4月のテーマは「さかさま絵本」【広松由希子の今月の絵本・29】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
4月のテーマは「さかさま絵本」
「もう幼稚園なんだから」
「もう小学生なんだから」
「もうおにいちゃん、おねえちゃんなんだから」
4月は、ちょっと背伸びの季節。
進級・進学などで、ついつい親子ともに
はりきっちゃいますよね。
大人だって、そう。
よし、4月だ、英会話がんばろう。なんてね。
(4月号ばかりN●Kの語学テキストが売れるっていうし)
だから、ちょっとくたびれる頃(早い?)
まじめをひっくり返して。
ひねくれたり、ふざけたり、
視点を変えて、さかさんぼになったり。
というわけで、今月は、
ぐるり180度、さかさま絵本のすすめ。
まずは、おかしな格好で、
いかにもうれしげな表情の
『さかさんぼの日』。
ある朝、起きると、男の子は
「きょうは、『さかさんぼの日』に しようっと」
と、思いついちゃったんです。
パジャマを脱ぐと、まずコートを着て、
コートの上にズボンをはいて、
ズボンの上にパンツをはいて、
(ああ、絶対まねしたくなる)
階段もさかさんぼに降りて、
椅子も後ろ向きに座って、
おはようのかわりに、
「パパ、おやすみ!」
「ママ、おやすみ!」
妹にも「おやすみ!」
もっとすてきなのは、ここから。
パパとママと妹も、
さすが、この男の子の家族ですね。
かっちりまじめな顔して、
しれっとおかしな絵。
『はなをくんくん』のコンビが
60年以上前に描いた絵本です。
極上のあったかユーモアに包まれます。
『さかさんぼの日』
ルース・クラウス/作 マーク・シモント/絵
三原泉/訳 偕成社 本体1100円+税 2012
『こわくない こわくない』
の小さい「まーくん」もね、
さかさまばっかり言いますよ。
うん、こちらは第一次反抗期ってやつみたい。
公園で
「はとが いるよ」と教えても
「いない」
お風呂で
「あったかいねえ」と言っても
「あったかくない」
「ねんねしよ」と誘えば
「ねんねしない」
「じゃ おきてましょ」と言うと
「ねんねする」
で、夢におばけが出てくると……?
日々むきになってがんばっている
子どもも親も、思わずふふふ。
『こわくない こわくない』
内田麟太郎/文 大島妙子/絵
童心社 本体800円+税 2002
真っ当にがんばることにつかれたら、
ちょっと止まって考えるのも、いいかも。
逆立ちしながら考えたのは、
『くまくん』です。
「もしかして、ぼく、いま、さかさまに
なってるから “くま”じゃ なくて
“まく”なんじゃ ない?」
うれしくなって
「まくくん」のままでいると、
「りすくん」がやって来て、
いっしょに逆立ちします。
「そしたら、ぼくも“りすくん”じゃ なくて……。
ええと、ええと…………。」
さかさまになると、
あんまりうれしくない人もいるようです。
現れては逆立ちして去っていく、
「とらくん」、そして(お約束の)「かばくん」。
さらに、さかさまになると、一番困っちゃうのは?
日本語のシャレが、みごとにきいてる絵本です。
ひらがながわかるようになった子に。
おっとりくまくんの、
すてきに不毛な哲学の時間。
いいなあ。これも、まねしたい。
『くまくん』
二宮由紀子/作 あべ弘士/絵
ひかりのくに 本体1200円+税 2004
いたずらな絵本作家たちは、
「絵本」をさかさまにして、遊んじゃいます!
さかさま絵本の殿堂入りは、『さかさま』。
「きみたちは、さかさまだ」「きみたちこそ、さかさまだ」
けんかばかりしているトランプ王国の物語。
さりげないアイトリックも使われていて、
あれ? あれ? どっちが上?
本も頭もぐるぐるしながら、楽しめますね。
『さかさま』
安野光雅作/絵
福音館書店 本体800円+税 1981
アイトリックを使った
さかさま絵本といえば、
『光の旅 かげの旅』も圧巻です。
光と影で一日を表現した、白と黒の絵本。
夜明けから夜更けまで、
おしまいのページまで読んだら、
ぐるりと本をさかさまにして。
今度は、夜更けから夜明けまで、
さっきとはちがう、夜の光景のストーリーが楽しめるんです。
この不思議さが味わえるのは、5、6歳からかな。
いくつになっても、何度でも、
読むたびにびっくりの逸品です。
『光の旅 かげの旅』
アン・ジョナス/作 内海まお/訳
評論社 本体1300円+税 1984
ほかにも、
『めでたしめでたしからはじまる絵本』あすなろ書房(品切)など、
発想がぐるっと転換できる
さかさま絵本は、いろいろ。
まっすぐ前進ばかりじゃ、つかれちゃう。
ときどき立ち止まったり、
後ろに戻ったり、
さかさまになったりしながら、
ゆっくり大きくなりましょう。
子どもも、大人も。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
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