2023年12月28日

思春期の子どもに性の話をするときは軽い「ジャブ」から。性をオープンに話せる社会は、子育てが楽になる社会【「タベコト」連載中・日登美さんインタビュー・後編】

ドイツを拠点に「台所から子育て、暮らしを豊かに」をコンセプトに活動し、kodomoe web の連載も好評のモデルの日登美さんに、性教育をテーマにお話を伺う記事の後編です。前編では、幼児期、学童期、思春期と発達に応じて、子どもと性について考えるきっかけについてうかがいました。でも実際子どもと向き合ってみると、「こんなことを聞くのは恥ずかしい」となかなか切り出せないこともしばしば……。6人の男女を育ててきた日登美さんに、複雑なお年頃の子と、性のことを話すコツを伝授していただきました。

男の子にも生理の話を。お互いの幸せを願う温かい「性教育」のすすめ【インタビュー・前編】はこちら
日登美/ひとみ

3男3女6児の母。10代よりファッションモデルとして雑誌、広告等で活躍。その後自身の子育てから学んだ、シュタイナー教育、マクロビオティック、ヨガなどを取り入れた自然な暮らしと子育てを提案した書籍、レシピ本など多数出版。現在はモデルとして活躍する傍ら、オーガニック、ナチュラル、ヘルシーをモットーに、食、暮らしと子育てのワークショップ、オンライン講座などを行う。
kodomoe web「日登美のタベコトin Berlin」連載中!
台所から子育て、暮らしを豊かに。「Mitte(ミッテ)
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 肌の触れ合いはいいことか悪いことか

――学童期の後半や思春期になってくると、身体の変化や異性への興味を感じることが多くなります。日登美さんはそういう部分で不安になることはなかったですか?

たとえば日本では、思春期に息子が彼女を連れてきて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝て1泊していくなんて、もうとんでもない!という感覚だと思います。でもドイツでは、それを問題視する雰囲気は周りにはありません。もちろん「一緒に寝なさい」とは言わないけれど、幼少期からモラルが育っていれば、一緒に寝ても何ら問題ないと考えるのが当たり前だったんです。性教育でセックスを教えるなら、自分や相手を傷つけないようにする気持ち、犯罪が起こらないようにするモラルが、一番大事な学びですよね。お互い幸せに生きていきたいっていう願いが、性教育のベースだと私は考えています。思春期に相手や自分が傷つく結果を生むセックスをしてしまう子は、そこが育っていないのかもしれません。

そもそも、人が肌を触れ合わせることは、恥ずかしくていけないことでしょうか? 私はブラジルとドイツと日本で暮らしてきて、文化としての身体への触れ方は大きく違うと感じました。コミュニケーションとして、日本人はおじぎをしますが、ドイツ人は深い握手、ブラジル人はほっぺにキス。国民性の違いですが、その肌の触れ合いで、性の感覚は変わってくると思います。

海外に住むようになって、挨拶としてハグしたり、肌で触れ合うことが多くなったことはよかった、と思っています。自分の子どもを見ていると、大きくなっても親に抱きしめられることで安心感を感じているんだなと感じます。「あなたのことを大事に思っている」ということって、言葉で伝えにくいじゃないですか。ちょっとしたことで「大丈夫?」って背中をさすったり、悲しいときに抱きしめたりすることが、大きくなっても自然にできたのはよかったです。そういう肌の触れ合いや愛情の延長線上に、セックスもあるのだと思います。

思春期に積極的な声かけは必要?

――思春期になると、たとえば自分の身体のことが気になってるんじゃないかと気づくこともありますが、そういうときはこちらから声をかけた方がいいと思いますか?

