12月のテーマは「つくる絵本」【広松由希子の今月の絵本・68】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
12月のテーマは「つくる絵本」
この箱、なにかに使えそう。きれいなチラシ、とっておかなくちゃ……うーん、この性分、明らかに母親ゆずりです。大掃除の季節には頭が痛いけれど、子どもの頃から工作の材料に困ったことはありませんでした。
おかげで、不器用なくせに工作好きのわたし。ものをつくる絵本も大好き。今月は、見ているだけで、わくわくうずうずしてくる「つくる絵本」を紹介します。
ものづくりといえば、tupera tuperaさん。ハサミとノリといろんな素材を駆使した絵本は、どれも創作欲をツンツン刺激してくれますが、この『かおノート』は、欲を即、満たしてくれる文具絵本です。
気軽に工作しやすい、リング綴じのノートのいでたち。正方形のページには、ブタ、男の子、マトリョーシカ風、リンゴ、お皿……いろんな顔がほとんどのっぺらぼう状態で用意されています。「ほとんど」と書いたのは、ところどころ目鼻があったりして、誘い水になっているから。
巻末には、顔のパーツのシールがたっぷりついています。目や鼻や口はもちろん、髪に眉毛にひげ、ツノや涙や絆創膏まで、絵あり、写真あり、記号あり。うわー、ぜいたく!
好きなように描いたり、シールを貼ったりして、作者と合作でつくる絵本。ノートが自分だけの顔画集になっていく。あんな顔、どんな顔、へんな顔……血湧き肉躍ります。
『かおノート』
tupera tupera/作 コクヨS&T
本体1000円+税 2008
松田奈那子さんの『やさいぺたぺたかくれんぼ』は、指先のおぼつかない小さな子たちにも、つくって遊ぶわくわくを伝えてくれます。特別なものを使わなくても、いろんな野菜の切れ端だけで遊びがふくらむのね。
絵本の登場人物は、野菜の切り口スタンプです。おくらちゃんに、たまねぎちゃん。ゴーヤくんに、ピーマンくん。なすちゃんに、にんじんくんに、れんこんちゃんに、ほうれんそう……なじみの野菜ばかりだけれど、個性豊かな表情は大人の目にも新鮮です。
絵本の中では、この野菜スタンプたちがかくれんぼしますよ。オニになったおくらちゃんといっしょに探しましょう。ネコやイヌの鼻づらにかくれたのは「ピ」のつく野菜でしょ。魚のウロコのふりしているのは「セ」のつく野菜?
こちらの巻末には、野菜スタンプの遊び方も。彫刻刀やカッターを使う芋版はまだ手が出せなくても、これならペタペタ押すだけですからね。年賀状やカードも親子で合作できるし、布用の染料を使えば、オリジナルの園グッズもできます。
絵本を読み終わったら、残り野菜の眠る冷蔵庫に突進? おせち作りの副産物で、スタンプもいっぱいできそうですね。
『やさい ぺたぺた かくれんぼ』
松田奈那子/作 アリス館
本体1100円+税 2015
材料をながめて「なにができるかなー」と思いをふくらませる時間も、工作の醍醐味。
大森裕子さんの『なにができるでしょーか?』では、見開きページいっぱいに、バラバラの材料が散らばっていて「なにができるでしょーか?」と、まず読者に推理させます。
材料を組み立てるのは、たくさんの小人みたいなちっちゃな動物たち。たとえば、31匹のおさるたちがワイワイガヤガヤ寄ってたかって力をあわせてつくるのは?
めくると現れる完成作に、思わず歓声。おさるたちがつくっていたのは、「ちょうスピードで はしり”さる”!」もの。なーんだ?
