2021年7月9日

本物よりも、おいしそう!『おかしのずかん』ができるまで。大森裕子さんオンライントークを特別公開

――メインの画材はやはり色鉛筆。「色鉛筆だけでこんなに描き分けができるよ」ということで、今回のトークのために、3色だけの色鉛筆でパンを描きおろしてくださいました。

角度やスピードやタッチののせ方でずいぶん違う表現ができるということをお伝えしたくて、描いてみました。左がカレーパン、右がまるパンです。カレーパンは最初暗い茶色と黄土色を、そして最後に明るい黄色をのせていっています。最後まで紙の目を生かす感じで……そうするとカリッとした質感が出ます。

まるパンは逆で、まず明るい黄色で全体の形を描きます。そのとき、紙の目をつぶすように強い筆圧でぐいぐいと描きます。次に黄土色をのせて、最後に濃い茶をのせています。描き終える頃には、紙はツルツルのテカテカに。するとツヤッとした質感が出ます。濃い茶色はどちらのパンも「OP099」ですが、違う色のようです。まるパンの方が、バターがたっぷり入った感じになっていますよね。

『おかしのずかん』で、紙の目を生かす・つぶすの、もう一例です。左が大福、右がさかまんじゅう。このふたつって質感が全然違いますよね。大福は粉っぽくてずっしりしていて、さかまんじゅうはツヤっとした感じ。大福はざらっとした紙の目を生かして、さかまんじゅうは筆圧マックスで描きます。

チョコレートはわかりやすいかなと思うんですけど、ザッハトルテの上面はぐりぐりと紙の目をつぶす、ガトーショコラの断面は、ほわほわと紙の目を生かした感じで描いています。

おいしそうと思っていただけるのって、案外細かいところをちゃんと描く、というのが大事なんじゃないかなと思っています。たい焼きだと、型からはみ出した、強く火が入ってカリッとしたところとか。逆にあんこがたっぷり入ってお腹が重くなっている感じのところは、色鉛筆のストロークを大きめに動かして、中のあんこが透けているのを表現したり。

お団子のツヤや照りを描くのは当たり前なんですけど、私がつい注目してしまうのが、串のところに付いた団子の生地。このちょっと棒にはみ出しているところ、4本とも形を変えています。こんなに魅力的な部分、絶対同じには描かないぞ!と(笑)。

――主役でないところにこだわることで、主役が引き立つ。

ただ遊んでいるだけなんですが……。『パンのずかん』で、あんぱんのごまが一粒落ちているのもそうですね。

――私が汚れかと思って間違えて消してしまった、小さい粒ですね!

今回の『おかし』でも、生地がぽろっと落ちているところを印刷会社の方が汚れだと思って気を利かせて消してくださって、あとで戻していただいたり(笑)。

「白」の描き分けに戻りますが、粉糖は、パティシエが振っていくうちにだんだん積もっていって、上のほうでまださらっとしているところと、生地に染みこんでしっとりしているところがある気がして、それを描き分けられたらなと。

左のヴィクトリアサンドイッチケーキは、アクリルガッシュを水で多めに溶いて点々を描いていくところと、あまり水を溶かないで濃い目に描いているところがあります。あんドーナツは、一度粉糖を描いたあとに色鉛筆で茶色くつぶしていって、また白をのせて、と試行錯誤をしています。家族に見せると、特に次男がおいしそうじゃないとダメ出しをしてくるので(笑)、そのときはやり直します。

ケーキの断面は、カットしたとき、ショートケーキならクリームが断面のイチゴについたり、ミルクレープなら間にはさまっている生地にちょっとついたりしますよね。断面をきれいに描いた後に、さっき言った「ソフトホワイト」という色鉛筆で、ざっざっとくっついたクリームをのせています。自分が包丁になった気分で。

次は和菓子。桜餅と柏餅なんですけど、葉っぱが全然違いますよね。柏餅は厚みがあってかさっとしていて、葉っぱの裏面が外側に来ているから少し色が薄い。桜餅はしっとりしていてピンクが透けている。

私の好みになっちゃうんですけど、今回ソフトクリームは絶対ミックスがいいと思って。どっちかだけじゃなくて、両方味わいたいので。ソフトクリームを見たときに、バニラとチョコの境目が妙にうねうねしてたんですよね。なんでこうなるのかわからないけれど、なぜかそうなっている。そういうところを見つけたら絶対に逃さないぞ、という気持ちで描いています。

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