2022年10月27日

「『ふりかけのかぜ』にしようか?」と聞くと食卓に戻る娘。おかずを食べてくれないときに、助けられた絵本【柏木智帆さんちの食卓・3/我が家のごはん日記】

 忙しいママにとって、日々の家事の中で悩ましいのがごはんのこと。適度に手を抜きたいけれど、家族には栄養のあるものをバランスよく食べてもらいたい。では、食にかかわるお仕事をしているママたちは、家族のごはんをどうしているの? 

今月の担当はお米ライターの柏木智帆さん。米農家のご主人、3歳の娘さんと3人暮らしで、福島・会津地方で「米文化の再興」と「米消費アップ」をテーマに活動しています。

柏木智帆さんちの食卓 #week3

〈日曜日・夜〉

いくら好きな娘が前週からずっと「いくらたべたい」と言い続けていたので、冷凍しておいたいくらの醤油漬けで手巻き寿司をすることにしました。

用意した具材は、きゅうり、納豆、玉子焼き、アボカド、しそ、山椒の佃煮、白ごま。ベジタリアンの夫のために魚介抜きのラインナップですが、娘用にいくらの醤油漬け、私用にはウニの身をホッキ貝の殻に盛り付けて蒸し焼きにした福島県いわき市の郷土料理「うにの貝焼き」も用意しました。

お米は義兄と夫の農園で栽培している「ひとめぼれ」。加水量を少なめに炊き、砂糖の代わりに蜂蜜を使った寿司酢と3年熟成の赤酢を混ぜ込んで酢飯を作りました。赤酢は少量だけ混ぜ込むと風味の癖も少なく、赤色をしているためムラなく混ぜやすくて便利です。私は甘い味付けが苦手なので、いつも甘さ控えめに仕上げます。

数日前から「お休みの日はいくらだよ!」と予告しておいたのですが、いくらを見た娘はなぜか固まってしまい、首をうなだれていました。不意打ちをくらってすぐに喜べなかったようですが、「わあ〜! いくらだ〜!」という反応を予想していた私も不意打ちをくらいました(笑)。

食べ始めると嬉しそうにしていたのでほっとしましたが、娘の反応は読めないことだらけです(笑)。

今回は3合だけ酢飯を作りましたが、あっという間になくなってしまいました。あと0.5合ほど多くてもよかったかな。手巻き寿司って知らず知らずのうちに酢飯をたくさん食べているのですよね。私が子どものころ、某企業のCMで「土曜日は手巻きの日」と言っていましたが、毎週1回手巻き寿司を楽しむ家庭が増えたら、もしかしたらお米の消費がアップするのでは……と感じました。いつもそんなことばかり考えています。

〈火曜日・夜〉

ご近所さんから親芋付きの里芋をいただいたので、子芋のほうで「里芋と厚揚げの煮物」を作りました。

下茹で中にふきこぼれてしまい、ガスレンジ上が片栗粉あんのようなとろんとろんの水だらけ。里芋は稲作伝来よりも前に日本に伝わっていたというから、粘りを好む日本人のお米の嗜好性はこういう粘りに起因しているんだろうな。そんなことを考えながら掃除しました。

この日のお米は、夫が「ササシグレ」という品種を育てていた田んぼで発見した大粒米。他の農家から譲り受けた種もみがコンタミ(他の品種の種もみが混ざること)していたようですが、夫はこのお米を「イムヌス」と名付けて毎年育てています。ラテン語で「賛美歌」という意味です。大きな粒が口の中でごろごろして、夫曰く「栗みたいな風味」。たしかにそう言われてみればそんな風味も感じられるような……。

左は魚沼産コシヒカリ、右がイムヌス。かなり大粒です。

「里芋と厚揚げの煮物」が薄味なので、ごはんが進むように「きのこみそ」も作りました。椎茸としめじと大豆の水煮を炒めて味噌とみりんと酒で味付けした甘辛系ごはんのおともで、近所のスーパーに置いてあったテイクフリーのクッキングガイド『ふれ愛交差点』にのっていたレシピです。知っている人、きっといますよね。「大豆で腹いっぱいになる」と夫。さすが“畑の肉”。

ねぎみそを挟んで焼いた栃尾の油揚げはジューシーな“ベジタリアン・ステーキ”。日本酒も合います。

私の毎日の晩酌は決まって日本酒。アルコールでもお米の消費を促進しようという魂胆もありますが、単純に日本酒はおいしい。たまには休肝日を作ろうかなと検討中ですが、いつまでも検討中が続いています。