性のことは、積極的に教えようとすると、だいたい引かれますね(笑)。そういう雰囲気を感じたときには、深刻にならないよう、さりげなく話題にするといいですよ。私が実際にやっていたのは、ご飯を食べた後、お茶碗を洗いながらさりげなく「なんかさー、ママね、仕事で性教育の話があって、包茎のこと聞いたんだけど、包茎って知ってる?」と話しかけたりしましたね。子どもは目を合わせずうるさがる感じで「知ってるよ」と答えてくれました。「だよね、そうだと思った!」「どうやっておちんちんとか洗ってたんだっけ。ママ教えてなかったよね」なんて軽く言ってみたりね。

暮らしの中にちょうどいい間っていうのがあるんですよ。洗濯物畳みながら、背後に子どもの気配を感じたときとか。そういうときに、「テレビで見たんだけど」「本で読んだんだけど、こういうのって大変だよねー」と、生活の話題と同じように切り出してみます。向こうも、お母さんわざと言ってるなと気づくんだけれど、聞きたい内容だからのってくることも多いです。学童期、思春期には、お母さんからのそういう「ジャブ」を出すのも有効ですね。

――性教育以外でも、そのジャブは役に立ちそうですね。ただ、性のことをオープンに話していくことに、子ども自体が躊躇してしまうところもあります。

親が性に対するタブー感を持たないことは大切なんですが、何も、お母さんが性教育を全部担う必要はないんですよ。お父さんとか、親戚のお兄さんとか、近所のおじさんでも、信頼できる大人がいることって大切だと思うんです。いろんな輪の中にいて、逃げ道を作っておくというのが重要です。いくら親子で信頼関係ができていても、子どもが「親を悲しませたくない」とか「親に怒られるかもしれない」と考えて言えないこともあるのが思春期です。そういうときに、「親には言わないでね」って話せる大人がどこかしらにいると、自分のプライベートを守りながら、尊厳を守ることができる。そういうことも全部含めると、暮らしの中で性教育をするって、けっこう幅広い捉え方でいいかなって思うんですよね。

性をオープンに話せる社会は子育てが楽になる

――おうちで性教育をしていると、外で子どもがTPOを考えず、性のことをオープンに話してしまわないかということもドキドキします。

いままで一般的でなかったことをオープンにするのって、心理的な負担はあると思うんです。でもきっと日本もこれから、ジェンダーや国籍の問題が表立って出てくると思います。外国の方がすごく多くなっていますよね。自分は日本人だから、男だから、結婚していないから関係ないという考え方では、社会が幸せになりません。同性愛で悩んでいる子や、早期妊娠した子に対して、社会全体が冷たい態度を取ることがありますが、自分の子がそうだったら、あいつはふしだらだで済ませられないじゃないですか。何がその子にとって一番幸せかを考えていけることが解決策であって、法律や制度を考えるのはその次ですよね。

これって、食育と一緒だなと思うんですよ。うちは、白砂糖を食べなかったり、玄米を推進する食生活をしてきて、子どもたちにとっては一般的じゃなかったと思います。娘が思春期のときは反発されましたが、いまでは感謝されてほっとしています。一般的かどうかではなく、私はこれがいいって思えばいいこと。今は多数決やそれまでの常識よりも、本当に大事だと思うことをやって行くべき時代じゃないですか。30年後にはそれがスタンダードになるかもしれないですよ。昔は男の子がピンクなんて……って言われていたけれど、いまはそれもいいじゃんという社会になってきています。それと同じじゃないかな。

――確かに、一般的じゃないからオープンに話せない、ということでは、いつまでたっても性の問題や困りごとを陰で抱えていかなきゃいけない状況は変わりませんね。

実はユネスコが提示した「性教育の指針」というのもあるんですよ。それもおおもとは、健康と福祉、人権の尊重、男女平等の促進といった包括的セクシュアリティなんです。私も講座をやるうちに、幼児期からの温かな触れ合いがいかに影響を及ぼすかというところにたどりつきました。触れ合いが人類を救うっていうのがテーマだったんですよ。

大変な子育てをこなすお母さん、お父さんたちに対しても、みんなで温かく迎えて、社会全体でほめたたえていこう!と言いたいです。お母さんがバスにベビーカーで乗ったら「チッ来るなよ」なんて言われる社会じゃダメなの。誰に対しても愛情を持てることが実は性教育になり、子どもの安心になり、ひいては社会の幸せになります。みんなで相手の幸せを考えていくことになるというのが、性教育のゴールですね。

インタビュー/日下淳子 撮影/成田由香利 

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