本物よりも、おいしそう!『おかしのずかん』ができるまで。大森裕子さんオンライントークを特別公開
2021年7月9日

本物よりも、おいしそう!『おかしのずかん』ができるまで。大森裕子さんオンライントークを特別公開

『おかしのずかん』発売を記念して4月7日に開催された、大森裕子さんのオンライントーク。書店員さん向けの限定イベントでしたが、たくさんのリクエストにお応えして、webで特別公開します! 「本物よりもおいしそう」と話題騒然の『おかしのずかん』をはじめとする、コドモエのずかんシリーズがどのように作られているのかを、たっぷり語ってくださいました。

『おかしのずかん』ができるまでの流れ

――大森さんの「ずかん」シリーズを担当しております、森と申します。本日聞き手を務めます。最初に、最新刊『おかしのずかん』ができるまでの流れを、簡単に教えていただけますでしょうか。

はい、よろしくお願いします。

1 メモ・台割

まずはいろいろ調べながら、お菓子の世界の全体像がどんな感じかな、とメモをします。その後、台割り(ページ構成)を作り、専門家の監修の先生からアドバイスをいただきます。

↑お菓子の世界の全体像を把握するためのメモ。

↑台割の第1稿。ページ構成のたたき台。

2 スケッチ

ざっくりとスケッチします。初めて見るお菓子もたくさんあるので、お菓子に対して「はじめまして」という気持ちで描きます。カップケーキは本番に使ったのは1種類だけですが、デコレーションが特徴なので、この段階ではいろいろ描いています。ダコワーズは初めて見るお菓子なので、こんな形のお菓子なんだ、というのを自分の中に落とし込むために描きます。

3 ラフ

ページ全体のレイアウトがわかるように、原寸の120%のサイズでラフを作ります。ずかんシリーズはいつも最後のほうにちょっとふざけたページがあります。お菓子のときは、コロコロお菓子大集合というページになったのですが、この段階では、「かし」という文字の入った言葉遊びで、「かかし」とかをお菓子で作ったら面白いんじゃないかと考えていました。

↑『おかしのずかん』P.2〜3のラフ。

↑『おかしのずかん』P.22〜23のラフ。ボツになったネタ。

 

4 下描き

OKが出たら、本番の絵のための下描きをします。原寸の120%くらいの大きさで、ラフより細かく描写します。パイの層も一枚一枚描きます。ページを大胆に使いたいので、断ち切りにするお菓子もあるんですけど、せんべいの丸さがちゃんと感じられるよう、紙を継ぎ足して描いたりしています。ラストシーンは、今までのシリーズで描いてきたペンギンなどのキャラクターを全員入れました。

↑『おかしのずかん』P.2〜3の下絵。

↑『おかしのずかん』P.14〜15の下絵。実際は切れて見えなくなるせんべいも、紙を継ぎ足して、全部描く。

↑『おかしのずかん』P.26〜27の下絵。

 

5 本描き

本描きをします。原画は、印刷したものより発色がいいと思います。 

↑『おかしのずかん』P.2〜3の原画。

 

画材について

――書店員のみなさんからご質問をいただいています。特に多かったのが、「どんな画材を使っていますか?」。

私は基本的に色鉛筆で描いています。主にホルベインの「アーチスト色鉛筆」の150色を使っていて、15年くらい愛用しています。2年くらい前から、フェリシモの「500色の色えんぴつ TOKYO SEEDS」も使い始めました。短くなってもう使えなくなったものも、かわいいので捨てずにとってあります。

描線は、ラフみたいなざっくりとしたスケッチを描くときはステッドラーや三菱のBの鉛筆です。本描きでは、鉛筆だと描いているうちに線が太くなってしまうので、『めんのずかん』の頃から0.2ミリのシャープペンシルを使い始めました。キャラクターの描線は水性ペン、キャラクターの彩色はパソコンです。

色鉛筆はカッターで削っています。画材も手の延長だと思っているので、手の先の先の一番大事なところの、削りの角度や丸み、あえてとんがらせないようにしたり、そういう部分も繊細に調節したいんですよね。以前は、机で描いて、足元のゴミ箱の上で削ってまた戻って、という作業をしていたのですが、最近は同じ机の上ですぐ削れるように、タッパーを置いています。

                                                                                                                                                                      

「今、削りたい!」と思ったときに、ゴミ箱までのワンアクションが惜しくて削らずに描いてしまって、やっぱり削ったほうがよかった……ということがよくあったので。色鉛筆が短くなったら、補助軸を使っています。これも、持っているところが手とつながっている感覚なので、いろいろ試しました。今は伊東屋さんの補助軸(ヘルベチカ・ペンシルエクステンダー)を使っています。

色鉛筆って、色を重ねていくと、それ以上重ねられなくなってしまう物理的な限界があるんですよね。『ねこのずかん』のとき、猫の毛を一本一本描きたいのにもうこれ以上は重ねられない……「そうだ! 絵の具を使ってみよう」と思って、アクリルガッシュを使い始めました。透明水彩や不透明水彩も試しましたが、色鉛筆に負けてしまってうまく色がのらなかったので、アクリルガッシュがベストという結論になりました。猫のひげを描いたり目の輝きを入れたり、それ以降多用しています。

――質問がきています。「どうやったら、この食材にはこの色を使おう!と思いつくのですか?」

描きたいものを見ると、大体「この色とこの色とこの色かな」とぱっと思いつくので、それを手に取る。違う色を取っちゃうと、これは違うなってなんとなくわかる感じです。

でも、『めんのずかん』で、加熱した豚肉がどうしてもうまく描けなくて。夕飯を食べているときに、私の夫は大学で美術史を教えているんですが、夫に「豚肉が描けないんだよね」ってつぶやいたら、「豚肉には紫が入っていると思うよ」って言われたんですよね。「それだ!」と思って、パステルカラーのやわらかい紫を下地に置いてから、ベージュをのせた。すると一気に形ができて、豚肉が初めて描けた気がしました。それまでは、ベージュ3色ぐらいで描こうとしていたんですよね。

「白」にも、いろいろな顔があると思っています。『おかしのずかん』で白の描き分けについて説明しますね。

例えばパフェのガラスから透けているクリームは、紙を活かした表現にしていて、ほぼ紙の白です。一方、パフェのいちごの下に絞り出されたクリームは、色鉛筆の明るいグレーなどで描き込んでいます。また、みたらしだんごの照りは、アクリルガッシュを水で薄めたものをさっとのせています。

ガレットのシロップの光はアクリルガッシュですが、水で薄めないで、濃い白をのせています。ドーナツの粉糖も、茶色の生地を描いた後に色鉛筆の白はのらないので、アクリルガッシュでちょんちょんと描いています。

ポン・ヌフの赤いジャムの照りは色鉛筆の白です。ホルベインの色鉛筆は白に2種類あって、油分の強い「ソフトホワイト」を使うと、ある程度色がのります、ジャムの赤と混ざり合うような光の表現ができます。

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