2016年7月4日

7月のテーマは「キャベツな絵本」【広松由希子の今月の絵本・53】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

7月のテーマは「キャベツな絵本」

本棚からキャベツの絵本を集めてみたら、

思った以上に、おかしな絵本が集まりました。
キャベツには、頭をおかしくさせる成分が微量入っているんですってね。

……そんなウソをつかれても、
うっかり信じてしまいそうなラインナップですよー。

7月のテーマは「キャベツな絵本」【広松由希子の今月の絵本・53】の画像1

キャベツ絵本の筆頭は、
「ブキャ!」とのけぞる『キャベツくん』です。

頭がキャベツのキャベツくんが歩いてくると、
おなかのすいたブタヤマさんに出会います。
「キャベツ、おまえをたべる!」
つかみかかるブタヤマさんに、キャベツくんは
「ぼくをたべると、キャベツに なるよ!」

「ブキャ!」
鼻がキャベツになったブタヤマさんが、空に浮かんで見えます。
「じゃあ、ヘビが きみをたべたら、どうなるんだ?」
「こうなる!」

タヌキが食べたら、ゴリラが食べたら、カエルが食べたら……どうなるの?
おかしなキャベツとの合体図が、
「こうなる!」と現れては、
「ブキャ!」と、びっくりする繰り返し。
子どもたちも、ひっくりころげて笑います。

英語で「キャベツ頭」というと、石頭のことだそうですが、
日本のキャベツは、やわらかいですからね。
頭を柔軟にほぐしてくれます。

おかしくて、途方もなくて、
地平線の見える風景に、心がせいせい広々します。
やさしい余韻が、風にのって流れていきます。

7月のテーマは「キャベツな絵本」【広松由希子の今月の絵本・53】の画像2

『キャベツくん』
長新太/文・絵 文研出版
本体1300円+税 1980

 

 

イギリスから輸入した豪華なキャベツもありますよ。
『キャベツ姫』は、シニカルなおかしさと、華麗な絵の
昔話風創作絵本。

昔、おこりんぼうで口の悪い王さまがいました。
よく気のつくお妃さまには
「おいぼれのめんどりめ」
おしゃれな王子さまには
「あたまのなかみも、くじゃくなみじゃ」
恥ずかしがり屋のお姫さまには
「おまえはいくじなしの、ぼんくらキャベツじゃ!」

ある日、「森の王」と名乗る小さな男が現れ、
お姫さまを息子の花嫁にほしいと言います。
かんかんに怒った王さまが、罵詈雑言で追い返すと、
言った悪口がすべて真実になる、魔法をかけられてしまいました。

さあ、たいへん。
究極の、口は災いの元!
あんまりな光景に、笑いもひきつったりして。

ゴージャスでユーモラス、ひねりのきいたル・カインの自作絵本に、
灰島かりさんの訳語がベストマッチです。

7月のテーマは「キャベツな絵本」【広松由希子の今月の絵本・53】の画像3

『キャベツ姫』
エロール・ル・カイン/作 灰島かり/訳
ほるぷ出版 本体1400円+税 2002

 

 

ほのぼのおかしいキャベツ絵本もありますよ。
『ゆうこのキャベツぼうし』って、
のどかなタイトルからして、思わずにっこり。

ゆうこが畑のそばを通りかかると、
おばさんが、大きなキャベツをくれました。
おひさまが照ってきたので、キャベツの葉っぱを1枚はがして
ぼうし代わりにかぶります。

前が見えなくて、「どん!」

ぶつかったのは、こぐま。
こぐまにも「キャベツぼうし」を1枚あげて、歩いていくと、
こぶたも、つねこも、うさぎも、出会うみんながキャベツぼうしをほしがります。

おそろいのぼうしをかぶって、「おおかみおに」をして遊んでいると、

「おれは おおかみだぞー
つかまえて くっちゃうぞー
キャベツぼうしも くっちゃうぞー」

本物が現れた! いったいどうなる?

でも、だいじょうぶ。
ほんとに平和で幸せでおいしい世界観。
かぶってよし。遊んでよし。食べてよし。
みんな大好き、キャベツぼうし。

たっぷりの余白、ささやかなディテールに遊びが隠れてる。
『ぐりとぐら』で、世代を超えておなじみの画家の
のんきにゆかいな自作絵本です。

7月のテーマは「キャベツな絵本」【広松由希子の今月の絵本・53】の画像4

『ゆうこのキャベツぼうし』
やまわきゆりこ/作・絵 福音館書店
本体900円+税 2008

 

ちがうの。
キャベツになりたくはないし、かぶりたくもないの。
ただただキャベツを食べたいの。
もっとも切実な願いのこもった一冊を、おしまいに。

『キャベツがたべたいのです』
そのまんまのタイトルが、ドーンと強烈に主張する表紙。
キャベツの中からチラッとのぞいているのは、だれ?

そう、青虫。
でも、ふつうの青虫とは、ちょっとちがいました。

大人になっても
青春(青虫)時代の甘美な味が忘れられず、
花の蜜をおいしく吸うチョウチョになりきれないのです。
願いはただ、「キャベツが たべたい! それだけです!」

でもチョウチョになってしまった彼らの
ストローみたいな口では、キャベツをかじることができません。
そんなチョウチョの嘆きを聞いて、
強力な助っ人「やおやのおじさん」が登場します。

自らの欲望にとことん忠実なチョウたちが、
シャッキリムシャムシャ、
キャベツをかじって食べるための秘訣とは??

ユニークな語彙と物語力、
ツボをおさえたおかしみとムリヤリ感が絶妙のバランスで、
ふしぎな説得力のある絵本です。

シュールな設定の登場人物の気持ちも感染して、
シャッキリムシャムシャ
キャベツが食べたくなりそうです。

7月のテーマは「キャベツな絵本」【広松由希子の今月の絵本・53】の画像5

『キャベツがたべたいのです』
シゲタサヤカ/作 教育画劇
本体1300円+税 2011

 

 


赤ちゃんは、キャベツ畑で生まれるという言い伝えもありますね。

キャベツがとんかつだけでなく、
子どもの絵本と相性抜群なのも、うなずける気がします。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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