ヨシタケシンスケさんの親子ライフ拝見!「安心して悩める環境を作ってあげたいなって思います」【後編】
2020年10月16日

ヨシタケシンスケさんの親子ライフ拝見!「安心して悩める環境を作ってあげたいなって思います」【後編】

超人気絵本作家のヨシタケシンスケさん。デビュー作『りんごかもしれない』発売の1年後、kodomoe本誌で行った貴重なインタビューを全文公開します!
絵本の世界に入ったきっかけや子ども時代についてお聞きした前編に続き、後編では、奥様やお父様のことから子育てについてお話ししてくれました。

※kodomoe2014年8月号に掲載の誌面を全文公開。記事内容は取材当時2014年のものです

冷蔵庫にあるもので
おいしいものを作る

苦手なことより、好きなことを選びながら、思いつきを書きとめる独自のスタイルでイラストレーターに行きついたヨシタケさん。前に出られない子どもに日々ハラハラしているお母さんへアドバイスはありますか?
「親としては、やっぱり前に出なさいって言わなきゃいけないんですよ。ただ、ぼくみたいな子には、同じような子はたくさんいること、そして、前に出るの嫌だなって思ったまま大人になる人もいるってことは、ちゃんと知っておいてほしい。親は、なんでおまえだけできないんだと追いつめすぎないで、ある程度言ったら、あとは本人の好きなようにさせてあげてほしいです。勇気を出そうみたいな話は簡単ですけど、もうすこし選択肢の幅を広げたいなって。もっと違う言い方でハードルを下げられないかって考えますね。

そういうのをテーマに絵本ができたらいいですね。嫌なことをやらなきゃ成長はできないし、好きなことも見つからない。だから好きなこともきらいなことも両方やって、嫌なことがあるなら、どう嫌だったかをちゃんと覚えておこうとか、じゃあなんだったら好きなんだろうっていう考え方をしようとか……そういう“嫌がり方のセンスを磨くこと”が一番大事なんじゃないでしょうか。
ただ嫌がるんじゃなくて、どう避けていくか。ぼくは引き算でものごとを考えていて、できないことをどんどん引いて、できることを最大限に引き伸ばして今の仕事につなげてるんです。
足りないものを探すんじゃなくて、今持っているもの、冷蔵庫にあるものだけで、なにかおいしいものができないかな? 自分の中にある要素をどう組み合わせたら面白くなるかな? そういう考え方もあるっていう提案ができるだけで、救われる子がいると思うんです」

ヨシタケシンスケさんの親子ライフ拝見!「安心して悩める環境を作ってあげたいなって思います」【後編】の画像1

ロフトの上は遊びのスペース。屋根の傾斜をいかした設計の秘密基地風。

そんなヨシタケさんの考え方は、ご自身の作品全体にもよく表れています。
「あらためてよく考えるとこれは面白いなあっていう発見がぼくは好きで。通勤電車で毎日同じルートを通っている中でも、見落としているだけで実は見えるものがいっぱいある。
学生時代作っていたものも、ひとつの道具を提示してあなただったらどう使いますか? っていう立体作品とか、最終的に見てくれた人の体験や感情をはめこむ隙間が空いているかどうかが大事で。なにかを思い出したり発見するきっかけだけを提示する、そういうものが作れるとぼくは嬉しいんです」

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ヨシタケさんの立体作品「ハンガーなで肩」。さあ、あなたならどう使う?

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庭にはブランコ。やんちゃなふたりが走りまわる。

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長男の大気くんは絵が得意。あちこち飾られた作品がとてもチャーミング。今夢中になっているスターウォーズの登場人物も。(取材当時)

 

妻はぼくを巻き込んでくれる人

「妻は最初、人づてにアトリエへ遊びに来たんです。ぼくのポートフォリオを見せてもふーんって。こんなに早く本を閉じられたのは初めてだって印象に残ったんですけど(笑)。今でも、ぼくの仕事にはたいして興味ないんです。ぼくの作品で全部読んだのは絵本が初めてですから。彼女は家族を扶養できてさえいれば、ぼくがなんの仕事をしててもいいんですよ。
だから逆に、安心して自分の今興味あることをできるって意味では気が楽なんです。趣味は合わないけど、同じものを食べておいしいねって言い合えるだけで十分だよね、という感じです。

