と眺めるだけになっていたかも。花や葉っぱのにおいを、くんくんかぎましょう。いい香りだけじゃなくて、いろんなにおい。「はじめての」草花あそびは、好奇心をもって、草や花と親しむところから。

でも、素朴なようで、現代的な感覚の本でもあるんです。シロツメクサの花輪など、昔ながらのおなじみあそびを紹介した後で、「サクラのつぼみのことり」とか「アカツメクサのはりねずみ」とか、すてきな草花細工の写真を春の景色の一部にしてフレーミングして見せてくれる。これ、絶対インスタ映えするやつ……とそそられます。

赤ちゃんから、子どもを卒業していた大きい人たちまで、庭や道端で草花あそびに没頭するのも、いまどきオツな楽しみじゃありませんか?

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『はじめてのくさばなあそび』 
グループ・コロンブス/著 吉田奈美/絵 のら書店 
本体1300円+税 2006

 


なかなか出口の見えない季節。初夏の声を聞く頃に読みたいのは、
『きいちごだより』 古矢一穂/絵 岸田衿子/文 福音館書店 2001
動物たちが、自分の村のきいちごのことを、手紙に書いて教えてくれます。こんなにいろんな種類があるんだ! きいちごデザートのレシピもあります。

お庭いじりの気分の人におすすめしたい物語絵本は、
『にわのともだち』 おおのやよい/文・絵 偕成社 2009
イラストレーターで造園家のデビュー絵本。忘れられた植木鉢の気持ちに共感しつつ、季節の巡りが肌に感じられます。版元品切れ中なので、図書館などで探してみて。

ラストは、庭の植物にズームインしていた視線を、地球規模までズームアウト。
『もし地球に植物がなかったら?』 きねふちなつみ/作 真鍋真、ジョン・ブルタン/監修 あすなろ書房 2019
植物の視点から46億年の地球の歴史を振り返る、画期的な生命の歴史絵本。木版による画面が、目にやさしく美しい。長い時間に思いを馳せ、心が広がって、「植物、ありがとう」の気持ちに。

植物と絵本で、親子で安らかな時間が過ごせますように。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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