2015年3月25日

3月のテーマは「桜絵本」【広松由希子の今月の絵本・40】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

3月のテーマは「桜絵本」

桜はきれい。
桜はうれしい。
桜はかなしい。
桜はめでたい。
桜はこわい。

桜は、日本人の心を
さまざまに映すもの。
絵本の桜を眺めてみると?

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満開の桜に囲まれた、ふたり。
『じいじのさくら山』には、
小さい「おれ」と「じいじ」が過ごした
たいせつな季節が描かれています。

うれしいことがあるたびに、
じいじが植えた桜の木々は、今では空に届くほど。
「ちびすけ さくら みにいこう」
いっしょに「さくら山」を登りながら、
木に声をかけたり、草花遊びをしたり。
じいじは、草花や虫のことをなんでも知っています。

「じいじは すごいな」
おれが いうと、
笑って応える、じいじの口癖。
「なんも なんも」

冬が来て、病気で寝ついてしまったじいじ。
「しんぱい ごむよう
なんも なんも」

おれはひとりでさくら山に通い、
桜の木に手を合わせます。
「じいじを げんきに してください」

青空に映え、美しすぎる花。
桜には、人の心が通じる、不思議な力があります。
そして春が巡るたび、やさしい記憶をよみがえらせます。
 

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『じいじのさくら山』
松成真理子/作 白泉社
本体1300円+税 2005

 

 

表紙や見返しを、桜のモチーフが彩る
『くものすおやぶんとりものちょう』は、
虫の漫画家として知られる作者の捕物帳絵本。
目明かしは、くものすおやぶんこと、オニグモのあみぞう。
春爛漫の江戸の(虫の)町で、ハエトリのぴょんきちを連れ、大活躍します。

明日は、むしまちの春祭り。
花見団子が評判の和菓子屋「ありがたや」に
盗みの予告状が届きます。

「こんや くらのなかの
おかしを ちょうだいする
かくればね」

不敵な盗人「かくればね」の正体とは?
桜の木の上で見張りをしていると、白い怪しい物体が飛んできます。
「ええい、ごようだ」
「いってえ、こりゃあ なにごとだ」

一時は撒かれたかと思いきや、
「かぜも ねえのに、やけに
さくらが ちるじゃねえか」

さすが、親分。
事件のカギは、桜。
大団円の結末も、桜。
江戸の夜桜、風雅な花見を堪能ください。
 

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『くものすおやぶんとりものちょう』
秋山あゆ子/作 福音館書店
本体800円+税 2005

 

 

昔話の桜といえば、
そう、灰で花を咲かせるおじいさんが、いましたね。
日本中に、最も多様に広がっている五大昔話のひとつ、
『花さかじい』です。

やさしいおじいさん、おばあさんに
可愛がられて育った、白い犬。
ある日、山へおじいさんを連れていくと、
「ここほれ、わんわん!」
金銀さんごが、ざっくざく。

それをねたんだ隣のおじいさんとおばあさん。
犬をこき使い「ここほれ、わんわん」を強要すると、
へびやむかでが、ぞろぞろざわざわ。
隣のおじいさんは腹をたて、犬を殺してしまいます。

死んだ犬は木になり、うすの姿になって、

ついには、燃されて灰になり……
子どもの頃は、犬がかわいそうと思っていましたが、
何度ひどい仕打ちを受けても、こりないおじいさんらのたくましさ。
そして何度でも生まれ変わる犬の生命力に、感じ入ります。

素朴に美しい形、色の展開に目を委ねていくと、
現れるクライマックスシーン。

「かれ木に 花を さかせましょう」

あたり一面、花ざかり。
桜の中に、丸顔のおじいさんの笑顔。
ああ、めでたい。

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『花さかじい』
広松由希子/文 堀川理万子/絵
岩崎書店 本体1300円+税 2010

 

 

桜前線北上中、なんてニュースを
見るたび、聞くたびに、
日本は、やっぱり桜の国だなあ。
そして、やっぱり南北に細長いんだなあ。
と、感じます。

『新幹線のたび~はやぶさ・のぞみ・さくらで日本縦断~』は、
読みながら、それを体で実感します。
主人公は青森在住、鉄子の少女。
雪降る「新青森駅」を朝の6時に出発し、
お父さんと新幹線で南下していきます。

まずは東北新幹線「はやぶさ」で東京駅まで。
それから東海道新幹線「のぞみ」に乗り換えて。

見開きごとに、名所や風景の描き込まれた日本列島を
北から順ぐりに鳥瞰できます。
右から左へ、駅名の書かれた路線図を追い、
時間の経過を感じながら、車内の乗客の様子とあわせて見ていく。
不思議な臨場感が味わえる造り。

雪が消え、上着を脱いで、景色もだんだん春になる。
新大阪駅で、山陽新幹線「さくら」に乗り換えて……
夜には、桜の花びら舞う、鹿児島中央駅へ到着します。

終着点には、やはり桜。
電車好き、旅好き、絵探し好き、桜好き……広く愛される絵本です。
 

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『新幹線のたび~はやぶさ・のぞみ・さくらで日本縦断~』
コマヤスカン/作 講談社
本体1500円+税 2011
*『DX版 新幹線のたび 特大日本地図つき』
(2014)もあります。

 

 

「日中韓平和絵本」シリーズの一冊の『さくら』では、
戦中に子ども時代を過ごした作者の体験に基づいて、
桜のイメージが様々に描かれます。

誕生や入学のめでたい記憶も、桜の情景と結びついていますが、
国語の教科書の最初のページが
「サイタ サイタ サクラガ サイタ」
そして
「ススメ ススメ ヘイタイ ススメ」
と続く、国定教科書の時代です。

戦地へ兵隊を送り出すときも、
「バンザーイ!」と、めでたい桜が。
軍歌は、桜の花のように美しく散れと歌い、
多くの命が散っていくのでした。

戦後70年目の桜は、どんな桜?
幼い子どもたちの上に、静かに桜は散っていきます。
 

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『さくら』
田畑精一/作 童心社
本体1600円+税 2013

 

 


絵本で花見。
ほかにも、
小さい人には、桜の花びらと遊びたわむれる
『ほわほわさくら』(くもん出版 連載17に掲載)
など、おすすめ。

しだれ桜の盆栽に引き込まれる
『ぼんさいじいさま』(ビリケン出版)では、
命の尊さ、美しさが桜と重ねて見えてきます。

 

 

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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