2016年9月19日

9月のテーマは「ちいさな絵本」【広松由希子の今月の絵本・55】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

9月のテーマは「ちいさな絵本」

長くて激しい夏が、やっと過ぎましたね。
あたりを見回すと、ちいさい秋の気配が、そちこちに。

今月は、すこし心落ち着けて、
ちいさい人たちと、ちいさな絵本を読んで、
ちいさな「いいもの」をみつけたいと思います。

9月のテーマは「ちいさな絵本」【広松由希子の今月の絵本・55】の画像1

まずは、細い線画で描かれた
『ちいさなちいさなおんなのこ』に、目をこらして。

この幼い女の子は、
バラの木よりも、
台所の椅子よりも、
お母さんのお針箱よりも、ちいさいのです。
垣根の向こうは見えないし、ドアの取っ手にも届きません。

近所の誰よりもちいさかった女の子が、
ある日……!

消え入りそうにかよわくて、
守ってあげたいような、
ちいさな女の子が、
りっぱにお姉さんになっていく様子が、すてき。

原書は1953年作。
もとは、作者が姪に送った誕生カードだったそう。
子どもにとっての成長のよろこびが、自然に伝わるはずです。

そして、この装丁。
カバーも、色違いの本体表紙も、
背表紙も、裏表紙も、見返しも、
絵本自体が、まるごと愛らしく、眺めてにんまり。

9月のテーマは「ちいさな絵本」【広松由希子の今月の絵本・55】の画像2

『ちいさなちいさなおんなのこ』
フィリス・クラシロフスキー/文 ニノン/絵
福本友美子/訳 福音館書店
本体1100円+税 2011

 

 

女の子の後は、ぐっと成長して、おばあちゃんをどうぞ。
年は重ねても、このおばあちゃんは、
『ちいさなちいさなおばあちゃん』なんです。

ちいさなちいさなおばあちゃんは、
ちいさなちいさな家に住んでいて、その家の中には、
ちいさなちいさなテーブルと、ちいさなちいさな椅子があり、
ちいさなちいさなネコがいて……

なんでもかんでも「ちいさなちいさな」
繰り返しのテンポと、あっと驚くラストが、楽しい。
各国にかたちを変えて伝わっている、民話がもとになった絵本です。

『ペレのあたらしいふく』(福音館書店)などで親しまれている
スウェーデンの絵本作家、ベスコフのデビュー作。
1897年の作というから、ピーターラビットより古い!

刺繍枠みたいな丸い画面に、
さまざまな植物が控えめに装飾されています。
自然を愛し、家庭を愛したベスコフの、
やさしい手仕事を見るような気持ちがします。

120年も読み継がれている古典絵本ですが、
今の子どもにそっと語りかける
最後のページの思いやり、
「ちいさな台詞」もお見逃しなく。

9月のテーマは「ちいさな絵本」【広松由希子の今月の絵本・55】の画像3

『ちいさなちいさなおばあちゃん』
エルサ・ベスコフ/作 いしいとしこ/訳
偕成社 本体1200円+税 2001

 

 

次に登場いただくのは、『ちいさなおうさま』。
ほかの本とちがって、
どーんとアップの登場ですが、
どれくらいちいさいかって……ちゃんと、ちいさく表紙に書いてあるんです。

「これは ちいさな おうさまの
ほんとうの おおきさです。」

なるほど、縦27センチの絵本の
これが実物大! と、納得。
さらにめくっていくと、ちいささを実感できますよ。

ちいさなおうさまは、
ベスコフのちいさなおばあちゃんの生活環境とは、正反対。
大きな兵隊たちに守られて、大きなテーブルに大ごちそう。
乗りものも、おふろも、ベッドも大きくて、
居心地悪いったら、ありゃしない。

さらに、結婚した相手が
「おおきな おひめさま」だって。
さて、どうなるのかな?

『くっついた』などの赤ちゃん絵本で
大人気の三浦太郎さんの
グラフィックセンスと楽しい物語が
幸せに結びついた逸品です。

ロシア・アヴァンギャルドや
アメリカのミッドセンチュリーを彷彿とする
レトロな趣もただよう、おしゃれな画面。
子どもも大人も、とりこにします。

9月のテーマは「ちいさな絵本」【広松由希子の今月の絵本・55】の画像4

『ちいさなおうさま』
三浦太郎/作 偕成社
本体1200円+税 2010

 

 

ちいさい尽くしの極めつけは、
『ちいさな ちいさな めに みえない びせいぶつの せかい』です。
微生物! そりゃあ、ちいさいでしょうとも。

といっても、
実際どれほどちいさいかは、
よくわかっていませんでした。

「ありの しょっかく いっぽんに
なんぜんまんも のっかれる」
と聞いて、へえーっ。

さらに、その
「しょっかくを くじらくらいに おおきくしないと、
めに みえないほどなんだ」
と聞いて、ほおーっ。

微生物という、子どもには(大人にも)
ピンとこない目に見えない「生きもの」の秘密を、
わかりやすくて楽しい文と絵で、解き明かしてくれます。

自分の肌の上に、
地球上の人口よりも、たくさんの微生物が住んでいて、
おなかの中には、もっともっと
その10倍から100倍も住んでいるって。

微生物が集まれば、
山を削ったり、海を染めたり、雪を降らせたり、
とんでもない大事業もやってのけるって。

事実を伝えるだけじゃない、
豊かでゆかいなノンフィクション。
科学絵本というと、苦手意識のある読者も、
物語絵本を楽しむように、引き込まれて読めます。
5歳くらいから、親子でいっしょにワクワクしてください。

9月のテーマは「ちいさな絵本」【広松由希子の今月の絵本・55】の画像5

『ちいさな ちいさな めに みえない びせいぶつの せかい』
ニコラ・デイビス/文 エミリー・サットン/絵
越智典子/訳 ゴブリン書房
本体1500円+税 2014

 

 


もしかしたら微生物に負けないくらい
ちいさい主人公『小さな小さな魔女ピッキ』(徳間書店)は、
小学生以上におすすめ。

ちいさな器に秘めたパワー。
目に見えないちから。
ちいさいって、すごい。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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