あと、ぼくだけではできないことを、巻き込んでやらせてくれる人。結婚生活もそうだし、子育てもそうだし、いろんなことを体験させてくれてるってことでは、感謝してますね」

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インテリアはセンスのよい奥様、祐子さんの担当。玄関の棚に息子さんの作品や雑貨を並べて。

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祐子さんは子育てが落ち着いて、子どもの絵を使った雑貨ブランド「くりひょうたん。」を始めた。布バッグ、クッション、モビール。どれもオシャレであったかい。http://www.kurihyotan.net

 

父を好きだった頃を思い出せた子育て

「父親になる前から子どもの絵は描いてたんですけど、町でみかけるかわいいところだけを見てた感じなんです。でもうちの中でぎゃーってなってるのを見ると、ただかわいいだけじゃないなと。こんなにもイラッとするんだな、やってみないとわかんないなって。
あと、育てるときは、すべてを一から教えなくちゃいけないから、自分が、もう一回考え直すきっかけにもなる。信じるってどういうこと? とか普通に聞いてきますからね。信じるって、ええとなんだっけって(笑)。
子どもの目を通して、世の中や大人って理不尽だよねとか、いろんなことを考えるので、すごく面白いですよね。

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物置から出てきた昔のベビーベット。素敵だったのでとってある。

ぼくはあんまり父親と仲良くなかったんです。センスが合わなくて。よくある話ですが、タイプが違っていてわかりあえなかったんですよね。息子から嫌われる父っていう父親像があったから、子どもは女の子がいいなって思ってました。
でも、息子ができて遊んでいるとき、昔の記憶がよみがえってきて、これくらいの頃、お父さんのこと好きだったなって、ふいに思い出したんですよね。記憶ってどんどん上書きされて最終的な感情だけが残っちゃうんですけど、その感情を思い出せたのは、子どもを持ってよかったことのひとつですね。

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身長をはかった柱のしるし。ヨシタケさんが子どもの頃のものも。

息子には、つまずいたときに落ち着いて悩める子になってほしいですね。大人から見たらくだらないことを悩んだのはぼくも同じだから、できないこと、嫌いなことがちゃんとあるっていうのを、どうやって人生の役に立てられるかを教えてあげられるかもしれない。一般的にこうじゃなきゃだめっていうのとは違う伝え方を、ぼくならできるだろうなって思うんですよ。だから、安心して悩める環境を作ってあげたいなって思います」

Profile

よしたけしんすけ/1973年神奈川県生まれ。『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)『りゆうがあります』(PHP研究所)『もうぬげない』(ブロンズ新社)『なつみはなんにでもなれる』(PHP研究所)『おしっこちょっぴりもれたろう』(PHP研究所)で、MOE絵本屋さん大賞第1位を受賞し、5冠に輝く。『つまんない つまんない』で、2019年ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞を受賞。著作に『それしか ないわけ ないでしょう』『ものは言いよう』(ともに白泉社)など多数ある。
http://www.osoraku.com/

INFORMARION

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『あつかったらぬげばいい』ヨシタケシンスケ/著 白泉社 本体1000円+税
2020年8月25日発売。子ども、大人、おじいちゃんのさまざまな疑問に痛快に答える、大人も子どもも楽しめるヨシタケシンスケさん最新絵本。MOE2020年3月号ふろく絵本に加筆の上、大増ページで登場です!
https://www.hakusensha.co.jp

ヨシタケシンスケさんの親子ライフ拝見!「安心して悩める環境を作ってあげたいなって思います」【後編】の画像10『りんごかもしれない』 ヨシタケシンスケ/著 ブロンズ新社 本体1400円+税
ヨシタケシンスケさん初の絵本作品『りんごかもしれない』は、第6回MOE絵本屋さん大賞、産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。考えることを楽しめる、発想の絵本は、ヨシタケさんのデビュー作であり代表作にもなっています!

イラスト/ヨシタケシンスケ 取材・文・山縣彩 撮影/黒澤義教 (kodomoe2014年8月号掲載)※取材時2014年のものをウェブ用に再編集しています

 

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