どれも子どもが目を輝かすような、楽しいおもちゃ。
そうか。おもちゃだって、最初からあるんじゃなくて、もとはバラバラの材料なんだ。たくさんの手がつくっているんだなって、プレゼントシーズンに気づくのもいいかも。
『なにができるでしょーか?』
大森裕子/作 白泉社
本体1000円+税 2015
次は、作者と絵本の中の人たち(その名もワークマン!)と読者が力をあわせて「つくる絵本」。読む絵本と、描きこむワークブックがセットになった唯一無二の絵本『ワークマンステンシル』です。
2色の絵本。力仕事をする人たちは黒いシルエットで、その他の道具はオレンジ色で描かれている、体の動きに注目させられます。
まず登場するのは、黒猫のお兄さんやS川男子のような「運ぶ」人たち。運ぶものの形や大きさがちがえば体の使い方も変わりますね。
それから、ガテン系代表「工事する」人たち。掘ったり、押したり、切ったり、建てたり、ダイナミックな動きで、体に力がこもります。
そして、憧れの「乗る」人たち。馬、パトカー、白バイ、船に蒸気機関車……乗り物によっても、運転するのか指示するのか、役割によっても動作がちがってきます。
最後は……どんな仕事にも必要な動きが待ってますよ。そう、1年の締めくくりにも大切な仕事ですね。
顔も名前もないけれど、あらゆる動作を見せてくれる人たち。実は全部、付属のステンシル・テンプレート(型抜き定規)を使って描けちゃうんです。帽子から靴、胴体から指先まで、23個のシンプルな型の穴が空いているだけのペラッと薄いシートなのに、画期的! 作者の三浦太郎さんが2年かけて考案したものだそう。
絵本をもとに、アレンジを加えながら、ステンシルを使ってワークブックに取り組んで、もう一冊の自分仕様の『ワークマン』を仕上げましょう。
絵本から飛び出して家中あちこちに、もっといろんなポーズのワークマンを出現させちゃってもいいですね。
絵が苦手でもステンシルの魔法で、大きい子どもたちも、大人も、いっしょに夢中になれますよ。
『ワークマンステンシル』
三浦太郎/作 こぐま社
本体2300円+税 2014
今年の締めにもう1冊、『ローラとつくる あなたのせかい』を紹介させてください。子どもの頃の自分に読ませたいなと、つくるときめきを思い出しながら訳した絵本でした。
表紙を開くと、ほうっとためいき。見返し一面にに黄色い丸がちまちまいっぱい並んでいます(この「ちまちま」に弱いんです)。どうやらこれは図書館本の背表紙に貼ってあるような丸ラベル。それぞれの丸に青鉛筆でちょこちょこ描き足し、いろんなものに見立てているんですね。クマ、お月さま、テーブル、カタツムリ、風船……。
作者のローラ・カーリンは、世界が注目するイラストレーター。ローラ自身が一人称で、読者に親しく語りかけてくる絵本です。もし、自分の世界をつくるとしたら、どんな風につくる? たいくつな行列を面白くするには? 家を好きなように改造するなら? 近所や学校はどんな風? 新しい動物も発明しちゃう?
ローラは「自分ならこんな風にするかな」と、みるみる楽しい世界をつくっていきます。色鉛筆や絵の具、写真やはり絵、段ボール工作や日用品などの立体も取り込んだ遊び心に富んだ画面が、読者の創作意欲をかきたてます。身近なものから自由にアイディアをふくらませるヒントが満載。
じょうずへたなんて関係ないの。ものの見方、考え方はひとりひとりちがうもの。自分の世界を描いたりつくったりするのに、正しいとかまちがっているとか、ありませーん。楽しむのがいちばんだって、作者の思いが伝わってきます。
うん。まだ真っ白な新しい年、もっと自由に自分の世界をつくれる気がしてきます。
『ローラとつくるあなたのせかい』
ローラ・カーリン/作 ひろまつゆきこ/訳 BL出版
本体1800円+税 2016
はみだし情報。2017年、わたしが即買いしたときめき工作本は『ぺぱぷんたす 001』(小学館)。「かみを もっと もっと たのしんじゃう ほん」「4歳から100歳まで」親子で遊び倒せるぜいたくムック本です。
アートディレクションは祖父江慎さん。荒井良二、鈴木のりたけ、せなけいこ、谷川俊太郎、tupera tupera、100%ORANGE、ミロコマチコ……豪華アーティスト陣(敬称略)も豪腕をふるっていますよー。紙好き、工作好きなら、ぜひチェックしてみて。
娘の卒園文集の「おかあさん」についての紹介文は、他のおかあさんの「おりょうりがじょうず」「やさしい」などに交じって、ひとりだけ「こうさくがすき」でした……。
子どもも大人も、つくるって楽しいよねぇ。
冬休み、ちょっと風邪気味の日も、いっしょに読んでつくって、楽しい時間を。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu