2018年1月23日

1月のテーマは「ひらく絵本」【広松由希子の今月の絵本・69】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

1月のテーマは「ひらく絵本」

今年もめでたく、あけました。
ということで、新年最初のテーマは「ひらく絵本」にしたいと思います。

いやいや、絵本はもともと「ひらく」が基本でしょ?
そうそう、そのとおり。ひらかなくちゃ、はじまらないのが絵本です。
思いきり「ひらく絵本」で、新年絵本ひらきぞめといきましょう。

1月のテーマは「ひらく絵本」【広松由希子の今月の絵本・69】の画像1

まずは「ちょろちょろかぞくのあかちゃん絵本」シリーズから、その名も『ひらきます』を。
おとうさんとおかあさんと子ねずみ3匹の家族が、「ひらく」と「とじる」について感覚的に教えてくれます。「感覚的に」というのは、ことばの説明はまるでないから。ページをめくると、いろんな「ひらきます」と「とじます」が交互に現れます。

目を大きく「ひらきます」と、静かに「とじます」。
口をあーんと「ひらきます」、食べ物を入れたら「とじます」……もぐもぐ。
本や新聞も、傘や財布も、戸棚や冷蔵庫も……「ひらきます」そして「とじます」。

そうして見ていくと「ひらく」というのは、一連の行動のはじまりにつながり、「とじる」というのは、終わりにつながっているということが、わかってくるでしょう。
本質的なことばの意味をおおらかに感じられる、シンプルかつふくよかな広がりのある、実はかなり珍しい赤ちゃん絵本だと思います。
一年のはじまりにふさわしい、ファーストブックをどうぞ。

1月のテーマは「ひらく絵本」【広松由希子の今月の絵本・69】の画像2
『ちょろちょろかぞくの ひらきます』
木坂涼/作 大森裕子/絵 理論社
本体800円+税 2005

 

こちらのケース入りの「ひらく絵本」は、懐かしい人も多いのでは。『じぶんでひらく絵本』ってタイトルも、幼い子どもを絵本の世界に誘い込みますね。
おさるのジョージで親しまれているH・A・レイが小さい人たちに贈る、よろこびの基本のような「しかけ絵本」です。

『おかあさんとこども』『さあ たべようね』『だれのうちかな』『サーカスをみよう』の4冊組。どの絵本も、見開きごとに右端が折りたたまれていて「どこにいるのかな」「なにしているのかな」「ひらいてごらん」と子どもに自分でひらかせるしかけになっています。そして、ひらくと、もう絶対! うれしくなる答えが待っているのです。

『おかあさんとこども』では、牝牛やめんどり、いろんな動物のおかあさんが子どもを呼んでいて、ひらくと、それぞれの子どもたちが現れるしかけ。
『さあ たべようね』では、動物園の飼育係や子どもたちが、おりに食事を運んでいて、ひらくと、いろんな動物がうれしそうに食べるところが見られるしかけ。

こんな単純なくりかえしが、ああ、ひらくってうれしいな、絵本って楽しいな、という気持ちをはぐくむんですね。

1月のテーマは「ひらく絵本」【広松由希子の今月の絵本・69】の画像3
『じぶんでひらく絵本』(4冊セット)
H・A・レイ/作 石竹光江/訳 文化出版局
本体1243円+税 1970初版/1991セット化

 

「ひらく」って楽しい、面白い。でも、そんな「ひらく」ばかりではありません。
ひらいちゃいけないと言われると、ひらかずにいられないのは、昔から大人も子どもも変わりません。
「つるのおんがえし」では、ふすまをひらいて見てしまったばかりに……「うらしまたろう」だって、開けてはいけない玉手箱をひらいてしまったばかりに……そんな悲劇と戒めはたくさん伝わっていますね。

『みるなのへや』という昔話もそうです。「みるなのくら」「みるなのざしき」あるいは「うぐいすの里」といった名前で、少しずつかたちを変えて伝わっている昔話のなかまです。
旅人が日暮れの山道でたどり着き、一晩泊めてもらったのは、美しい女主人の家でした。翌朝、主人は奥の部屋だけは見ないように言い残して、町へ出かけてしまいます。この旅人も、やはり好奇心をおさえられずに、ふすまを開けてしまうのですが……。

いけないと思いつつ、ひらくたびに息をのむ、幻想的な風景。ドキドキしながらひらいてください。
タブーを象徴する意味深な見返しにはじまり、ふすまの模様にも誘惑されます。やわらかい水彩で、艶やかに妖しく別世界へと誘う異色の昔話絵本です。

1月のテーマは「ひらく絵本」【広松由希子の今月の絵本・69】の画像4
『みるなのへや』
広松由希子/文 片山健/絵 岩崎書店
本体1400円+税 2011

 

最後に、この絵本をひらいて、深呼吸。荒井良二さんの『あさになったので まどをあけますよ』です。
2011年、東日本大震災の年に出版され、広く話題になった絵本ですが、年のはじめにひらくと、また新たな味わいがあるかもしれません。

じっくり読んでみましょう。
「あさになったので」……そう。朝はかならずやってくる。日はのぼる。新しい年も、やってきました。
「まどをあけますよ」……でも窓を開けるのは、人間です。あけなくちゃ、あきませんね。自分から少しだけ動いて「あけますよ」。
「やまは やっぱり そこにいて きは やっぱり ここにいる」……そうです。そこに「いる」んですね。「やっぱり」。いつものように。あるがままに。
「だから ぼくは ここがすき」……好きな主体は「ぼく」です。「ぼく」は、いま「ここ」が好きなんです。

おお、たった2場面読んだら胸いっぱい、字数もいっぱいになりました。年初にかぎらず、ひらくたびに、新しい気づきをくれる絵本です。

1月のテーマは「ひらく絵本」【広松由希子の今月の絵本・69】の画像5
『あさになったので まどをあけますよ』
荒井良二/作 偕成社
本体1300円+税 2011

 


今年も豊かな絵本との出会いが、親子でいっぱいありますように。
新しい絵本はもちろん、見知った懐かしい絵本とも、きっと新しく出会えるはずです。
いくつになっても新しい、今年の自分ですからね。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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