〈水曜日・昼〉

毎朝、娘のお弁当を作っています。

本来はこども園で給食が出るのですが、入園した当初の娘は「小麦」「乳製品」「ごま」「卵」の“クアドラプル・アレルギー”。トリプルまでは対応できてもクアドラプルはさすがに対応できないとのことで、お弁当持参になりました。その後、卵は食べられるようになり、“トリプル・アレルギー”になったものの、医師と相談して今でもお弁当持参が続いています。

ところが、娘は基本的におかずをあまり食べません。白ごはんは必ず完食してくるのに、おかずは残食率が高いこと。いろいろな味を体験することも大事かもしれませんが、まずは完食を目指そうということで、娘が食べてくれるおかずでお弁当を作るようにしてきた結果、今では「白ごはん」「味玉」「かぼちゃの塩煮」に落ち着いています。

この日も、その“鉄板おかず”を入れたお弁当。以前は鶏卵の味玉でしたが、娘が喜ぶので最近はうずらの味玉ばかりです。

かぼちゃは福島県・金山町の特産品「金山赤かぼちゃ」と同じ品種。オレンジ色の皮に、目玉のようなヘソを持つホクホク系の甘いかぼちゃです。金山町産ではないので正式には「金山赤かぼちゃ」と名乗れませんが、会津地方のスーパーや道の駅などには同じ品種のかぼちゃが出回っています。

裏側、へその部分が目玉のようです。

娘は醤油やみりんなどで炊いた一般的な「かぼちゃの煮物」は食べませんが、水と塩だけで炊いた「かぼちゃの塩煮」は大好き。お弁当生活が始まった当初は、「茶色い弁当」のおいしさを娘に伝えようとしていましたが、最近はなんだか「黄色い弁当」になってきたな。

〈水曜日・夜〉

昨日までとは打って変わって急激に冷え込んだ日だったので鍋にしました。

料理家・冨田ただすけさんのレシピは好きな料理が多く、毎年秋冬になると決まって「ごま豆乳鍋(ヴィーガン)」を作ります。ごまアレルギーの娘のために、ごまは鍋には入れず、後から各自でかける方式にしました。

娘は鍋に手を伸ばしませんでしたが、お弁当用の「うずらの味玉」と「かぼちゃの塩煮」の残りは食べてくれました。結果的に昼とまったく同じメニュー(笑)。

こんなふうに、娘は決まったものしか食べてくれず、白ごはんだけは必ず食べるのですが、たくさん食べるときもあれば、数口で終わりのときもあります。この日も、ごはんを数口食べたら自分でエプロンを外して椅子から降りてしまいました。すかさず、「『ふりかけのかぜ』にしようか?」と聞くと、「うん!」と言って再び椅子に座り直しました。

娘は『ふりかけのかぜ』(文・ねじめ正一、絵・伊野孝行、福音館書店)という絵本を読んで以来、ふりかけごはんをたくさんおかわりしてくれるようになったのです。

「ふりかけのかぜがやってきた〜!」と言いながらふりかけをかけてあげると喜んで食べてくれます。赤じそ、食塩、梅酢が原材料の「しそもみじ」というふりかけが娘のお気に入り。

大人の私が読んでもふりかけごはんを食べたくなる絵本で、多くの人たちが読んだらきっと日本のお米の消費量がアップするに違いない……と思えるほど。私はこれから「おすすめの絵本は?」と誰かに聞かれたら、迷うことなく「ふりかけのかぜ!」と答えるでしょう。

〈金曜日・夜〉

小麦アレルギーで“チュルチュル系”が好きな娘のために、実家の母が米麺を送ってくれました。

以前はうどん風の米麺だったので味噌仕立ての鍋の具材として入れたら娘は喜んで食べていました。しかし、これはパスタ風。味噌鍋にパスタは合うのだろうか……と躊躇しました。

これまで紹介してきたように、わが家の食事は基本的にお米を中心とした和食。どうやって食べようか悩んだ末に、そば屋のカレーうどん風に出汁をきかせたカレー鍋を作り、そこにパスタ風の米麺を投入することにしました。もちろん主食はごはん。

結局パスタで「カレー“うどん”風」ですが、カレーの懐の深さがすべてを受け止めてくれるはず。カレー好きの娘も食べてくれるに違いありません。

ところが、痛恨のミスを犯しました。

カレー鍋が辛い!

後ほど、反省点を洗い出したところ、3つの問題がありました。

1.娘のカレーを作るときは唐辛子を入れずにスパイスをミックスしていたが、過去に市販のカレー粉を少量使った料理を食べてくれたので大丈夫だと思い、今回もカレー粉を使ってしまった。
2.さすがにカレー粉の使用量が多かった。
3.以前に使っていたカレー粉と最近購入したカレー粉の原材料を見比べると、最近購入したカレー粉のほうが唐辛子の割合が多かった。

今回にかぎって「たべたい」と言われたらどうしようと思いましたが、娘はカレー鍋には手を伸ばしませんでした。結果的によかったのか何なのか……。

インドでヨガ修行していたこともある夫は「辛いけどうまい」と平気で食べていましたが、スパイスのせいか唐辛子のせいか、私は食後にお腹が痛くなり、翌朝まで喉がヒリヒリ。栃尾の油揚げがカレー鍋に合う!という発見があったことだけは収穫といえば収穫でした。

〈土曜日・夜〉

この日は十三夜。

十五夜の日は娘と一緒にお月見団子を作りましたが、この日は娘がこども園で不在のため、午前中に私一人でお月見団子作り。夜に食べるため固くならないように、白玉粉と絹ごし豆腐で作る「豆腐白玉」にしました。なんと冷蔵庫に入れても翌日まで柔らかいまま。

今回は、白玉粉100gと、キッチンペーパーで軽く水気を吸った絹ごし豆腐140gをこねて作りました。最近、懐かしの歌「だんご三兄弟」が好きな娘のために串に3つ刺し、みたらしあんを絡めてあげると、喜んで食べていました。

一緒に盛り付けたのは夫が山で採ってきたサルナシとアケビ。キウイ好きの娘は似たような味のサルナシが大好き。ほとんど1人で食べてしまいました。

夕食は、ご近所さんからいただいた里芋の親芋で「里芋ごはん」。煮物にすると「やはり子芋のほうがいいなあ」と思ってしまうのですが、これは「里芋ごはんには親芋だよね!」と思えるおいしさ。

おかずは、里芋を主役とした醤油ベースの鍋。お月見にちなみ、玉こんにゃくやうずらの卵も入れて「まるまる鍋」と名付けました。うずらの卵好きの娘は食べてくれるかなと思ったのですが、ひとくちも食べず……。この日も「ふりかけのかぜ」をかけたごはんを何杯もおかわりしていました。

この日から夫は毎年恒例の「農民藝術」の製作を開始。米農家の夫は稲刈り時期に毎年違うテーマの奇怪な稲干しを作っていて、これを私は「農民藝術」と名付けました。脱穀までの期間限定という儚さと季節感があり、干した後はお米として販売もしているという実用性も兼ねたアートです。ちなみに稲は火曜の夜ごはんで紹介した「ササシグレ」。「ササニシキ」の親にあたる品種です。

単管パイプを組んで、刈った稲をパイプにかけていき、翌日には完成しました。今年のテーマは「ヤマタノオロチ」。日本神話に出てくる大蛇で、8つの頭と尾を持っています。たしかに稲干しには頭のようなものが8つありました。

0歳の頃から夫の農民藝術を見ている娘は今年で4回目。稲干しと一緒に写っている娘が年々大きくなっているのが感慨深いな。

柏木智帆
かしわぎちほ/お米ライター。神奈川新聞の記者などを経て福島県の米農家に嫁ぎ、夫と娘と共に田んぼに触れる生活を送っている。年間200種以上の米を試食しながらその可能性を追究し続け、「お米を中心とした日本の食文化の再興」と「お米の消費アップ」をライフワークに、お米の魅力を伝える活動を精力的に行っている。娘のお弁当生活が始まり「茶色いお弁当」のおいしさを伝えるべく奮闘中。今後は米食を通した食育にも目を向けている。

Instagram: @chiho_kashiwagi
Blog「柏木智帆のお米ときどきなんちゃら」: https://chihogohan.hatenablog.com/

連載中
「お米ライターが探る世界と日本のコメ事情」(Forbes Japan)
「お米偏愛主義論」(朝日新聞 DIGITAL 論座)

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